高知大など、火星の地下で氷が豊富に存在する場所を地形から精密に推定
2025年1月17日(金)16時38分 マイナビニュース
高知大学、岡山大学、東京科学大学(科学大)、千葉工業大学(千葉工大)の4者は1月16日、火星周回衛星により得られた詳細な画像を分析し、地下の氷の存在により形成される「周氷河地形」の分布を調べ、火星中緯度で地下氷が豊富に存在する場所を精密に推定することに成功したと共同で発表した。
同成果は、岡山大大学院 環境生命自然科学研究科の佐古貴紀大学院生(高知大 理工学部 卒業生)、高知大 理工学部の長谷川精准教授、岡山大 惑星物質研究所のルジ・トリシット准教授、伊・ダヌンツィオ大学 惑星科学研究大学院の小松吾郎准教授(千葉工大 惑星探査センター 客員主席研究員)、科学大 地球生命研究所の関根康人教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する惑星科学の全般を扱う学術誌「Journal of Geophysical Research: Planets」に掲載された。
現在の火星は極寒で乾燥した環境にあり、地表に液体の水は存在しない。しかし約40億年前には温暖湿潤な環境が広がり、北半球には海が存在していたとされる。その水の一部が中・高緯度域の浅い地下(地下数十cm〜数m)に水氷として保存されており、隕石衝突によって形成された新しいクレーターの底部で氷が露出していることが確認されている。その事実から、北緯30〜42度辺りが火星の地下氷分布の南限と見積もられており、2040年代に計画中の火星有人探査における貴重な資源となることが期待されている。
有人探査では太陽光発電を行うことから、できるだけ低緯度側で探査を行う必要があるが、上述したように地下氷分布の南限の予想は北緯30〜42度辺りだ。つまり、その範囲内でどこに浅部地下氷が豊富に存在するかを把握できれば、有人探査の着陸候補地を計画する上でとても有益な情報となるとする。そこで研究チームは今回、「周氷河地形」と呼ばれる特殊な地形に着目したという。
周氷河地形は、地球のアラスカやカナダなどの寒冷地でも見られる地形で、火星の中・高緯度域にも存在している。研究チームは今回、米国航空宇宙局(NASA)の周回探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター」の超高解像度カメラ「HiRISE」で撮影された4789枚の画像を詳細に分析。そして「ポリゴン地形(多角形土)」「ピンゴ(地下氷の膨張によって形成される小丘)」「ブレインテレーン(脳の表面のような地形)」の3種類が周氷河地形として見出され、中でもポリゴン地形に着目した。
直径が10〜20mほどのポリゴン地形は、地下の水分が凍結と融解を繰り返す過程で形成される特徴的な多角形の地形で、地下氷の量によってその形状が変化する。例えば、氷が豊富な場合は「中央低下型ポリゴン」(LCP)、氷が減少する過程では「中央上昇型ポリゴン」(HCP)や「大小混合型ポリゴン」(LMP)に変化する。この変化に基づき、地下氷の量を推定することが可能だ。
画像分析の結果、ポリゴン地形、ピンゴ、ブレインテレーンの3種類の周氷河地形は北緯35度以北に密集して分布しており、特に東経0〜60度のアラビア台地、同80〜125度のユートピア平原、同160〜210度のアマゾニス平原の3領域で顕著だったとのこと。その一方で西半球(東経230〜350度)では、周氷河地形の分布が少なかったとする。
また、ポリゴン地形の詳細分析により、ユートピア平原西部ではLMPが多く、地下氷量の大幅な減少が示唆された。それに対し、LCPはアラビア台地、ユートピア平原、アマゾニス平原に多く見られ、地下水が豊富なことが示されたという。この結果を受けて研究チームは、これらを有人探査の着陸候補地として提案したとしている。
2030年代前半には、火星中緯度域の地下氷分布を正確に調べるため、国際協同探査「Mars Ice Mapper」が計画されている。同計画では、合成開口レーダーを用いて地下氷の詳細な分布を測定するとされており、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)も、周回衛星用の火星磁気圏観測のための観測機器や着陸探査機を提供する予定だ。そして、気象データの収集(気温・水蒸気量やダスト量の変化、竜巻現象など)、火星の過去からの水環境の変化を調べるネオン同位体比の測定、カメラによる地形変化および気温・水蒸気の日・季節変化を観測することで、地下氷量を推定する計画である。そのため今回の研究成果は、その着陸候補地の選定においても、重要なデータとなることが期待されるとした。
また研究チームは現在、有人探査の候補地と類似した永久凍土帯末端に位置するモンゴルで実地調査中だ。地下氷の減少に伴う周氷河地形の形状変化や、表層地形と地下氷量との関係性の解明を目的として研究を進めているという。その成果は、火星探査に加え、地球温暖化による永久凍土の動態理解にも貢献するとしている。