新春対談/北俊一氏×クロサカタツヤ氏(後編):解約金1000円の謎、楽天モバイルやMVNOの行方は?

1月21日(火)11時28分 ITmedia Mobile

アンケート結果も参考にしつつ、解約金は1000円に下げることが決定した(総務省の資料より引用)

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 2019年10月に施行された改正電気通信事業法によって、モバイル業界のルールが大きく変わった。改正法の中身を決めたり整理したりする場でもあった「モバイル市場の競争環境に関する研究会」に有識者として参加している、野村総合研究所 パートナー(テレコム・メディア担当)の北俊一氏と、企 代表取締役のクロサカタツヤ氏の対談後編では、解約金1000円やMVNOについて語っていただいた。聞き手はITmedia Mobile編集長の田中聡。
●「契約解除料1000円」は、なぜ突然降ってきたのか
—— 改正法が決まる直前の議論で、おやっ? と思ったのが、やはり契約解除料の話です。アンケート結果に基づき1000円になったということで、お2人もその根拠に対しては疑問を呈されていました。あくまで政策として行うという確認もされていたと思います。アンケートは建前で、これ自体は根拠になり得ない、かなり弱いものだと思いますが、改めて振り返っていただけますか。
クロサカ氏 先に申し上げた通りですが、アンケートを根拠にするのはやめましょうということです。一方で、あそこで私も突っ込んだ問題提起をして、その結果を総務省にちゃんと受け止めていただけたと思いました。確かに政策決定をする際のエビデンスがなかった。消費者が何に対してどういう反応をするのか、いくらという値段について、どういう評価をしているのかを、定点観測的に調べ続けないと正確な判断ができない。
 エビデンスベースの政策形成といわれている中で、必要なものであるということは理解しました。ですので、限られたリソースの中でだとは思いますが、継続的に市場動向を調べていくことが実践され始めたわけで、そういう契機になったのはよかったという思いはあります。というわけですが、みなさんのご関心の中心は、1000円ってどこからやってきたの? ということなんですよね(笑)。 
クロサカ氏 どこからやってきたんでしょうね。
—— ユーザーとしては、安くなるのはシンプルにいいんですが、その分、他に何かしわ寄せが行かないのかと懸念していました。結果的に値段は上がらないのでよかったのですが、1500円の差を維持されたまま2年契約プランの料金が上がってしまうという恐れもあったと思います。今、振り返るといい方向に進んでいるという感じでしょうか。
クロサカ氏 通信から少し離れるので参考程度ですが、そもそもこういう形の違約金、解約することに対してお金が発生するということは、一般の消費者契約ではあまり認められていないんですよ。
 いやいや、例えば雑誌や新聞で長期契約をして、途中で止める際に払ったお金が返ってきませんというケースはあると思いますが、あれは立て付けが違います。例えば、雑誌を36カ月買うという前提で、それ自体が1つの商品構成になっているので、それに値段を設定しているという形です。途中で止めようとお金は返せませんという構造になっています。そういった長期サブスクリプションのような構造のサービスが、他の分野でもたくさんあって、それを見ていくと、そんなに簡単にここ(解約)でお金を取れるものではないということは、本質的にあるんです。
 急に1000円が降ってきたことについては、今回の構成員も含めて戸惑いがあったと思います。今後、解約料は基本的になくなる方向でもいいんじゃないかな、というのは、消費者契約の考え方でいうとあり得ると思います。
北氏 2年縛りについては過去数年議論してきて、少しずつ進んではきましたが、かえって複雑で中途半端なプランが増え、ますます混迷していました。今回の完全分離は、回線は回線、端末は端末で選択できるようにしましょうということですが、キャリアを選び直すときにスイッチングコストになるものが数々あります。その代表格が2年縛りの契約解除料9500円であり、それを極力低くしていくことによって、ユーザーが今のキャリアを変えようと思ったときに解除料がかかるから諦めるといった世界をなくしましょうということです。
 ただ、ユーザーの流動性を今以上に高めようとは考えていないのです。これまで、端末が安くなるから、キャッシュバックがもらえるからキャリアを乗り換えるという人がカウントされて高かったMNPの数字、あれは水増しされた数字でした。本来の“真水“分はもっと少ないのです。完全分離によってキャッシュバックができなくなることで、回遊者分のMNPはなくなります。残りは真水のMNP。これをいかに増やすかということになります。
