世界のメディアを支配し始めたロシアと中国

12月7日(金)6時0分 JBpress

モスクワで開催された日露メディアフォーラム(筆者もスピーカーとして参加)

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 ロシアにいて最近よく思うのは、近いうちに世界のメディアの潮流を、中国とロシアが支配するのではないか、ということだ。

 近年、この2か国のメディアの接近は、目を見張るものがある。そう聞くと、何だか不気味な予感がしないだろうか?

 中露メディアの蜜月を説明する前に、日本とロシアのメディア交流の現状を見てみたい。

 さる10月25日、モスクワで日露メディアフォーラムが開催された。


日本とロシア、初のメディアイベント

 マスコミ関係者のみを対象にしたイベントが日露間で開催されるのはこれが初めてだ。筆者もロシアメディアで働く日本人ということで、スピーカーとして登壇した。

 フォーラム開催のきっかけは、デジタル発展通信マスコミ省のコンスタンチン・ノスコフ大臣の提案による。

 今年7月、野田聖子氏が日本の総務大臣として初めてロシアを訪問したとき、「日露でメディアフォーラムをやりましょう」という話になっていたのだ。

 その後の内閣改造で総務大臣は交代したが、メディアフォーラムの話は残った。日露交流年である2018年のうちに開催したい、という関係者の意向で、急ピッチで開催に漕ぎ着けた。

 ロシア側からはデジタル発展通信・マスコミ省のアレクセイ・ヴォーリン次官や、国営新聞「ロシア新聞」のエフゲーニー・アボフ副社長など、業界のトップが参加した。

 ヴォーリン次官は元ジャーナリストで、若かりし日にはジャカルタ特派員を務めたこともある。

 日本には、ロシアでいうところのマスコミ省にあたる省庁はない。実際のところは別として、形式上、マスコミは権力から一歩距離を置いた存在だ。

 なので、日本側は参加者を「動員」することはできない。あくまで、参加しませんかと提案するだけだ。


新聞社やネットメディア関係者の姿はなく

 結果、一部の地方局や、コンテンツ販売会社の代表者らが呼びかけに応じたが、ロシア側が期待していた新聞社やネットメディア関係者の姿はなかった。

 結果として日露で参加者の業態がだいぶ違ったため、マッチングは起こらず、単なる初顔合わせの会となった。いつか2回目があるのかどうかは、まだ明らかになっていない。

 もちろんロシア側のオーガナイズの問題はあり、直前まで日程や開催地が決まらなかった。

 しかし、前もってアナウンスしていれば、日本のメディア関係者が来てくれたかというと大いに疑問である。

 モスクワは、ビザの問題はあるが、行こうと思って行けない場所ではない。結局、わざわざロシアへ行くだけのメリットが感じられなかったということだろう。

 中にはタス通信と共同通信のように、長期にわたって協力関係にある会社もある。ロシア新聞と毎日新聞は定期的に「日本・ロシアフォーラム」を開催している。

 しかし、逆に言うと、それくらいしか具体例が思い浮かばない。後は細々とコンテンツを売買しているだけで、あくまでもビジネスの関係である。

 さて、中国に目を向けてみると、全く状況が異なっている。2016年と2017年の2年間は、ロシアと中国のマスメディア交流年だった。

 これはプーチン大統領と習近平国家主席が取り決めたものだ。交流年のロゴマークは、鉛筆を持ったクマとカメラを持ったパンダ。2人(2頭?)は仲良く取材現場に向かっている。

 この間、ロシアメディアと中国メディアの間では、共同で番組や記事を作ったり、若手記者の相互交流や研修を行なったりと、約400のプロジェクトが実現した。


ロシアの放送を中国語の字幕つきで視聴可能

 プロジェクトに参加したのは、通信社、新聞社、テレビ、ラジオ、コンテンツ販売会社やネットメディアなど。

 例えばロシア国営放送「第1チャンネル」と中国中央テレビは、共同プロジェクト「カチューシャ」を約1年前からスタートさせた。

 中国の視聴者は、ロシア語放送を中国語字幕つきで見ることができる。

 ロシアも中国も、国営メディアの国なので国が主導したのは明らかだが、それに加えて根底にあったのは、「交流したい」「一緒に何かしたい」という現場の意思だろう。その現場の意思を鼓舞したのは、プレスツアーではないかと思う。

