Galaxyの販売を10年ぶり再開するソフトバンク、キーパーソン寺尾氏に背景を聞いた

2025年1月25日(土)11時0分 マイナビニュース


日本時間では2025年1月23日に発表がなされた、韓国サムスン電子の最新フラッグシップスマートフォン「Galaxy S25」シリーズ。その詳細は既報の通りだが、国内においては今回、従来同社製品を扱ってきたNTTドコモとKDDIだけでなく、携帯大手の一角を占めるソフトバンクも「Galaxy S25」「Galaxy S25 Ultra」の2機種を販売することを明らかにしている。
実は、ソフトバンクがサムスン電子製のスマートフォンを販売するのは、2015年発売の「Galaxy S6 edge」以来、実に10年ぶりのこと。それだけ長い間、ソフトバンクは携帯大手の中で唯一サムスン電子製端末を扱ってこなかったのだが、なぜ現在になって販売を再開するに至ったのだろうか。米国で実施された発表イベント「Galaxy Unpacked」に参加していたソフトバンクの専務執行役員、寺尾洋幸氏に現地で直接話を聞くことができた。
スマートフォンは各種AIサービスの入り口となる
そもそも、長らくサムスン電子と取引をしていなかったソフトバンクが、なぜ再び取引をするに至ったのだろうか? 寺尾氏は大きく3つの理由を挙げているのだが、なかでも最も大きな理由となるのがAIだという。Galaxy S25シリーズは、従来機種以上にAIを活用した機能に力を注いだスマートフォンだが、寺尾氏は「AIのサービスの入口って、まずはスマートフォンじゃないかと思っている」と話し、AIで共感できるパートナーとしてサムスン電子と協力するに至ったとのことだ。
ただソフトバンクはすでに、AI検索サービスを提供している米Perplexityと提携してキャンペーン施策などを展開しており、特定のスマートフォンに依存しないAIサービスの強化を図っている。そこに「Galaxy AI」をプッシュすることで、利用者の側に混乱が生じる可能性もある。寺尾氏はAIに関して、現時点では普及途上の段階だけにどのサービスが勝者となるか見えていないことから、当面は「全方位でやっている」と、あらゆる形でAIサービスを提供する姿勢を続けていく考えのようだ。
一方、2つ目の理由として挙げたのが、2024年末に施行された電気通信事業法のガイドライン改正である。この改正によって、従来のようにスマートフォンを大幅に値引いて販売するのは一層難しくなったが、それでも携帯電話会社は契約を増やすため、顧客に提供するスマートフォンの選択肢を増やしていく必要があるという。
そのことが3つ目の理由につながっていると寺尾氏は話す。サムスン電子のスマートフォンは現在、国内でも高いシェアを獲得してきていることから、同社製品を扱っていないことがソフトバンクにとって顧客獲得のチャンスを逃すことにもつながっているという。そこで現在のタイミングで改めて、同社製品を扱う挑戦をするに至ったのだそうだ。
競合他社が、販売するスマートフォンのラインアップを絞り込む状況にあって、ソフトバンクは逆にここ最近取り扱うメーカーを増やし、端末販売を強化しているようにも見える。円安による価格高騰や、先のガイドライン改正などでスマートフォンの販売が落ち込むなか、それだけ多くのスマートフォンを扱うことにはリスクもあるだろう。
だが、寺尾氏は「昔のフィーチャーフォン時代だと100万(台)とか、そういう話もありましたけれど、今売られているものはそんなに大きなロットではなくなってきている」と説明。メーカーの協力を得るなどして1端末あたりの調達数をある程度抑えることで、多くの端末を扱ってもリスクコントロールはできていると話している。
ただ一方で、世界トップシェアのサムスン電子製端末をソフトバンクが取り扱い、その重要性を高めていくことは、今後ソフトバンクが扱うメーカーの選別を進めることにもつながってくる可能性がある。この点について寺尾氏は「最終的には顧客に支持されること」としつつ、ソフトバンクとしては競争が活性化するほど調達価格を抑えられるなどメリットが生じることから、扱うメーカーの間口を広めながらもメーカー間の競争を促進していく姿勢のようだ。
法改正後もリセールバリューの高さで「実質36円」を実現
ただソフトバンクは今回、Galaxy S25シリーズの販売にあたって積極的なアプローチを仕掛けていくようだ。実際ソフトバンクは、端末購入プログラムの「新トクするサポート(プレミアム)」を適用して購入し、端末を1年で返却することで、Galaxy S25であれば実質22,036円、Galaxy S25 Ultraの256GBモデルであれば実質49,060円で利用できるとしている。
この金額は22,000円の「早トクオプション」を含んでいるので、それを差し引けばそれぞれ実質36円、27,060円で利用できる計算となることから、かなり積極的な値引き施策を仕掛けていることが分かる。しかしながら、すでにガイドライン改正がなされ、端末購入プログラムを活用しての値引き規制が難しくなっているにもかかわらず、なぜハイエンドモデルをそこまで安く販売できるのだろうか?
その理由として寺尾氏は、サムスン電子側の協力を得て、なおかつ利益を削るなどの努力をしていると説明するが、より大きな要因として挙げているのが「リセールバリュー」だ。
端末購入プログラムを活用した値引き手法は、返却時の買取予想価格によってその値引き額が変化する。今回のガイドライン改正により、その買取予想価格は中古携帯電話会社の団体であるリユースモバイルジャパンの買取平均価格を基準とする形に統一されたのだが、サムスン電子製のスマートフォンは世界シェアが高いことから、海外での人気が高いので買取価格が高めになりやすく、その分値引きもしやすいのだ。
寺尾氏は、GalaxyシリーズがアップルのiPhone、グーグルのPixelシリーズと並ぶ「3つ目の大きな柱としてやれるんじゃないかと考えた」とも話していた。それだけリセールバリューの高いサムスン電子製品に対する期待は大きいようで、ソフトバンクは今回Galaxy S25シリーズだけでなく、傘下のSB C&Sが「Galaxy Buds3 Pro」「Galaxy Watch7」「Galaxy Ring」といったウェアラブルデバイスも扱うなど、ラインアップの強化も積極的に進めている。
一方で寺尾氏は、一連のガイドライン改正によって、リセールバリューが付きにくい新興の中国メーカーなどは厳しくなってくるとも説明。そうでなくてもAndroidスマートフォンはiPhoneよりもリセールバリューが低い傾向にあり、その分値引きも難しくなることから、アップル以外のメーカーが不利な立場に追い込まれるだけに、「誰が良くなる(ガイドライン改正な)のか、よく分からない」と疑問も呈している。
では今後、KDDIのように両社の関係がスマートフォンだけでなく基地局などのネットワークにまで広がることは考えられるのだろうか? 寺尾氏は「いろんな議論をしていて、その可能性は否定もしないし肯定もしない」と回答。現時点で具体的な動きがあるわけではないが、米中の政治的対立などで中国ベンダー製の設備導入が難しくなっているだけに、「5G、6Gでこの先進んでいくなかで、いろんな議論が出てくると思う」とも答えている。
ただそれよりもまず、寺尾氏はGalaxy S25シリーズでGalaxy AIの立ち上げに専念していきたいとのこと。その後にウェアラブル製品によるヘルスケア環境の強化や、サムスン電子が海外で推し進めている家電との連携を進める考えを示しており、サムスン電子との関係をより強化していきたい考えのようだ。
佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら

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