 今回、最初は解除料が3000円くらいで議論が進んでいたんですが、最後の最後に1000円でどうだという話になりまして、一瞬戸惑いました。私はこの際、解除料をなくしてしまう方がいいのではないかと総務省に提案したのですが、先に作った改正電気通信事業法には禁止と書かれていないから、その下の省令やガイドラインで禁止とは書けないのです。そうであれば、もう解除料を取るのはやめましょうという政策的なメッセージとしての1000円という意味合いなら、私の考え方と合致しているからいいと考えました。ただ、3000円というのは、それなりの根拠のある数字ではあったんですけどね。
クロサカ氏 そうですね。一応、ロジックは作れたものだった。
北氏 本当は3000円よりもっと低くしたかったんです。でも、ロジックが作れなかったから3000円で仕方がないと思っていました。アンケートは全く関係ないです。アンケートで金額が決まったら、これからの政策は全部アンケートで決めることになりますから(笑)。
クロサカ氏 あれ(アンケート)は一言、「そもそもやらない方がよかったですね」と。
北氏 安い方がいいに決まっていますからね。ですので、結果的に止めてねというメッセージの1000円。でも、今考えたら100円にすればよかった。
クロサカ氏 うん、ゼロじゃなければいいわけですから。
北氏 そして1000円を取るキャリアが残ってしまった。ちょっともったいないというか、スキッとしません。
—— 3000円のロジックとはどういうものだったのですか? 資料は公表されていませんか?
クロサカ氏 それは公表されていませんね。3社のARPUの平均を前提に、幾つかの時間軸や要素を考慮しながら、導き出したものでした。
北氏 それが3000円から4000円になるかなってところでしたね。われわれも数字を決めるなら根拠が必要ですからね。結果的によかったとは思いますが。
●SIMロックはなくなる方向に?
—— SIMロック解除の議論に関しては、まだこの件を議論するのかと感じるほど延々と続いています。キャリアは一定期間SIMロックをかけることについて、端末を分割払いで買った際に不払いを避けるためというように言っていますが、それが本当に理由になっているのかという点も含めて、どう思われますか。もうこの話は終わっていいんじゃないかと感じることもあるのですが。
北氏 SIMロック解除についても、2020年の検討テーマに挙がっています。
—— 結局、SIMロックはなくなる方向で動いているのですか?
北氏 端末と回線がいつも一体で動いていた時代には、SIMロックは一定の効果があったと思います。しかし、完全分離時代においては、端末と回線を別々に買うわけです。ソフトバンクの「半額サポート+」は、そこをみんなに気が付かせてくれました。
 会合でキャリアさんに聞いたこともありますが、現金で一括で買う人も含めて、なぜ全ての端末にSIMロックをかけているのか。しかも現場でロックを外すのにお金を取っていたわけです。自分たちの都合でかけているものを外すときに、ユーザーからお金を取っていた。そのお金は今回、取ったらダメということになりましたが(※2019年11月のSIMロック解除ガイドラインの改正により、購入時以外に店舗で手続を行う場合を除き、手数料無料化が義務付けられた)。
 全ての端末にSIMロックをかける理由は、盗難防止だということですが、お店の防犯対策をもっと厳重にしてくださいという話ですよ。そのツケをユーザーに回しているという話。長いSIMロックの議論の歴史の中で、少しずつ解除されてきて、最後に残ったのが“100日ルール”です。24回割賦の1回目の入金を確認するのに、最大90日程度かかるから100日まではSIMロックをかけていていいですよというルールを作ったわけです。今回の議論の中で、端末の詐取や踏み倒しは、IMEIロックなど、SIMロック以外の方法で手当すべきではないかという意見が出ています。
 また、詐取された端末は、海外に持っていかれると使われてしまう。海外に持っていくような人たちは簡単にSIMロックを外しちゃうんですよね。だから、盗難防止策としてのSIMロックは実質的に意味がないんですよ。そこらへんをちゃんと議論して、決着をつけましょうということだと思います。
クロサカ氏 総務省の委員会の資料(※PDF)で公表されていますが、SIMロックの問題が改めて議論されるときに、3キャリアがSIMロック解除でどういう手続きを踏んでいるか、業務プロセスを総務省が事細かに分析してくれたんです。横並びにしてみると、それぞれのキャリアのSIMロックに対する思惑というか意志が分かります。SIMロック解除にポジティブな方と、ぐずぐずしている方がはっきり見えて面白かったです。
 今回、ドコモさんがある面では総務省よりも振り切ったくらいの優等生ぶりで、腹が据わっているなと感じました。たぶん、SIMロックじゃない、より実効性のある手段を考えていくときにも、マーケットをリードされていくのではないかなと思います。最大手ですから、他も基本的に同じ方向に進んでいくんじゃないかと期待しています。
●楽天モバイルが規制緩和を訴えているわけではない
—— 2019年の大きなトピックとして、楽天モバイルの参入がありました。改正法について、楽天モバイルもいろいろ意見は言っていましたが、楽天にとってどういう影響があったのでしょうか。一部で、楽天だけは端末値引きの規制対象外にすべきなんじゃないかという意見もありました。楽天に対してどう見ていますか?
