大河原克行のNewsInsight 第348回 パナソニックが「AI」企業への変革宣言、売上の3割をAI関連に - 楠見CEOがCES 2025開幕基調講演

2025年1月8日(水)17時12分 マイナビニュース


米ラスベガスで開催中のCES 2025において、2025年1月7日午前8時30分(現地時間)から、パナソニック ホールディングスの楠見雄規グループCEOによるオープニングキーノートが行われた。
パナソニックグループの経営トップが、CESでキーノートを行うのは、2013年の津賀一宏社長(現会長)以来、12年ぶりとなる。
今回のキーノートでは、「WELL into the Future」をキーメッセージとし、人々の健康や、快適で安全な暮らしの実現だけでなく、社会の持続可能性を高めるための革新的なテクノロジーに焦点をあて、パナソニックグループが目指す未来と、その実現に向けた最前線の取り組みや考え方を紹介する内容となった。
そのなかで、AIを活用したビジネスへの変革を推進するグローバルな企業成長イニシアティブである「Panasonic Go」を発表。2035年度までに、AIを活用したハードウェアやソフトウェア、ソリューションを、グループ売上高全体の約30%の規模にまで拡大することを目標に掲げたほか、生成AIを手掛ける米Anthropic(アンソロピック)との戦略的提携を発表。AIを活用した新たなデジタルウェルネスサービス「Umi」を、2025年から米国で開始することも明らかにした。
楠見グループCEOは、「Panasonic Goによる変革で、パナソニックのすべてを変えることになる」と宣言した。
パナソニックが語った「理想の社会」への250年計画
キーノートの冒頭では、パナソニックグループが二股ソケットから事業をスタートした企業であること、使命として「物と心が共に豊かな理想の社会の実現」を掲げ、人とテクノロジーの接点で事業を進めてきたこと、25年を1節とし、それを10節繰り返して、理想の社会の建設を目指す「250年計画」を1932年に打ち出したことなどが紹介され、進化するテクノロジーを活用し、時代とともに変化をする人々の暮らしや社会課題の解決に向き合ってきた企業であることが強調された。
また、パナソニックグループは長期環境ビジョンである「Panasonic GREEN IMPACT(PGI)」を、3年前のCES 2022で発表し、社会課題である地球環境問題に対してテクノロジーで貢献していることに言及。2030年までに、自社の事業活動に伴うCO2排出量を実質ゼロにし、2050年には全世界の排出総量の約1%にあたる3億トン以上の削減貢献インパクトの創出を目指していることを改めて示した。また、パナソニックグループでは、世界の44の生産拠点でネットゼロを達成していることを紹介。会場からは拍手が沸いた。
今回のCES 2025のキーノートでは、PGIの活動をベースに、地球環境問題の解決に向けて、2つの新たな取り組みを発表するところから本題に入っていった。
ひとつめの発表は、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うRE100ソリューション「Panasonic HX」である。これは、純水素型燃料電池と太陽電池、蓄電池を連携制御するエネルギーソリューションであり、滋賀県草津の燃料電池工場、英国カーディフの電子レンジ工場での実証を開始しているのに続いて、2025年春には、独オットブルンのパナソニック インダストリー ヨーロッパのオフィスビルで、電力需給運用の実証を新たに開始することを発表した。また、英Greater Manchester Combined Authorityとの協力により、公共施設や政府機関の一部において、水素燃料電池技術をネットゼロ化に応用するための調査を開始したことも明らかにした。これは、世界初の取り組みだという。
なお、Panasonic HXは、環境負荷の少ない水素(H)の本格活用という新たな選択肢を提案し、パートナー企業や行政、ビジネス顧客とのコラボレーション(X)によって、脱炭素社会へのトランスフォーメーション(X)に貢献していくという決意を込めた名称だという。
楠見グループCEOは、「Panasonic HXソリューションが広く採用されることにより、大規模で、ポジティブな影響をもたらすことになる」との見方を示した。
