dynabook X8 CHANGERレビュー - 13.3型モバイルPCの2mmキーストロークをみっちり触った

2024年2月28日(水)6時0分 マイナビニュース

●バッテリー交換機構付きの高性能モバイルPC
2023年の夏、Dynabook社は開発中の新モデルとして、バッテリー交換機構を備えた13.3型モバイルノートPC「dynabook X83 CHANGER」を発表した。
モバイル利用を重視した軽量薄型ノートPCとしては少なくなってきた「ユーザーが交換可能」なバッテリーパックの採用や、同類のモデルとしては深い、2㎜のキーストロークを実現したキーボードなど、興味深い新機軸を導入している。
発表会当時は法人向けモデルのみでその存在を明らかにしていたが、“わかっている”Dynabook社はその場でコンシューマー向けモデルの登場も予告していた。
その予告通り、CHANGERのコンシューマーモデルとして「dynabook X CHANGER」シリーズが2024年1月に19日に発売された。
この記事ではdynabook X CHANGERについて、CHANGERが主要な訴求ポイントとしていた深いストロークを実現したキーボードの使用感と、主に“昔を知る”ベテランユーザーが期待している「交換可能なバッテリー」の実利用における使い勝手を検証する。
○キーボードの2mmストローク、使用感は?
2mmのキーストロークを実現したdynabook X8 CHANGERのレビューということで、やはり最も気になるのがキーボードの使用感だろう。このレビューでも冒頭からこの視点で評価していく。
なお、キーボードの使用感という“主観的モノサシ”が影響する評価項目であるので、まずはレビューアーである筆者が普段使用しているキーボードを明らかにしておこう。デスクトップPCでは「Happy Hacking Keyboard Professional2」を、ノートPCではThinkPad T14sをそれぞれ普段使っている。
なのでキーボードのタイプ感の評価はこれらのキーボードが基準となることを、あらかじめお断りしておく(そのため、タイプ時のクリック感がはっきりとしているメカニカルキーボードを好むユーザーの感覚や好みとは多少異なる評価になるかもしれない)。
さて2023年に登場した法人向けの“CHANGER”では、ストローク長が「2㎜」と「1.5㎜」という、2種類のキーボードユニットを用意している。マイナビニュースではその開発インタビュー記事を掲載しているが、2㎜のキーボードユニットを搭載するモデルでは本体そのものも”別物”になる、という説明だった。
そんなわけでCHANGERの法人モデルは搭載するCPUやシステムメモリ、ストレージ容量などの違いに加えて、キーボードストロークが異なる構成があるため、その選択は“けっこう大変そう”という印象だった。
しかし個人向け店頭モデル(今回のdynabook X CHANGER)で用意されているのは、2024年2月26日時点で、上位構成にしても下位構成にしても、キーストロークは2mmの一択となっている。
○打鍵感はとにかく軽い! 正統派の薄型キーボード
2mmのキーストロークは“見た目”でもその存在を主張している。
イマドキのモバイルノートPC……、に限らず、多くのカテゴリーで薄型ボディが好まれることもあって(あ、ゲーミングノートPCはまた別世界の話ということで)、そのキーストロークはほとんどのモデルで1.5mm以下となっている。
「とはいっても1.5mmと2mmじゃ0.5mmしか違わないでしょー」と思う方もいるかもしれない。しかし、人が認識する“感覚”というのは鋭敏なもので、わずか0.5mmの違いでも、パッと見た目で「んんん? このキーボード、なんか“背が高く”ないー?」と思わずつぶやいてしまうはずだ(私はそうだった)。
なので、見た目から受ける印象としては「おお、これならデスクトップPCのように、いや少なくとも、これまでのノートPCと比べたらキートップを“ぐぐぐぅー”っと押し込めるね!」と期待しながらキートップに載せた指に力を込めるだろう(それも無意識に)。
その勢いでタイプすると、キートップは「スッ(トン)」と軽く押し下がる。「スー」ではなく、あくまでも「スッ」だ。
もちろん、ストローク分だけの押し下げ距離は認識できる。2mmを押し下げるのと1.5mmを押し下げるのとでは、そのストローク“距離”の違いは明確に認識できる。
ただし。
押し下げるのに力はいらない。いたって素直に「スッ」とキートップは下がっていく。ありていに言えば、とにかく軽い。
レビュー記事としては「タイプ感が軽いキーボード」となる。見た目の背の高さから「ググっと押したい」と思うかもしれないが、その思いを受け止める「押し返す力」をキーボードから感じることはないだろう。
とはいえ、押し下げる力に対して、本体はたわまずにしっかりと耐えてくれる。その受け止める力はキートップを押し切ったときに、ごくごく軽く(トン)と認識する。この(トン)のおかげでユーザーは安定して快適にタイプを続けることができる。
●交換できるバッテリーの令和的存在意義
dynabook X CHANGERでバッテリーが交換できると聞いて「バッテリーパックを交換しながら、屋外で長時間駆動が可能になるじゃーん」と期待する、モバイルノートPCベテランユーザーのなんと多いことか。
ただ、現代のノートPC、というかモバイルデバイスでバッテリーを交換できるメリットは、「長期間使用してバッテリーが劣化したデバイスでも、バッテリーパックを新品に交換することで使い続けられる」ことにある。これは、スマートフォンなどの例を見れば、多くの人に理解してもらえるだろう。
○バッテリーの交換機構はいつ役に立つ?