北氏 楽天さんは、自分たちだけ規制を緩くしてくれといったことは、何も言っていません。「ウチは縛りません、端末は全部SIMフリーで売ります、既存3キャリアとはウチは違うんです」。いわゆるT-Mobileのような“アンキャリア”戦略路線で来ているので、彼らからの陳情は一切ありませんでした。
 ただ、楽天は楽天MVNOが存在するから複雑なんですよね。会合の最初の頃は、楽天MVNOとして呼ばれ、楽天MVNOとしての意見でした。楽天MVNOとしては、MNO3社が札束でユーザーを取り合っている世界ではとても太刀打ちできません。完全分離による端末購入補助の規制は、MVNOを育てる、あるいは新たなキャリアの参入に対して、公正競争条件を整えるという目的があります。協調的寡占状態の3社は有り余る資金を持っていますし、端末の大幅な値引き競争になったら、楽天はMVNOとしてもMNOとしても勝てません。ですから、値引き規制はやってくれという意見でした。
—— ある種、自分の首を絞めたことにならないでしょうか。俗称“三木谷割”といわれていた値引きをしていましたが、楽天は100万契約以上あるので、今回の規制でMVNOでもそれができなくなってしまいます。楽天が「ウチは新規なのでもうちょっと何とかなりませんか」みたいな動きをしたらどうだったかなと思うのですが。
クロサカ氏 うーん……楽天からそういう話は出でこなかったですし、マーケティングの考え方からしても、それでよかったと思います。「弱いんだから見逃してよ、お目こぼししてよ」というのはブランドを必ず毀損(きそん)します。より突っ張るというのは、マーケティング戦略として正しいと思います。つまり、楽天に関しては「問題はそっちじゃない」っていうところですよね。
 MNOとしての楽天さんは、もちろん議論に参加して、今回の議論をむしろ後押しするというか、積極的に肯定するような取り組みをされていました。消費者行政的には、1キャリアだけ違うことをやっていると非常に分かりにくくなるので、私は楽天さんがそういう態度でいらっしゃってよかったなと思っています。頑張ってサービスを始めていただけるといいなと思います。
北氏 この間(2019年12月10日)の3時間にわたる通信障害はある意味、よかったと思いますね。
—— よかった?
北氏 このタイミングで起こってくれて。
—— 試験サービス中でよかったと。
北氏 ええ。5000人に対する限定的なサービスの期間中に不具合が起きてくれてよかったと思います。総務省が4度目の行政指導を出しましたが、その文書の中に「過負荷試験等の実施」、いわゆるストレステストをちゃんとやって、結果を1カ月以内報告するように要請しています。楽天が出した計画を審査した上で免許を与えた総務省としては、楽天モバイルにはしっかり立ち上がってもらわないと困るわけです。
 今回の完全分離によって目指す世界は、端末は端末で価格競争が起こり、通信料金は通信料金で競争が起こる世界。楽天さんが料金を「半額にする」と言って参入することで料金競争が起こることを期待していたわけですから、私は初詣で楽天さんが立ち上がることをお祈りします(笑)。
●MVNOの競争環境はどうなるのか
—— MVNOは今後、どうなっていくのでしょうか。100万契約以上あるMVNOは今回、規制の対象になってしまって、一部大手の事業者にはサービス変更を余儀なくされたところもありました。大手キャリアの料金が安くなったことで、MVNOにとって向かい風になるという話もあります。MVNOの競争環境はどう変わっていくと思われますか?
