中国の空港で高熱の娘が搭乗客を足止めした話

12月18日(水)6時0分 JBpress

中国・上海の浦東国際空港

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(山田 珠世:上海在住コラムニスト)

 11月末、4歳の娘と一緒に、大阪から普段生活している上海に戻るための飛行機に乗ったときのことだ。

 搭乗するのは中国系航空会社の飛行機である。関西空港でチェックインの手続きをしていると、グランドスタッフ(地上勤務職員)に「お子さま、熱がありますか?」と聞かれた。娘が額に冷却シートを張っていたからだろう。私は正直に「あります」と答えた。

 娘は出発の前々日から嘔吐と下痢を繰り返していた。発熱したのは出発前夜だ。その日、嘔吐は治まっていたものの、下痢は続いていた。また、熱のためフラフラの状態だったが、関空まで頑張って来たのだった。

 その後、スーツケースの重量が超過していることが分かり、私はチェックインカウンターから少し離れたところで、荷物の入れ直しをしていた。すると別のグランドスタッフがやってきて、熱を測らせてくれという。

 聞くと、「熱が38度以上あると、航空会社の判断により搭乗できない場合がある」という。インフルエンザなど感染症の場合は搭乗できないらしい。確かに感染症だと他の乗客に迷惑がかかる。もちろん高熱も同様で、納得せざるを得なかった。

 結果は39度。私はどうしてもその便に乗って上海に帰りたかったので、昨日娘を病院に連れて行ったこと、「嘔吐下痢症」だと診断されておりインフルエンザではないこと、嘔吐下痢症では発熱することもあることなどを、必死に説明した。薬を見せてくれというので、薬も見せた。

 最終的には、「飛行機に乗ることで病状が悪化しても、航空会社は一切責任を取らない」といった内容の書類にサインすることで、搭乗できることになった。


優しかった客室乗務員

 手荷物検査と出国手続きを済ませ、搭乗口に到着すると、すでに搭乗手続きが始まっていた。こんな時に限って、搭乗開始時間が当初より10分早まっている。

 自分の席に座ると、中国人の客室乗務員が「熱がありますか?」と話しかけてきた。チェックインの際に伝えた娘の状況を知っているのだろう。必要なものはないか、何かあれば言ってくれ、などの気遣いはうれしかった。

 間もなく、別の客室乗務員がやってきて、前に席を用意したのでそこに移動してはどうかという。お礼を言って移動すると、そこは誰も座っていないビジネスクラスの最前列の席だった。おかげで、私たちはゆったりとしたスペースの席で、周りに気を遣うことなく過ごすことができた。

 飛行機に乗っている間も、複数の客室乗務員が交代で、何かと娘を気にかけてくれた。どんな病状なのか、熱冷ましは飲んだか、などを聞かれ、それらに答えると、優しい言葉をかけて、奥に下がっていく。こちらが迷惑をかけている方なのに、本当にありがたかった。


「熱があるのはどの子だ?」

 搭乗してから約2時間半後、飛行機はほぼ定刻で上海・浦東国際空港に到着した。ただ、一向に降りていいとの合図が出ない。「もう少し時間がかかりそうなので、席に戻って待つように」というアナウンスがあったので不思議に思っていると、20分くらい経ってから、誰かが機内に入ってきた。

 入口付近から「熱があるのはどの子だ?」という声が聞こえる。まさか娘のために皆が足止めされたのか? と思っていると、まさにその通りだったようだ。

 飛行機に乗り込んできたのは検疫局の担当者だった。担当者は「子どもの熱が高いため、ターミナルビル到着後、入国審査の前に検疫手続きが必要なのだ」と説明してくれた。一緒に連絡バスに乗るように言われ、残りの乗客を機内に残したまま、その担当者と私、そして娘の3人で大きな連絡バスに乗り込んだ。

 検疫局のオフィスでは、別の担当者が待機していた。娘の便を取って調べるのだという。もしも何か感染症などが検出された場合に連絡できるよう保護者の名前と連絡先を記入することを求められ、それに従った。

 オフィスには、車椅子に乗ったお年寄りもいた。娘同様に熱があり、国際線到着エリアに設置されている赤外線サーモグラフィーで引っかかったのだそうだ。これまで何気なく通過していたエリアで、実はしっかり体温を検査されているのだと知った。

 娘の検疫が完了すると、通常通り入国審査を受け、機内に預けていた荷物を受け取った。こうして、娘と私は無事空港を出ることができたのだった。


徹底して“可能性”を排除

 中国系航空会社の客室乗務員をしている中国人の友人は、「熱があっても、自己申告しなければ、航空会社関係者も知りようがない」と話す。ただ、高熱があると、空港に到着してからサーモグラフィーで検出される可能性が高いという。その場合は、やはり入国手続きの前に検疫を受けることになる。病状によっては飛行機の他の乗客への感染もあり得るので、医師による念入りな検査が行われるらしい。

 娘の場合は、関西空港でどのような病状かを説明済みだったため、「念のための検査」という程度で済んだ。その友人は、「だから機内に残った乗客も、すぐに下りることができたことだろう」と話してくれた。


SARSで感染症への意識が向上?

 中国が高熱のある乗客を徹底して検査しようとするのは、2002年から2003年にかけて中国でSARS(重症急性呼吸器症候群、サーズ)が流行したことが背景にあるとみられる。上海の空港関係者は「浦東国際空港にサーモグラフィーが設置されたのは、SARS以降だと記憶している」と話す。

 中国で発症し、猛威を振るったSARSは、ヒトとヒトの接触が密な場所で集団発生する可能性が高いことが確認されている。WHO(世界保健機関)によると、2002年11月1日〜2003年7月31日の期間に全世界でSARSの感染者数(可能性例)は8098人となり、死亡者数は774人となった。

 SARSは「隔離と検疫」対策で収束が図られたとされている。それ以降に中国で流行した鳥インフルエンザなどの感染症についても、空港で高熱のある乗客への対策が取られていることをニュースでよく目にした。

 娘は上海に戻った日から3日後には完治し、1日自宅で様子を見た後、幼稚園にも行き始めた。上海に戻って、数日経っても空港の検疫所から連絡がなかったところをみると、娘の感染症の疑いは晴れたのだろう。

 最後に、不運にも私たちと同じ飛行機に乗り合わせた皆さんに、この場を借りてお詫びしたい。過日は、大変ご迷惑をおかけいたしました。

筆者:山田 珠世

JBpress

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