落合陽一×鈴木涼美(作家・社会学者)「男女がフェアであることは重要だけど、『平等』にはなれないと思う」【後編】

1月10日(木)6時0分 週プレNEWS

筑波大学で講義をする落合陽一と鈴木涼美(左)
筑波大学で講義をする落合陽一と鈴木涼美(左)

デビュー作『AV女優の社会学』以来、話題作を世に問い続けている作家・社会学者の鈴木涼美(すずき・すずみ)。彼女が文筆のテーマとしているのは、「女を売る仕事」であり「夜職(よるしょく)」。その対象を切り取る独特の温度感と遠近感の秘密は、彼女自身の独特な人生経験、キャリアパスを抜きにしては語れない。

その半生についてじっくり語った前編記事に続き、後編ではより深く「女を売るシゴト」と、社会におけるその位置づけについて掘り下げていく。

* * *

落合 それで、鈴木さんは大学院を出た後、サラリーマンとして日経新聞に入り、今は文筆業をしている。ダブルラインで走ってた時代と比べて、今はどうですか? シングルラインに近いってことですよね。

鈴木 私、日経を辞めた後に文春砲で「元日経記者がAV女優だった」って書かれて、それで世間的にはバレたんです。つまり、ひとつの顔しか知らないっていう人が今はいないので、シングルラインといっていいんじゃないかなと思います。

若い頃はかわいいっていう評価も欲しかったし、かといってかわいいだけじゃない、「尊敬する」とか「頭いい」っていう評価も欲しくて。それは両方得られるものだったんだけど、30を過ぎて、かわいいっていう評価は放棄しつつありますね。

落合 なるほどね。逆に、頭いいとかキャリアがすごいとか、文章がうまいとか考察が優れてるとかいった評価は、あまり年に関係なく得られるんじゃないですか?

鈴木 でもね、それだけだと女の人ってあまり満たされないんですよ。華々しいキャリアを持ってても、結婚してなかったり子供がいなかったりすると、自虐的に「負け犬」とかって言うじゃないですか。

落合 そうなんだ。以前のダブルキャリアは、今のビジネスに生きていると思いますか?

鈴木 メディアで文章を書いたりする場合には、夜の仕事とかAVと、新聞記者と、「その両方の経験がある」ということ自体が商品価値になってるタイプですね。それと、得た経験としては、日経時代は旧自治省の記者クラブで、ひたすら地方自治法改正について取材してたんです。

今書いてるような原稿と直接は関係しないけど、やっぱり楽しみ方としてはすごく近いものがある。興味がゼロのところを取材して、何かしら発見して記事を書かなきゃいけなかったわけで。そういうテーマを押し付けられる会社員だったことは、今思えば私としてはよかったですね。

落合 僕、ニュース番組のコメンテーターがけっこう好きなんです。テーマを振られて10秒で考えなきゃいけない"大喜利"を毎回するのは、自分の中で思考の訓練になってて。経営にもアートにも研究にも教育にも、思考訓練が効いてます。

ちなみに、副収入があった時代とない時代とでは、自分の中でどう違いますか?

鈴木 私、労働よりも先に"女子高生としての夜職"に入るほうが早くて、当時は自分の価値をお金に換算しやすかったんですね。ブスよりかわいいから、ブルセラで月10万円しか稼げない子がいるなかで、自分は30万円稼げるとか。

でも、例えば日経新聞なんて昔の会社だし、わりと年功序列で、ブスな同期とも同じ値段で働いていくわけですよ。それに、記者としての能力が高くても低くても、ほぼお給料は一緒だから、すごく不思議な感覚でしたね。すごい実力主義だったら、AVとかブルセラとかと、使う物差しが変わっただけで似てるなと思ったかもしれないけど。

今は、媒体によって(報酬は)違うけど、別にかわいさとか実力とか記事の出来とかでは、基本的に値段は変わらないかなあ。

落合 でも、バズったら次の仕事につながったりしない?

鈴木 まあそうですね。納期を守ってそれなりに読まれるものを書かないと、そのうち仕事なくなるぞみたいな感覚はあります。だけど、それこそブルセラで30人の中から自分の番号が呼ばれたときとか、AVで貧乳の子よりいい条件で契約が取れたときのような、ある種シンプルに「自分の価値」を実感できるタイミングは、自分で探しにいかない限りはなくなりましたね。

落合 僕が学生さんを見てて思うのは、「やりたいこと」と「なりたい自分」がずれてる人が多いなって。

つまり、僕(落合)みたいになりたい、みたいなことを言い出す人がいるんですよ。でも、僕みたいになるには、けっこう泥臭くて地味な作業とか実験もあるんです。アート、研究、ビジネス、教育と4足のわらじを履くと、寝る時間なくなっちゃうし。そのハードな過程をそもそも好きじゃない人が、ゴールだけ同じものを目指しても違うんですよね。

