「資本主義の恐ろしさ」体験談に興味津々の北朝鮮国民

2018年12月28日(金)12時14分 デイリーNKジャパン


韓国統一省の統計によると、今年11月末までに韓国に入国した脱北者の数は1042人で、昨年の1045人とほぼ同数だ。2009年には2914人に達したが、その後は減少に転じ、金正恩氏が北朝鮮の最高指導者に就任してからは、年間1000人から1500人の水準で推移している。国境統制の強化によるものと思われる。


その一環として北朝鮮当局が、「中朝国境の全域に監視カメラを設置せよ」との指示を下したと、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。


国境警備隊の2個大隊が担当している鴨緑江沿いの約12キロについては、監視カメラの設置が完了し、大隊の指揮部には監視装置が設置された。しかし、「極秘になっているため、どのような装置が導入されたのか、担当者以外には誰もわからない」(情報筋)とのことだ。


カメラは、誰でも見分けらる場所に設置されている。これは一般住民のみならず、ワイロを受け取り脱北の幇助を行う国境警備隊隊員をも威圧する効果を狙ってのことだ。


一方、一般住民向けには、帰国した脱北者を講師として「資本主義社会の恐ろしさ」を説く講演会を開催している。


咸鏡北道の穏城(オンソン)、会寧(フェリョン)など中朝国境に接した地域の工場、農場、鉱山では、今月に入って脱北者による講演会が開かれている。


壇上に上がったのは地元出身の40代女性だ。2012年に脱北して中国で働き、戸籍を作って身分証明証まで持っていたが、今年9月に南陽(ナミャン)税関から入国する中国人観光客に紛れて帰国した。つまり、中国人のふりをして帰国し、その後に摘発されたものと思われる。講演の内容は次のようなものだった。


「脱北者は中国で身分が保証されないので、仕事をしてもまともに賃金がもらえず、病院にも行けない。中国は資本主義式に生活しているので、カネがない人は差別と蔑視で人間扱いされず、人生の落伍者として生きるしかなかった。性的に搾取されることも多い。一方でわが共和国(北朝鮮)は日々発展していて驚いた」


続いて担当の保衛員(秘密警察)が、「この女性は祖国の懐が懐かしくなり帰国した、政府はこのような人たちに罪を問わず、許して受け入れている」と締めくくるという流れだ。


講演会に出席させられた人々の関心は、「中国での地獄のような生活」ではなく別のところにあった。


「この手の講演は聞いたことがあるので、内容的に目新しいものはなかったが、中国での生活の話に好奇心を持って耳を傾ける。そして人々は、それほど酷い資本主義社会でなぜ6年も暮らしていたのかと首を傾げる」(情報筋)


穏城や会寧には、脱北した家族、友人、隣人を持つ人が非常に多いこともあり、他の地域の人に比べて中国の事情に明るい人が多いと言われている。それでも中国での暮らしについて興味は尽きないようで、当局の意図したとおりには受け止めていないようだ。


かつて穏城の工場支配人を務めていたが脱北して韓国に向かったものの、何らかの事情で北朝鮮に戻ったという人が同様の講演を行ったことがあったが、結局は数年後に家族を連れて再脱北するという事件が起きた。そんな前例もあることから「またそんなことになるのではないか、そんな人の言葉なんか信じられるか」という反応を示す人もいたとのことだ。

デイリーNKジャパン

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