2つめは、米国市場を対象にした住宅向け全館空調システム「OASYS」である。ルームエアコンと熱交換気ユニット、搬送ファン(DCモーター換気扇)を組み合わせたシステムで、米国市場では初の製品になるという。
従来の空調方式に比べて50%以上の省エネに貢献するとともに、空調された冷温風が、多数の搬送ファンからダクトを通じ、大風量で、均一に送風され、各吹き出し口からの吹き出し温度と室内温度との差を小さくすることで、家全体や、部屋の上下空間の温湿度を一定に保つことができるという。省エネでありながらも、これまでにない快適性や、健康な住空間を実現し、屋根裏や床下も、くまなく空気循環することで、結露やカビ発生のリスクを減少させ、米国で一般的な木造住宅の劣化を抑制できるという。
パナソニックグループでは、米テキサス州ヒューストンに「OASYSコンセプトホーム」をオープン。ビルダーなどのBtoB顧客を対象に、「OASYS」のシステムコンセプトを展示し、体感の場を提供するという。
EV向けバッテリーの最新動向についても説明した。
パナソニックグループでは、これまでに150億個のEVバッテリーを供給し、北米最大のEVバッテリーメーカーであることを訴求。さらに、米Redwood Materialsとの提携により、リサイクル正極材および銅箔を調達し、カーボンフットプリントの低減と、北米でのサプライチェーンの確立、現地調達率の向上を目指していることにも触れた。
登壇したRedwood MaterialsのJB Straubel CEOは、テスラの共同創業者の1人であり、パナソニックグループとテスラが、車載電池の生産拠点であるギガファクトリーを建設したときからの深い関係があることに触れながら、「生産したバッテリーの再利用と、発生した生産スクラップ材料の再利用を行い、EV向けバッテリーの循環型エコシステムを確立する必要を感じていた。パナソニックとのパートナーシップにより、リサイクルにとどまらず、古いバッテリーや重要な材料をバッテリー部品に変え、新たなバッテリーセルを製造することができるようになる。すでに、コバルトやリチウム、ニッケル、銅などの重要鉱物の98%を回収し、パナソニックの生産拠点に戻している。パナソニックは、リサイクル素材を使用し、新しいバッテリーに戻すことに取り組む最初の企業になる」と評した。
パナソニックグループでは、削減貢献量の認知拡大に取り組んでいる。
削減貢献量とは、優れた再エネ技術や省エネ製品が、これまで使用されていた製品やサービスに代替することで回避できるCO2排出量を指す。例えば10年前に購入したエアコンを、新しい消費電力の少ないエアコンに買い替えることで削減されるCO2排出量を示すといったものだ。自社のCO2排出量実質ゼロを目指すだけでなく、社会のCO2削減に貢献できる技術や製品を普及させることも責務に位置づけ、そこにどれだけ貢献したかを測ることができる指標として、削減貢献量を広く認知する必要性を訴えている。
WBCSD(The World Business Council for Sustainable Development)でも、パナソニックグループと足並みを揃える形で、この取り組みを推進しており、WBCSDのPeter Bakker CEOは、「WBCSDとパナソニックグループは、政府や金融機関、社会に認められるように、削減貢献量に関する標準化を進めている。金融市場の考え方と行動が一致することで、持続可能性を経済成長と強靭性の基盤にすることができる」と述べた。
楠見グループCEOは、「私の家族が住む大阪でも、様々な方法で気候変動に対処している。ここには、3カ月前に生まれた私の初孫も住んでいる」と語り、「サステナビリティへの取り組みに終わりはない。なぜならば、私たち全員が、未来に対して責任を持っているからだ。子供や孫をはじめとした将来の世代が、健康的な環境を楽しむことを確実なものにするために、パナソニックグループは、イノベーションとサステナブルテクノロジーソリューションを通じて貢献していく」と述べた。
パナソニックをAI企業へと変える「Panasonic Go」
今回のキーノートで最大の発表となったのは、「Panasonic Go」である。