クロサカ氏 私はモバイル研究会の正式なメンバーではなく、消費者保護ルールの方で合同会合があるときに出ているだけなので、あえてその立場で申し上げると、料金政策、消費者行政だけでMVNOの将来を規定することは、ちょっと不足しているかなと思います。つまり接続料の話ですね、このへんが重要で、モバイル研究会の方では将来原価方式の議論があったように、事業全体として見たときの公正性を重んじながら、MVNOが交渉力を確保できるような環境を作る必要があると思います。ある意味、政策主導で出来上がっている市場ですから、政策としてMVNOをどのように位置付けていくのかが、全体的に議論されていくべきだろうと思っています。
 一方、消費者目線で考えると、もちろんMVNOとMNOは別のものだということは、今、MVNOを選択している方は分かっていらっしゃると思うんですが、逆に分かっている人しか使えないから、これくらいしか契約は伸びていないということでもある。つまり、昼間の1時間は使わなくていいという合理的な判断ができるような人たちしか使えない。あるいはSIMの差し替えといっても、世の中の90%くらいの人は怖い、分からない、うっとうしいという話なわけですね。それが実態で、MVNOがもっと成長していくためには、ユーザーリテラシーの底上げも必要だし、ユーザーに見切らせるような環境を改善していくような取り組みが必要だと思います。
 全てのMVNOが規制の対象になっているわけではない。それなりの数、契約を持っている事業者がMNOと同じ地平に立って、厳しい競争環境の中で磨かれていくことが、これからは必要だと思っています。
北氏 フランスの場合、OrangeとSFR、Bouygues Telecom(ブイグテレコム)の3つのMNOによる協調的寡占状態が長らく続いていて、フランスの規制当局ARCEP(アルセップ)が、MVNOを育てようということでやってきたのですが、なかなか増えませんでした。そこで、もともと固定回線のプロバイダーでシェアが3割くらいあったFreeをMNOとして引き込んだ。Free Mobileはまさに“アンキャリア”戦略で、価格破壊を起こそうとした。Free Mobileが新規参入すると宣言して、まだスタートもしていないうちから、既存3キャリアはサブブランドを作って対抗したのです。
 その後、フランスの携帯電話業界がどうなったかというと、フランス国民の携帯電話料金が大きく下がりました。Bouygues Telecomが4位に落ちて、Free Mobileが3位に上がりました。結果的にMVNOのシェアは下がりましたが、サブブランドを含む、日本でいう「格安スマホ」の市場が拡大しました。大成功ですね。楽天の三木谷さんは、このFree mobileを目指そうとしていたのでしょう。
 ただ、日本の場合はちょっと違います。大手3キャリアが寡占状態というのは変わりませんし、当局がMVNOを育てようとして、やっとシェア10%に達したというところまでは同じです。違うのは、ソフトバンクにはサブブランドとしてのY!mobileがあり、KDDIにはMVNOとしてのUQ mobileがいます。そして、MVNOに楽天モバイルがいるわけです。非常にいびつで、MVNOからY!mobileを含むところが格安スマホといわれている世界。しかも、Y!mobileはMVNOに食い込みかねない料金設定です。
 要は、Y!mobileとUQ mobileのポジションが明確ではないんです。UQ mobileはMVNOですから、当然、MVNOの料金水準なのですが、なぜかつながりやすい。何かあるのではないか。“ミルク補給”いう下品な言葉を私が使って他の構成員の方に怒られましたけど(笑)。また、ソフトバンクとY!mobileは使っている周波数が完全に同じで、当初Y!mobileは単独のショップでしたが、今はソフトバンクと統合されているので販売チャネルもほぼ同じです。それなのに料金が安い。「一物二価」なんですよ。
 ただ、今の総務省のガイドラインだと、ソフトバンクとY!mobileは特定のデータ量に対応した料金が異なっていたとしても、定額制と段階制という異なるプランなのでセーフ、ということになっているのです。これはおかしいと思いますよ。この一物二価を解消すべきだと思いますし、UQ mobileに対しては、他のMVNOが疑義を申し立てています。ここを解消した上で、楽天さんがMNOに入ってくると、フランスと同じような状態になり、楽天MVNOはMNOにマイグレーションします。となると、MVNOのシェアは下がりますが、結果的に格安スマホ市場は拡大するでしょう。
