kintoneがエンタープライズ戦略を本格化、「誰でも使えるIT」で勝負

2025年2月26日(水)7時0分 マイナビニュース


「kintone(キントーン)」というと、サイボウズが得意とする中小企業が活用しているイメージがあるが、エンタープライズ(大企業)の導入も進んでいる。「すでに東証上場企業の約3割がkintoneユーザーだ」と説明するのは、エンタープライズ事業本部兼事業戦略室の池田陽介氏。2024年にエンタープライズ向けライセンス「ワイドコース」を加え、機能面でも強化が進んでいる。池田氏に話を聞いた。
大企業で広がるkintone導入、専用コースを用意
サイボウズが手がける「kintone」は3万7000社が導入するローコード/ノーコード開発プラットフォームだ。現在も毎月730社がkintoneユーザーになるなど、その勢いは衰え知らずだ。
現在、3万7000社の約9割を中小企業が占めているが、従業員1000人以上のエンタープライズでの導入も増えている。従業員が1000名以上の企業が約4000社でそのうち約3割に導入されているという。
エンタープライズでの導入が拡大している背景にあるのは、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。コロナ禍で進んだクラウド化やペーパーレス化、リモートワークへの対応需要も追い風となった。DXといっても、「単なるデジタルツール導入にとどまらない。新規事業開発や企業変革、人材育成の基盤としてkintoneが活用され始めている」と池田氏はみている。慢性的な人材不足もkintoneのようなツールの需要を高めている。
サイボウズとしての方向性もある。池田氏は「我々の企業理念は『チームワークあふれる社会』。当然これを実現していくにあたってエンタープライズも例外ではない」と説明する。
そのようなことから、2024年7月にエンタープライズ向けを想定したライセンス「ワイドコース」の提供を開始した。開発できるアプリの数は3000個と、既存ライセンス「スタンダード」の3倍。1日あたりの1アプリへのAPIリクエスト数は10万回。スタンダードの10倍とした。
このほか、ワイドコースのみの機能も揃える。既存のポータルの拡張やフローチャートを可視化、承認履歴が残せるプロセス管理強化などだ。
大企業で特に重要になるガバナンスについても、導入時に役立つ資料「ガバナンスガイドライン」を提供している。こちらのノウハウを活用することでローコード/ノーコードツールを最大限に活用しつつ、野良アプリ対策などの事前対策を講じるのことができるという。
ワイドコース導入から半年、「既存ライセンスから切り替えていただいたお客様や、新規でワイドコース導入検討も進んでいる」と池田氏は状況を説明する。
パートナー側では、販売系と開発系を合わせて450社以上というパートナーのうち、エンタープライズ企業に対しての導入実績や大規模利用のノウハウなどを認定する制度『kintone エンタープライズパートナー認証』を設けた。現在7社が認証を受けている。
「誰でも使える」で差別化、新規事業創出でも活躍
エンタープライズ企業はどのようにkintoneを活用しているのか。池田氏はいくつかの事例を紹介した。
ある大手機械メーカーは、kintoneを使って約1000のアプリを内製した。情報システム部門が主導して市民開発の文化を育成している。従来型の「情シスが開発して現場が使う」というモデルではなく、現場の従業員自身がシステムを開発できる環境を情報システム部が整備し、支援役となっているという。
また、ある大手スポーツ専門店では、kintoneを使って新規事業の創出につなげた。コロナ禍で事業が影響を受ける中、kintoneを使ってキャンプ用品などの中古買取ビジネスの仕組みを構築して新しい事業を創出した。
さらに、店舗スタッフがゴルフクラブのフィッティング管理アプリを開発し、これまで紙のカルテで管理していた顧客データのデジタル化に成功。サービスの均質化と顧客満足度の向上を実現したという。「自分たちでアプリを作ることができるという市民開発の文化が生まれた事例だ」と池田氏は話す。
このように、kintoneを使って開発するアプリはさまざまだが、エンタープライズで入口として多いのが申請系ワークフローのデジタル化とのこと。紙の押印プロセスを電子化することで、業務効率化と時間削減を実現できる。効果がわかりやすい上、ユーザー数も多いのでインパクトが大きい。
最近の事例としては、ある大手製造業が、見積もり、発注管理、問い合わせ管理に加えて、化学品の危険有害性情報伝達のラベルとなるSDS(安全データシート)作成などにもkintoneを用いて効率化を図った。
そのほかにも、情報システム部がkintoneをベースにプラグインなどを活用して機能拡張や他のシステムとの連携を行う使い方もある。
調査会社のアイ・ティ・アールによると、ノーコード/ローコード市場は2022年度に前年度比16%で成長、2027年度まで年間14%増で成長する見込みだ。競合も多い。kintoneの差別化について池田氏は、「誰でもITを使い、業務アプリを作って改善できることを目指しているので、ノーコードで開発できる点は大きな強み」と言い切る。
その上で、池田氏はエンタープライズにおけるkintone成功のポイントとして、「トップの合意、現場を巻き込むことだ」と指南する。
AIとノーコードは補完関係「相性がいい」
エンタープライズ事業が軌道に乗る中、今後はさらに取り組みを加速させる。「社内では2028年を1つのマイルストーンとして、エンタープライズ事業を大きく伸ばすという目標を掲げている」と池田氏。方向性は、新規導入と既存顧客における浸透率の向上だ。それに向けた対策を多面的に展開していく。
まず機能側では、春頃にもワイドプランにkintone上にあるアプリの使用や権限設定などを分析できる「アプリ分析」を加える予定だ。さらに昨年のCybozuDays2024で発表した、「Google Big Query」「Amazon RDS」など外部システムに蓄積されたデータをkintone上で閲覧、操作することができる機能や開発したアプリの性能状況などを確認できるダッシュボード機能の提供も今後提供予定。
このほか、生成AIへの取り組みも進んでおり、AIアシスタント(仮称)の提供も始まった(本稿執筆時点でβ版を提供中)。RAGを利用してkintoneで作成したアプリをデータソースとしてAIが利用できる機能を提供予定だ。CybozuDays2024で発表した機能はこちらの記事で確認できる。
ノーコードとAIの関係も気になるところだが、池田氏は「補完関係になるだろう」と予想する。「AIの利用拡大によりノーコードは要らなくなるとの見方もあるようだが、生成AIを利用するにはデータが必要。kintoneのデータはアプリ単位で目的が分かれていて構造化もされている。必要に応じてアクセス権などの設定もされているため、kintoneで作ったアプリはデータソースになる。AIとノーコードの相性はいい」と胸を張る。
エコシステム面では、先述のパートナー制度に加えて、約7年前から運営している大企業ユーザー主体のコミュニティ「kintone Enterprise Circle(kintone EPC)」などの活動も活発だ。EPCでの成果の一つとして、エンタープライズにおいてDX人材育成が課題となっていることを受けて、2023年に「DX人材育成ガイドライン」をエン・ジャパンと共同作成した。このような支援も継続していく考えだ。
また、“kintone spotlight”として、kintoneを活用している方にスポットライトを当てて盛り上げる社内の事例発表会イベントの開催をサイボウズが支援する取り組みも始まっているという。
「日本国内において現状で不足しているIT人材は、今後さらに足りなくなる。そのような状況の中、IT部門だけでなく現場の方々のITスキルを向上していくことは欠かせない。業務アプリを直感的に作成できチーム内で共有できるkintoneはその基盤に適しており、2025年の崖の解決にもつながるだろう」(池田氏)

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