「Panasonic Go」は、AIを活用したビジネスへの変革を推進するグローバルな企業成長イニシアティブと位置づけており、2032年から始まるパナソニックグループの250年計画の第5節に向けて推進する取り組みになるという。
楠見グループCEOは、「Panasonic Goを推進するため、AI開発やプラットフォーム構築への投資、ソフトウェア開発人材の育成を進めるとともに、2035年までに、AIを活用したハードウェアやソフトウェア事業、ソリューション事業が、グループの売上全体の約30%を占めることになる」と述べ、「この変革は、多くの人が知っているパナソニックのすべてを変えることになる」と位置づけた。
パナソニックグループでは、業務効率化のためにAIアシスタントサービス「PX-AI」を世界約18万人のグループ従業員が利用しているほか、提供する製品やソリューションにも積極的にAIを活用。Blue Yonderでは、サプライチェーンの領域において、複数の独自言語モデルを用いたAIオーケストレーションを実現している。また、Blue YonderおよびPanasonic Wellにおいては、AI活用拡大に向けたプラットフォームの開発などに、北米市場だけで100億ドル以上の投資も行ってきたという。さらに、くらしの領域では、毎日10億人以上がパナソニックの製品を利用しているという顧客接点を生かしながら、AIエージェントなどの技術により、多様化する顧客ニーズにあわせたサービスを創出し、次の10億人にアプローチすることを目指すと語った。
また、「Panasonic Go」の推進に向けて、米Anthropicとグローバルな戦略的提携を結ぶことも発表した。同社のAIアシスタント「Claude」を活用。優れた推論能力や、複雑なトピックに対する深い理解、自然な会話における高い能力を生かし、パナソニックグループが製品を通じて接点を持つ10億人の顧客に対して、パーソナライズしたお役立ちができるとしている。
そして、米国市場において、2025年から新たに開始するのが、Panasonic Wellによるデジタルファミリーウェルネスサービス「Umi」である。Panasonic Wellは、パナソニック ホールディングス傘下のPanaosnic Well本部と、米国に本社を持つPanasonic Well LLCによって構成。「Umi」は、AIや先進技術を活用し、アプリを通して、家族をサポートする包括的なサービスとなる。
ウェルネスデータをそれぞれの家族に合わせた具体的な行動計画に落とし込み、健康的な習慣を築き、家族全員が同じ目標に向かって取り組めるようなウェルネスサービスを提供するという。なお、「Umi」には、提携を発表したAnthropicのClaudeを搭載。パナソニックグループのコンシューマ向け製品およびサービスとして、初めてClaudeを利用することになるという。
なお、Panasonic Wellでは、「Panasonic Well Partner Collective」を設立し、健康やウェルネスに関する企業や団体、研究機関と連携し、Panasonic WellのデータとAIプラットフォームの強みを活用するという。これらの企業や団体との連携により、「Umi」をはじめとして、個人や家族が健康で豊かな生活を実現するための革新的なソリューションを提供していくことも発表した。
Panasonic Wellの松岡陽子(ヨーキー松岡)CEOは、「Panasonic Wellは、人々がより健康で、より幸せな生活を送り、それを助けることに焦点をあてたベンチャーおよびビジネスインキュベーターである」と位置づけ、「私は、パナソニックでの役割に加えて、妻であり、4人の子供の母親であり、日本に住む両親の世話をしている唯一の子供である。そして、2匹の犬の世話をし、おしゃべりなインコ、200ポンドのペットの豚を飼い、美しくも、混沌とした家庭のなかで暮らしている。これは、多くの家庭と同じであり、それが、日々の家族を支援する解決策を生み出す原動力となった」と、自らの経験を振り返りながら、「Umiは、AIを活用したファミリーウェルネスコーチであり、家族をケアし、調整し、つながることをサポートする役割を担う」と述べた。