 ここまでは単にスマホの世界の戦いだけを見ていますが、私はそのような世界ではMVNOのシェアは上がらないと思います。ただ、Y!mobileやUQ mobileを“正しいサブブランド”に変えるとか、楽天さんが世界初の完全仮想化ネットワークを引っ提げてFreeのようなディスラプクター(創造的破壊者)として料金競争を起こし、それによって安い料金プランが選べる世界になれば、私は政策的にはOKだと思います。狭義のMVNOの数が減ったから政策が失敗だということは、ARCEPは全く言及していないんです。とにかく料金がしっかりと下がり、公正な競争が行われているということしか言っていません。
 私は、MVNOさんには申し訳ないと思いますが、ソラコムさんをはじめ、クロサカさんがおっしゃったようなIoTやM2Mなどの新しい付加価値を出すところでしかMVNOの生きる道はないと思っています。そういう世界を含めれば、まだまだMVNOの可能性はあります。スマホ向けSIMでMVNOのシェアを増やすことにこだわる必要はないと思います。
クロサカ氏 私も基本的に北さんの意見に賛成です。今のMVNO市場に、イコールフッティングに対する疑義があるわけですね。政策的にすべきことは、まずはそこだと思います。そこは政策でデザインできる話です。その上でサービス競争だと思うんです。スマホのSIMとしてユーザーに受け入れてもらいたいんだとしたら、MNOとMVNOの差は、本来はないわけですから、その差を小さくしていくための工夫、努力は必要だと思います。そこで大きいMNOが有利だということは現実としてはあります。ただそれは、昔から有利だったわけじゃなくて、MNOも市場を作ってきた経験があるから、そこのポジションがあるわけです。
 MVNOは何もせずに甘やかされ、フリーライドでいけばいいというわけではないと思います。体力的に難しいのなら、マーケティングの問題として、違う世界で勝負していくのがビジネスだと思うんです。消費者とちゃんと向かい合って頑張るという方法もあれば、IoTのような新しいアプローチでより使い勝手のいい通信サービスとしてMVNOを位置付けていく方法もある。
 あるいは北さんのおっしゃったような、競争政策で競争を盛り上げていくというアプローチをとるところもある。ということで、言ってしまえば、今、MVNOは曲がり角に立っていると思います。ここで経営判断を間違えないようにすることが、事業者目線では重要だろうと思います。
●5G時代のモバイル業界を展望する
—— 2020年は5Gというキーワードが出てきます。5G時代に向けたモバイル業界の発展の展望に関する総括的なコメントをいただきたいと思います。
北氏 まずは楽天さんがしっかり立ち上がることをお祈りしつつ、楽天さんだけに頼ってもいけません。法律を改正してよかったといわれるように、しっかりと市場と向き合いながら、またおかしなことがあればスピード感をもって、モグラたたきじゃないですけど、しっかりたたいていく覚悟を持って、少なくとも2年かけて端末と回線をユーザーがそれぞれ自由に選べる世界を作っていきたいと思っています。
 今日は話に出ませんでしたが、中古端末や修理・再生も2020年の検討の大きな軸になっています。気候変動だ、SDGs(持続可能な開発目標)だといわれている時代において、端末はできるだけ長く使い、使い終わったら捨てずにリサイクルして、壊れたらちゃんとリファーブして、最後は部品としてリサイクルする。私はこれを4Rと呼んでいますが、リデュース(reduce)、リユース(reuse)、リファーブ(refurb)、リサイクル(recycle)という4つのRをしっかり回せるような仕組みを作っていきたいと思います。
 4Rを構成するパーツはかなりできてきていて、いよいよ組み上がってくるのですが、最大のパーツがまだ抜けていまして、そこを2020年に埋めたいと思っています。新品同様のリファービッシュ端末が選択肢として選べる世界ができてほしいです。
 それと並行して5Gが始まります。東京五輪もあるので盛り上がると思いますよ。5Gを使ったパブリックビューイングはもちろん、VRゴーグルを着けて多視点の観戦もできます。5Gのスポーツ×エンタメ用途は盛り上がるでしょう。2020年、5Gのスタートと東京五輪開催と重なってくれてよかったなと思います。5G端末はスタジアムなどで貸し出されるのではないでしょうか。そこで多くの人が5Gの世界を体験して、価値を感じた人が、価値に対する対価をしっかりと支払って購入してほしいと思います。
