アルマ望遠鏡、原始惑星系円盤の磁場の構造や強度の観測に初成功
2025年2月7日(金)18時50分 マイナビニュース
国立天文台、理化学研究所(理研)、工学院大学、茨城大学、足利大学、鹿児島大学の6者は2月6日、アルマ望遠鏡を用いて、若い星「HD 142527」の周囲にある原始惑星系円盤を波長3mmで観測した結果(過去に0.9mm、1mm、2mmで観測済み)、惑星形成の材料となる星間塵(ダスト)の粒子から出る電波が高い割合で偏光しており、その偏光メカニズムが磁場によって生み出されていることを明らかにし、さらに詳細に磁場の方向を調べることで、円盤の三次元磁場構造を見積もる手法を提案し、実際に磁場の構造や強度を見積もることに成功したと共同で発表した。
同成果は、国立天文台 アルマプロジェクトの大橋聡史特任助教(国立天文台フェロー)、工学院大 教育推進機構の武藤恭之准教授、鹿児島大 理工学研究科物理・宇宙PGの塚本裕介准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
2025年1月9日現在、確認された系外惑星の数は5819にのぼり、そのうちで地球サイズの惑星はまだ割合としては少ないものの、210個となっている。地球サイズの惑星の場合、地球外生命の存在にもつながってくるため、そうした惑星がどのように形成されたのかを解明することは、地球の生命の起源を探る上でも重要なテーマだ。惑星は、原始星を取り巻く原始惑星系円盤の中で、星間塵や星間ガスが集まって形成されると考えられており、アルマ望遠鏡の活躍などにより、原始惑星系円盤内に実際に惑星が存在する様子も観測済みだ。しかし、惑星形成の環境や円盤内の物理的条件については、まだ多くの謎が残されている。
惑星形成の謎を解き明かす上で、原始惑星系円盤内における乱流や物質の動きを左右する重要な要素として注目されているのが、磁場だ。しかし、これまでは磁場を観測するのは非常に困難だった。原始惑星系円盤に直接探査機を送り込めれば計測は用意だが、遠方から光学的に観測するのは容易ではない。それでも、地球の地磁気のように、磁場は物質やエネルギーに影響を与え、重要な役割を果たす。この見えない力は宇宙全体に広く存在し、星や惑星の誕生に深く関わっていると考えられている。そのような背景から研究チームは今回、若い星であるこれまでにも観測されているHD 142527の周囲にある原始惑星系円盤を、従来とは異なる波長の電波で観測したという。
今回観測されたHD 142527は、惑星形成の誕生現場である原始惑星系円盤があり、その北側に塵が多く集まっており、ここで惑星の形成が進んでいると考えられている。これまで波長0.9mm、1mm、2mmで観測されていることから、今回は3mmによる観測が行われ、4種類のデータを用いての偏光メカニズムの研究が行われた。その結果、この円盤の南側の塵が少ない領域では、観測波長すべてで同じ偏光パターンを示すことが判明。偏光ベクトルが円盤の動径方向にそろい、10%以上の高い偏光度を示すという特徴的な偏光パターンは、磁場によって生み出されていることが示されているとする。
さらに磁場を詳細に調べたところ、円盤の回転方向に沿って磁場の方向が少し変動していることが発見された。この変動は磁場の三次元構造が原因であると考えられ、回転方向の磁場は0.3ミリガウスほどの強さを持ち、鉛直方向および中心星の方向の強さは0.1ミリガウスほどであることも確認された。このような磁場の三次元構造によって、この円盤では強い乱流場が作られている可能性も浮上したという。
これまで多数の原始惑星系円盤が確認された中で、このように磁場の詳細な構造が突き止められたのは今回の研究が初となる。一方で、HD 142527のような若い星において、磁場が中心星や円盤の鉛直方向にもある程度の強さで向いていることは理論的に予想されておらず、今後のさらなる研究が必要となる。
今回の研究により、原始惑星系円盤で磁場が観測される条件が明らかにされ、さらに磁場の3次元構造や強度を見積もる方法が示された。今後の円盤磁場の観測研究に大きく役立つとする。
一方で、地球のような惑星の形成において、強い乱流状態では星間ダストが互いに高速で衝突することで破壊されてしまい、惑星が形成されない可能性がある。今回の観測では中心星から比較的遠くの磁場が観測されたが、地球のような恒星の近くを公転する惑星が形成される場所での磁場を調べることが、今後は重要となるという。今回の成果について研究チームは、磁場が惑星形成にどのような影響を及ぼすのか、今後の研究を導く重要な観測成果としている。