松岡CEOは、Umiのデモストレーションを行い、離れた場所に住む家族の様子を聞いたり、家族とのスケジュールを調整したり、食事のデリバリーを頼んだりといったことをUmiに任せることができるシーンを再現してみせた。
松岡CEO自らも、Umiの初期バージョンを使用し、両親をサポートした経験を持ち、それを、「私の家族にとって、Umiはゲームチェンジャーであった」と表現してみせた。
また、Umiは、AARPと提携。高齢の親の世話をしながら、子供を育てる「サンドイッチ世代」のニーズを満たすことを狙うという。
AARPのMyechia Minter-Jordan CEOは、「AARPは、年を取っても自分の生き方を選択できることを支援する非営利団体である。AARPは、AgeTech Collaborativeを立ち上げ、その取り組みのひとつとして、Panasonic Wellと連携し、Family Wellness Innovation Challengeを推進。このなかで、家族介護者をサポートするテクノロジーを共同で開発した。Panasonic Wellとそのパートナーとの協力や創意工夫により、すべての家族の介護者の生活に目に見える違いをもたらすことができるだろう」と述べた。
Panasonic Goの推進において、重要な役割を担うのが、Anthropicとの戦略的パートナーシップである。
AnthropicのDaniela Amodei共同創業者は、「AnthropicのLLMであるClaudeは、パーソナライズされた顧客との接点を提供し、人間中心のAIによって、次世代の顧客体験を強化することができる。また、生産性の向上と、インテリジェントな意思決定をサポートすることで、職場の効率性も変革できる。そして、パナソニックが、社内でClaudeを使用することは、コラボレーションの未来を形づくるのにも役立つだろう。これにより、すべてのパートナー、すべてのビジネス、すべての顧客が、パナソニックが推進する未来に必要な製品、サービス、ツール、機能にアクセスできるようになる」とコメント。Panasonic Wellの松岡CEOは、「Panasonic Goでは、ビジネス全体でClaudeを活用するために、さらに大きな計画がある。今年中には、もっと多くのことを共有できる」と、今後のパートナーシップの拡大に含みを持たせた。
一方、キーノートでは、Blue YonderによるAIを活用したサプライチェーンマネジメントソリューションの変革についても言及した。
Blue YonderのWayne Usie CSOは、AIがサプライチェーンに影響を与える5つのポイントとして、サプライヤーや取引パートナーを含むサプライチェーン全体をエンドトゥエンドで可視化する「マルチエンタープライズエコシステム」、様々なサプライチェーンの役割に対応する自律型AIエージェントにより、反復的なタスクの解決や原因の分析、解決策の提案、意思決定の実行を行う「パーソナライゼーション」、AIによる予測を通じて需要と供給のバランスをとる「在庫管理」、AIを活用することで、より迅速な出荷を実現する「オンタイムデリバリー」、改善による効率化によって、資本を節約し、イノベーションと成長の機会を増す「資本コストの削減」をあげ、「Blue Yonderは、20年以上にわたってAI主導のソリューションを提供してきた。業界最大のデータサイエンティストチームを持ち、サプライチェーン技術に関する400件以上の特許と、1日あたり200億件の予測実績がある。Blue Yonderは、将来を見据えたソリューションを提供することができる」と述べた。また、「Panasonic Goを使用することで、グローバルサプライチェーンのために、よりスマートで、より安全で、より持続可能なソリューションを開発し続けることができ、AI主導のイノベーションをさらに拡大できる」とも語った。
キーノートの最後に、楠見グループCEOは、「持続可能な地球に対するパナソニックグループのコミットメントは揺るぎないものである。そして、AI主導のソリューションと、Panasonic Goによって、社会に対して、パワフルで、ポジティブな影響を与える変革をリードしていく」と述べたあと、「いま今がその時だ! 準備は整った!」と手を挙げて叫び、キーノートを締めくくった。

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