 5G端末が安いから買う、ではなくて、「5G端末は高いよね。でも4G端末では体験できない、こういう価値があるから、自分は高くても買う」というのが正しい世界です。そういう世界にしようというのが、そもそもの法改正の趣旨です。これが5G開始でいよいよ試される。5G端末が高くて買えないと文句を言う人がたくさんいたら、それは、まだ5Gの価値がないということですよ。2020年もいろんなことが起こる、目が離せない、激しい1年になりそうですね。
クロサカ氏 この1年半の議論を通じて、通信事業者さんの意識が少しずつ変わってきた感じがします。特に後半、この半年くらいの間ですが、実際に法改正が行われる前後から、以前であれば北さんが報告されていたような、「あの事業者さんのあの広告はおかしいですよ」というような、他社に対してけん制や指摘をするようになってきたと感じます。ちゃんとしよう、その上で他もちゃんと指摘しよう、事業者として業界をよくしていこうという意識が出てきた事業者さんと、まだそこまで追い付いていない事業者さんがいらっしゃるのかなと思います。
 事業者が自らの意志で競争しているのは、消費者の目から見てもいいことだと私は思っています。ですから、このムード、モメンタムをより高めていっていただくために、政策の議論もより活発に行われていくべきです。それは理念とか政策論的な話だけではなくて、エビデンスベースにできるだけ基づいていることが必要だと思います。引き続き私もなんらか関わると思うので、その一助になりたいと思っています。
 もう1つ、2020年は5Gが始まる年。いろんなものを事業者さんに求め過ぎるかもしれないですけど、やっぱり5Gはかなり大きく変わるんですね。アーキテクチャも、通信ビジネスの事業構造も変わっていくと思うんです。先日、NECさんがクラウド上で動く5Gコアを発表されて、実は縁あってデモを見てきたんですが、ちゃんと動いているんですよ。本当にクラウドと、その上のソフトウェアと、ちょっと並べた簡単な機械だけ。交換器などがなく、コアネットワークが動いているのを見ると、どんどんソフトウェアベースになってきているなと感じます。
 これは通信業界にとっての本当のデジタルトランスフォーメーション(DX)でしょう。DXという言葉は軽く聞こえますが、最終的にはレガシーなものをぶった切っていく激しい世界なんです。テイクオーバーして「昔のものはご退場ください」としていく営みなので、そういう営みを事業者として続けつつ、世の中に対してサービスが提供されないと意味がないですから、できるだけ積極的に早いタイミングで5Gをより広めていってほしい。スマホの世界だけじゃなく、その外側にも広めていくための努力を、ぜひ事業者のみなさんにはお願いしたいです。
 それをちょっとでもためらったり停滞したりすると、ユーザー側、エンドユーザーも企業も「イノベーションを止めているのはお前たちだ」と言いかねないと思うんです。5G時代に、イノベーションを止めない存在、むしろ加速する存在にどういう風になれるのかということが重要になる。5GはB2B2Xの世界になっていくと思いますので、どんどん加速するようなお手伝いができるといいなと思います。
●北俊一氏プロフィール
野村総合研究所 パートナー(テレコム・メディア担当)
 1990年早稲田大学大学院理工学研究科修了、同年NRI入社。一貫して、ICT関連分野における調査・コンサルティング業務に従事。現在、総務省情報通信審議会専門委員。近著「ITナビゲーター2020年版」。
●クロサカタツヤ氏プロフィール
株式会社 企(くわだて) 代表取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授
 1999年慶應義塾大学大学院修士課程修了後、三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、国内外の事業開発や政策調査に従事。 2008年に株式会社 企を設立。同社代表取締役として経営戦略や事業開発などのコンサルティング、官公庁プロジェクトの支援等を実施。総務省や経済産業省、国土交通省などの政府委員を務める他、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授を兼務。 近著「5Gでビジネスはどう変わるのか」。

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