北朝鮮が「ブルジョア遊び人風」韓国文化への取り締まりを警告

2020年12月12日(土)6時5分 デイリーNKジャパン

今月4日に開かれた北朝鮮の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会では、「反動的思想・文化排撃法」が採択された。


条文の内容は明らかになっていないが、20年以上続けられてきた取り締まりにもかかわらず、なくなるどころか増える一方の韓流ドラマ・映画、K-POPなどの流入を厳しく取り締まるものだと思われる。


この法に基づいた動きがさっそく見え始めている。


デイリーNKの内部情報筋によると、朝鮮労働党の平安南道(ピョンアンナムド)委員会では最近、中央からの指示に基づき、緊急総会拡大会議が行われた。議論されたのは、学校など社会全般に浸透している「反動的思想文化の流布」についてだ。


具体的には、当局の規定した「非社会主義的行為」の実例が読み上げられた上で、その根絶対策が議論された。


党委員会の宣伝扇動担当の副委員長は、南朝鮮(韓国)ドラマなど「ブルジョア遊び人風」に対して、激しく口撃した。


「もはや法的に明示されたブルジョア遊び人風文化の伝播行為は犯罪で、この犯罪を庇護、黙認、助長することに対しては、職責を問わず、法的責任を問う」


また、各級の党組織、勤労団体に対しては、ブルジョア遊び人風文化伝播を反党的、反人民的、反社会主義的行為と規定し、根絶のための全党的な闘争を力強く繰り広げ、司法機関に対しては、法的闘争の強度を高め、政治、文化生活全般における社会主義的美風を徹底的に固守する事業を繰り広げることを指示した。


平壌で反動的思想・文化排撃法が採択されたのと同じ今月4日、韓国のソウルでは「情報接近と積極的平和を通じた北朝鮮人権改善」というテーマで、第10回シャイオフォーラムが開かれた。


統一研究院のカン・チェヨン副研究委員は、「北朝鮮住民にとって外部からの情報は単に韓流コンテンツの好奇心やあこがれの次元を超え、文化生活に欠かせない一部となっている」「韓流は、北朝鮮住民が外部世界を見るもう一つの窓で、南北交流の隠された価値」と述べた。


また、「数年前までは、外部情報の影響力が外部社会に対する理解、自分たちの(政治、社会文化などの)生活を見つめ直す機会に過ぎなかったが、今ではライフスタイルの変化を導き出している」と述べ、韓流が有形無形の様々な形態で、北朝鮮国民の暮らしそのものを変化させているとした。


カン氏は、北朝鮮の結婚文化をその具体例として紹介した。韓流の影響で、平壌市内には慶興館、民俗食堂、紋繍(ムンス)結婚専門食堂など、韓国の結婚式場と似た構造の結婚式専門レストランや、ウエディング企業が増加している。


また、ファッションや言葉遣いなどにも、韓流が影響を及ぼしているとも指摘した。さらには、「多少の飛躍はある」と前提を置いた上で、韓流は政府を介さない形での南北の国民の文化交流で、政府の行う南北交流より重要な意味があると述べた。


クォン氏の主張に対しては、「厳しい取り締まりの対象となっている韓流を非公式の南北交流と見るには無理がある」「北朝鮮国民の意識変化にどれほど影響を及ぼしているかは明らかでない」などの反対意見が出た。


一方、北朝鮮反人道犯罪国際連帯(ICNK)のクォン・ウンギョン事務局長は、単なる韓流の流入にとどまらず、いかなる機能をもたせるかが重要だとし、情報が北朝鮮の体制と社会と住民の意識の変化を導くように、消費者が求めるコンテンツの制作と注入が必要だと述べた。


不特定多数をターゲットとした韓流ではなく、ターゲットと目的を絞ったコンテンツが必要だということだが、現状を考えると、伝えたい気持ちばかりが先走り、うまく伝わらない結果を生みかねない。


北朝鮮向けに行われているラジオ放送を例に挙げると、米国政府系列のラジオ・フリー・アジア(RFA)、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)や、韓国の公共放送KBSの韓民族放送、キリスト教団体や脱北者団体が運営するものなど多岐にわたるが、脱北者を対象にした調査によると、ニュースや娯楽が少ないものはあまり人気がないことがわかっている。



一方、北朝鮮では庶民や人権、法律、権利と言った意識を持ち、当局の横暴に抵抗する事例が報告されているが、このような意識の変化には、韓流が影響しているとの指摘がある。

デイリーNKジャパン

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