航空機の技術とメカニズムの裏側 第471回 最近の時事ネタ(22)山火事消火に役立つ、輸送機を消防機に変身させるMAFFSなど
2025年2月4日(火)9時2分 マイナビニュース
日本に住んでいると、あまりピンとこないが、海外では場所により、しばしば大規模な山火事に見舞われることがある。最近でも、アメリカのカリフォルニア州で発生した大規模な山火事がニュース種になっていた。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照。
消防機の実現方法いろいろ
山岳地帯では地上から消防車を送り込んで消火するのが難しいし、そもそも水の確保が難しい。そこで、空から水や消火剤を撒いて火を消し止めよう、という話になる。空から撒くには航空機が必要である。
以前に本連載第61回で取り上げたことがある、シコルスキーのCH-54タルへ(民間型の名称はS-64)は、大型の輸送用ヘリコプターとして作られた。その機体が搭載能力を買われたのか、消防機として今でも使われている。
その他の機種でも十分な搭載能力があれば、消火用のバケットを吊下して消防機として使用できる。最近の導入事例だと、ポルトガル空軍(FAP : Força Aérea Portuguesa)が2022年の8月に、UH-60ブラックホーク・6機を山火事消火用として導入した。
消火活動におけるヘリコプターの利点
ヘリコプターの利点は、水源となる湖でバケットを水中に降ろし、水を汲んで現場に飛んで行けること。飛行艇でも同じことができるが、滑走しなければ離着水ができないので、そこそこ広い湖でなければ使用できない。それと比べると、ホバリングできるヘリコプターの方が、場所を選ばない。水の搭載量は少なくなるが、水源と現場を行ったり来たりすれば、なんとかなる。
こうした「現地調達型」の消防機に加えて、固定翼の輸送機を消防機に改造する事例もある。筆者が実際に見たことがある機体では、ダグラスDC-10の改造機があり、実際に水を撒くデモンストレーションをやっていた。
ただ、大きな機体は搭載能力が大きい半面、長い滑走路がなければ離着陸できないから、もっと小型の機体を使用する事例もある。オーストラリアで見かけた、BAe146/アブロRJの改造機が、その一例。機体規模が小さいために、機内に十分な搭載スペースを確保できなかったのか、中央部の胴体下面をボコンと膨らませた外見になっている。
ヘリコプターは、消火任務に出るときだけバケットを吊るせばよいが、固定翼機は水タンクと散水装置を機内に組み込む必要がある。そして、水タンクを満タンにした上で離陸して、現場に向かう。滑走路がなければ離着陸ができないから、飛行艇みたいな「水の現地調達」ができない。
ただ、水タンクと散水装置を機内に固定設置すると、消火能力が大きくなる一方で、火消しにしか使えない機体になってしまう。つまり「つぶしが効かない」。
必要な時だけ消火機材を積み込んだら?
機体構造そのものに手を入れて消防機に改造するから、火消しにしか使えない機体になってしまう。それなら、消火用のタンクと散水装置・一式をユニットにして、必要な時だけ搭載するようにしたら?
ということは誰でも考えるし、実際にそれをやっている事例もある。その一例が、MAFFS II(Modular Airborne Fire Fighting System)。日本語に逐語訳すると「モジュラー型機上消火システム」となる。今は改良型のMAFFS IIもある。放水能力は3,000ガロンとのことで、USガロンだとすれば11,400リットルとなる。この数字は、ヘリコプターが吊下するバンビ・バケットの6倍に相当するとのこと。
MAFFSは軍用の貨物輸送機に搭載する。なぜかといえば、軍用輸送機は車両を自走で搭載・卸下できるように床の位置を低くする設計が一般的だから、MAFFSみたいな大掛かりな機材の揚搭には都合がよい。それに、後部ランプを開くと、そこから水や消火剤を散布できる。
これが民航機ベースの貨物輸送機だと床の位置が高いので、搭載・卸下のために、昇降式のカーゴローダーを用意しなければならない。それでは運用に際しての制約要因が増える。
MAFFSを搭載する機体としては、まずC-130ハーキュリーズがある。C-130の民間型でLM-100というモデルがあるが、もちろんそちらでもMAFFSの搭載が可能で、実際、ロッキード・マーティンは2018年に、C-130Jの民間型・LM-100Jの消防バージョン “FireHerc” の構想を発表したことがある。
このほか、エンブラエルが2022年に、C/KC-390ミレニアム輸送機にMAFFS IIを搭載して飛行試験を実施した。もうちょっと小さいところでは、レオナルドのC-27Jを消防機に仕立てる案も出ている。
そして最新の事例としては、エアバスがA400Mに消火装置を搭載して、2024年の秋から冬にかけて試験を実施した。機体が大きいだけに、20tの放水ができるという。
著者プロフィール
○井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。