鈴木 わかります。完成像にはなりたくても、別にその人がやってること自体を同じように面白いとは思っていない、ということですね。

今の時代もさ、やっぱり東京とかで生きてると、「将来の自分は犠牲になるかもしれないけど、手っ取り早くお金を稼げる」みたいなことは転がってるわけじゃないですか、パパ活でもなんでも。そういうの、私は基本的にがまんしたことはあんまりなくて、全部手に取ってきた(笑)。

だけど、今はそれが逆転してて。私の読者の女子大生の子で、「私、全然キレイじゃないし、そういう世界と無縁だったんですけど、涼美さんの本が面白いのはいろんな経験があるからで、ってことは、やっぱり学生時代にキャバクラとか自分の知らない世界をやっとかないとダメですか?」とか言ってくる人がいるんだけど......。

落合 いるいる! 俺もいる。

鈴木 いや、キャバクラなんて別に、自分のためになるからじゃなくて、やりたいからやっていたわけで。なんでそれを将来のためにやるなんていう学校のようなことになってるんだ、みたいに思ってビックリした。

落合 わかるなあ、それ。「落合さんは何屋さんなんですか?」ってよく言われるんだけど、俺はやれることとやりたいことが目の前に転がってたらとりあえずやるって決めてて、だから特に仕事も選ばないし。

鈴木 へこむとか、悲しいときはないんですか?

落合 悲しいはあんまりないけど、ただこの前、子供が入院してて......俺自身はいくら働いてもそんなに疲れないけど、子供が入院してる間は疲れやすかったんですよ。自分の子供に傷とかあると、体は疲れるんだなと思いました。

鈴木さんは、生きてて心がすり減るとかはないんですか?

鈴木 私、恋愛以外に何かあるかな......。例えば、2年前にがんで亡くなった母親を看病してたときは——母は私がAVに出てたことを最期まで許してなかったんだけど、「愛しているのに理解できない」という母に対して、私もそれを納得させる言葉を持っていない、ということで心はすり減りましたね。

落合 AV女優になったことで、将来が犠牲になった部分はありますか?

鈴木 んー、例えば、私は新聞記者だったからなれたけど、元AV女優だったらやっぱりアナウンサーとかは厳しかったんじゃないですか? 未来に代償がくる仕事だとは思います。

私の場合はね、母親の反応とか、恋人に「親に紹介できない」と言われたりとか、人を通して事後的にことの大きさに気づいて、いろいろ思うことはあった。それは今、書くことのテーマになっているから、私にとってはいいといえばいいんですけど。

当時は「私の若さとか、巨乳とか、ここで脱いでることに対してお金が払われてるんだろうな」というぼんやりした感覚しかなかったけど......なんだろうな。35になっても若い頃のヌードが残ってしまうとか、ネット上でいつまでも自分のセックスシーンがばらまかれてる状況とか、そういう仕事の契約にサインすることに対して、実は一番お金が払われていたのかなって。

目の前にある石を蹴ったような感じだったんですよ、私にとってのAV出演なんて。でも、その石が下のほうに転がらずに、10年たってから自分の顔面も親の顔面も恋人の顔面も、バウンドしながら血をだらだら流しながら、跳ね返ってるなと思ったことはありますね。

落合 なるほど。逆にとらえて、AVとかキャバクラって資本的な独立性を考えると、見方によっては女性の価値を向上させてるような気がするんですが、そういった考え方はどうですか?

鈴木 シンプルに、女性が女性であることだけですごく得ができる世界として、私にはそれがあったんですよね。同級生の男の子と比べて圧倒的に稼げたし。

AV女優っていうもの自体が女性差別だという声は今も少なからずあるし、確かにフェアなことは重要だと思うんだけど、男性と女性って——セクシュアリティにはいろいろあるけど、ここでは大きく男性と女性についていうと、体の機能も欲望の形も違いますから。だって私、男の裸見ても全然うれしくないんですよ。

だから、フェアには近づけたとしても、平等にはなれないと思う。あんまり平等を意識すると、すぐ破綻すると思います。女性だって一枚岩じゃないので、AVで不快になる人もいれば、AVによってすごく得をしてる人もいるわけだし。

あと、AVや夜職は基本的に、"表ルール"で生きづらい人の居場所でもあったりするから。そういう人にとっては、女性である以前に人間として、その場が奪われることのほうが重要なわけです。そういうものを見てると、あんまりねえ......。フェミニズムは大事だけど、フェミニズム運動というものには興味がわかなくなりますよ。

■「#コンテンツ応用論2018」とは? 
本連載はこの秋に開講されている筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。"現代の魔法使い"こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トークを展開します。

●落合陽一(おちあい・よういち) 
1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。最新刊は『0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる 学ぶ人と育てる人のための教科書』(小学館)

●鈴木涼美(すずき・すずみ) 
1983年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学環境情報学部在学中にAVデビューし、80本近くの作品に出演。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了後、日本経済新聞社に入社し、都庁記者クラブ、総務省記者クラブなどで5年半勤務。2014年秋に退社後は文筆家として活動。著書に『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』(青土社、修士論文の書籍化)、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎文庫)、『オンナの値段』(講談社)など

構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博 協力/小峯隆生

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