吉川明日論の半導体放談 第327回 AIが優勝劣敗を決定する半導体業界
2025年2月13日(木)7時15分 マイナビニュース
半導体、ビッグテックの一連の決算が出揃った。決算日が微妙にずれているNVIDIAの発表はまだだが、全体を見る限りテック業界での優勝劣敗の最大の要因はAI分野でのパフォーマンスであることは明らかだ。中でも、半導体市場の動向では、AI半導体分野に参加しているかいないかで大きな違いが出ることが明らかになった。
世界半導体市場統計(WSTS)の2024年12月の発表によると、2023年から2024年の比較で市場全体の売り上げは19%アップという記録的な伸びとなった。しかし、その内容を見てみると伸び悩む自動車、PC、スマートフォンと比較して驚異的な伸びを記録したAI半導体が市場全体を引き上げたことがよく見て取れる。
AMD vs Intel、データセンター用半導体分野で歴史上初めての逆転
間隔を置かずに揃って2024年第4四半期と通期の決算発表をしたAMDとIntelはいくつかの点で明暗がくっきりと出る結果となった。
両社の10-12月期の売り上げを見ると、AMDは前年同期比24%増であったのに対し、Intelは同7%減という対照的な結果となった。
製品分野別の比較では、データセンター半導体でAMDが38億ドル超の売り上げを記録し、34億ドルのIntelを逆転した。AMDにとっては熾烈な技術競争の長年の歴史上初の快挙である。2003年のOpteron製品の市場投入で始まったサーバー半導体市場でのAMDのIntelへの挑戦は、険しい道のりの連続であったが、20年越しの悲願達成が成った。AMDの往年のOBとしては特別な思いがある。
その内容を見てみるとEPYCの市場投入でIntelのCPUシェアを着実に奪取していった事に加え、GPUベースのAI半導体製品群Instinct MI300シリーズの市場での受けがよかった事が大きく結果に貢献したのが見て取れる。
IntelのAI半導体への取り組みはおよそ往年のIntelらしくない歯切れの悪いもので、対照的にNVIDIAを明確なターゲットに据えたAMDのCEO、Lisa Suが打ち出した方向性は着実な成果を上げている。データセンター半導体での勝敗の主要因はCPUからGPUベースのAIアクセラレーターに移っている。ただし、首位を爆走しているNVIDIAの背中は一向に小さいままだ。NVIDIA一強状態への有望な対抗軸として期待された数値には未だに届かず、AMDの株価は下落した。AMDは今後もMI300シリーズのロードマップを強化しながら、ターゲットに据えたNVIDIAを追いかける。このAMDの製品ロードマップをしっかりと製造面で支えているTSMCの存在も見逃せない点である。
HBMで先行するSK hynixが記録的な経常利益でSamsungを逆転
メモリー市場での韓国の2巨人企業でも、AI半導体での優劣で大きな違いが出た。NVIDIA/AMDが次々と大規模なAIアクセラレーター製品を市場投入する中、チップレットに搭載するHBM(広帯域メモリー)の容量は級数的な上昇を続けている。学習/推論というAIタスクのパラメーターが級数的に増加するのに伴い、それを高速に実行するAIアクセラレーターが必要とするメモリーは、容量/性能ともにいくらあっても足りない状況が続く中で、HBMはメモリー市場で突出した成長を示している。
調査会社Gartnerの最近の発表では、メモリ市場全体の売り上げが前年比で72%の成長だったという。このトレンドを牽引するのがHBMであり、いち早く市場を確保したSK hynixである。同社は2024年第4四半期の決算発表で記録的な経常利益となる80億ウォンを叩き出し、Samsung Electronics全体の経常利益65億ウォンを超えるという大逆転劇を見せた。SK hynixは現在市場投入中のHBM3Eから次世代のHBM4への移行を強力に進めている。それに対抗してSamsungも研究開発費を増額して必死にその差を詰めようとしている。AIアクセラレーターの技術競争が激化する中、メモリー市場でもAI分野でのパフォーマンスが優勝劣敗を決める状況が今後も続く予測である。
RapidusのAI市場参入はなるか?
最近行われた日米首脳会談ではAI分野での日米協力がアジェンダに上り、多額の投資額が取りざたされた。しかし、ここには両国にとって非常に不都合な事実が存在している。AIアクセラレーターの開発は米国のファブレス企業に集中しているが、その製造のほぼすべてを台湾のTSMCが請け負っているという厳然たる現状である。
日本政府が推進している国策ファウンドリ会社ともいえるRapidusは北海道での工場建設を急ピッチで進めている。Rapidusが目指す最先端となる2nmプロセス開発は4月にようやくパイロットラインが稼働し、顧客獲得のためのサンプル出荷を控えている。2027年に量産を開始するという目標は、私が経験している業界の常識的なスケジュール感からいうとかなり野心的なもので、ちょっとした躓きも許されない。
この分野ではSamsungやIntelなどの巨大企業がTSMCに挑戦しているが、現在のところTSMCの独り勝ちの状態は変わらない。最先端のプロセス技術開発では巨額の資金だけではどうにも解決できない技術のコア部分が存在するのが厳しい現実である。
吉川明日論 よしかわあすろん 1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を機に引退を決意し、一線から退いた。 この著者の記事一覧はこちら