 昨年は、ロシアのジャーナリストを招いた中国へのプレスツアーが多く実施された。

 プレスツアーと言っても要するに観光で、いかに中国が将来性のある素晴らしい国かということをアピールするツアー旅行だ。

 筆者の知人のロシア人記者は、就職して間もなく、ジャーナリストとしては駆け出しだったが、プレスツアーに参加できた。中国のあらゆる名所旧跡を回る充実したツアーで、とても楽しかったという。

 日本では大手メディアの記者と言うと、社会正義のために働き、公共性の強い職業というイメージがあるが、ロシアでは全くそんなことはない。給料も他業種と同じくらいかむしろ低いくらいだ。


ロシア人記者を歓待、中国ファンに

 そういう状態で右も左も分からないうちに大歓待されると、すっかり親中派になってしまうのである。

 ちなみに飲食を伴う記者の接待は、ロシアではよくある。こういった文化を踏まえれば、若いロシア人記者の取り込みなど中国にとってみれば造作もないことだ。

 地域間のメディア交流も非常に進んだ。

 例えば在エカテリンブルク中国領事館は、観光ジャーナリズム発展という名目で、スヴェドロフスク州とノヴォシビルスク州を代表する10社の記者らを招待した。

 在ウラジオストク中国領事館は、沿海州の記者を相手に深圳・広州・大連・北京などをめぐる豪華ツアーを実施した。

 ドミトリー・メドベージェフ首相はロシア・中国メディア交流年の締めくくりにあたり、「ロシアは他のどの国とも、メディア業界でこんな親密な協力関係を築いてはいない。心から参加者に感謝しお祝いする」と満足げに挨拶した。

 また、中国という存在がメディアで露出してきたのに伴い、文化面全体でも存在感を増している。

 筆者の知人で、ロシアで俳優としてドラマや映画に出演している木下順介氏が言うには、ここ2年ばかりで中国人役のオファーが非常に多くなったそうだ。

 しかもそういう場合、中国人は正義感あふれる「良い役」ばかり。むしろ日本人の役を演じたとき、上役の日本人が悪役で、部下の中国人にたしなめられるというシーンもあったという。


メディアの力でお互いの国民が親近感

 もちろんフィクションの世界だが、フィクションはイメージの集大成であり、大衆はそこから多くを感じ取るものである。

 この変化は、ロシア人にとって中国人がそれだけ身近な隣人になったということだろう。

 ロシアで日本のイメージは全体的に良いが、オールドメディアの影響力が強いロシアでこういう状態が続けば、近いうちに中国が日本のポジションを取ってしまうのではないかと感じる。

 筆者はロシアの大学院でメディア研究をしているが、中国の事案とからめた先行研究の多さに驚かされる。

 中国メディアについてロシア語で書かれた論文がたくさんあるので、中国に行かなくても全容が分かりそうなくらいだ。

 ジャーナリズム学を専攻し博士候補(ロシアの学位システムでは修士の次は博士候補)まで出る中国人も多い。

 筆者は日常的に、ロシア人とも中国人とも仕事をする機会があるので、個人的なレベルでは彼らに好意を感じている。

 しかしその一方で、中国とロシアが急速に接近するのを何となく見守っているのは歯がゆい気持ちになる。

 日本はメディアがとても発達した国なのに、大手メディアほど内側に閉じ、国内で完結しているのではないかと思う。

 そのうち、日本の読者だけを対象にしていては、立ち行かなくなる時代が来るだろう。


将来が不安な日本のメディア

 そうなったとき、従来のやり方に加え、共同取材や外国人記者の受け入れ、逆に外国のパートナーメディアの力を使って若手記者に外国で取材の機会を与えるなど、商業ベースでないいろいろな試みが生きてくるかもしれない。

 少なくとも、ロシア側はそういった機会を欲しがっている。

 決して、ロシア人記者をもてなせ、ジャパンマネーでプレスツアーをしろ、と言っているのではない。

 ロシアをプロパガンダの国、と毛嫌いせず、経験の交換と相手側の実態把握のために、できる範囲で付き合ってみてはどうか、というのが筆者の主張である。

 中国はメディア交流の分野で、ロシアだけでなく、アフリカ諸国や様々な国に手を伸ばしている。

 気づいたら日本だけが世界から取り残されていた、ということになってほしくはない。

 日本は、西側の大手メディア以外とのパートナーシップ構築を積極的に考える時期に来ていると思う。

筆者:徳山 あすか

JBpress

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