スマートフォンを長期間使っているうちに、バッテリー駆動時間がどんどん短くなって、最終的にモバイルバッテリーが手放せなくなるケースは少なくない。
スマートフォンはバッテリーが持たなくなった時点で、新しい製品に乗り換えることも“比較的”容易だ(とはいっても最近は価格が高くてなかなかすぐに新しいものを購入するわけにもいかないが)。
しかしモバイルノートPCとなると価格が高いこともあってなかなかそうもいかない。特に同時に大量のノートPCを導入することが多い企業の場合、バッテリーの劣化がほぼ同時期に来てしまうため、買い換えコストは膨大になる。
このような場合、バッテリーパックを交換できるノートPCならコストを抑えてバッテリー駆動時間を戻すことが可能だ。先に紹介したインタビュー記事でも、Dynabook社はdynabook X CHANGERでバッテリーパックを交換できる理由の大きな1つとして、劣化したバッテリーを交換して、所有しているPCの寿命を延命することにあると答えている。
なお、バッテリーパックの交換作業ではドライバーが必要になる。ドライバーで底面にある2つのネジを解除してカバーを外してから、バッテリーパックを固定しているロックを解除する。ドライバーが必要になる時点で、日々の屋外作業中で予備バッテリーに交換する運用は想定していないと言えるだろう。
余談だが、“バッテリーパックを交換して屋外で長時間作業できる”という希望に応えた典型的な例が、“昔々”日本IBMの大和研究所が開発してライオスシステム(日本IBMとリコーの合弁会社。いまはもうない)に製造を任せた「チャンドラ」(これはあくまでも開発コードネーム)という“サブ”ノートPCだ。
チャンドラのバッテリーで偉かったのは、バッテリーパックをボディの左右に2個搭載して、1つのバッテリーが切れてももう1つのバッテリーで駆動しつつ交換できる“だけ”でなく(いやこれだけでも当時としては画期的なだけでなく、いまに至るまで同様のことができるノートPCはめっちゃ稀)、バッテリーパックとして当時ホームビデオ用に普及していて家電量販店ならどこでも購入できた汎用バッテリーを採用していたところだった(入手が容易なだけでなくバッテリーの性能向上に関わる開発をバッテリー専業メーカーに任せることができた)。
●幅のサイズが使い勝手に効いてくる
本体のサイズは同じDynabook社のモバイルノートPCラインアップや競合他社の13.3型ディスプレイ搭載モバイルノートPCと比べてそれほど違わない。とはいえ、同じ13.3型ディスプレイ搭載ながら横縦比16:9(解像度1,920×1,080ドット)のdynabook G8シリーズと比べると、dynabook X8 CHANGERは幅が6.8mm短く奥行きは2mm長くなる。
幅の6.8mmがわずかの違いのように思えるかもしれないが、それでも、例えばスターバックスの狭めな丸テーブルに本体をおいたその脇にラージサイズのカップを余裕で置くことができる。そういう意味では喫茶店で広げて使うのに窮屈な思いはしなくてすむだろう。
○インタフェースは余裕あり、Wi-Fi 6Eを搭載
本体に搭載するインタフェースは、Thunderbolt 4(USB 4 Type-C)×3基(電源コネクタ兼用)、USB 3.2 Gen1 Type-A×2基(1基はパワーオフUSB充電機能に対応)、ヘッドホン&マイク端子のほかに、映像出力用としてHDMI出力(Standard A)、そして、ビジネス用途や最近ではネットワーク対戦用の高速有線LAN接続用としてRJ-45を用意する。
また、メディア用インタフェースとしてはmicroSDスロットも載せている。種類はdynabook Rシリーズやdynabook Gシリーズと同等ながら、Thunderbolt 4(USB 4 Type-C)は最多となる3基を有するのが特徴といえるだろう。
無線接続インタフェースでは、IEEE802.11axまでカバーするWi-Fi 6E(ただし2.4GHz対応)とBluetooth 5.1を利用できる。
○耐久性にこだわり、ディスプレイは180度開く仕様
dynabookのモバイルノートPCは早い段階から(それこそ前身の“東芝”の時代から)、堅牢性能に確保に注力してきた。
dynabook X CHANGERでは、Dynabook社による独自試験を18項目にわたって実施している。この数はdynabook Rシリーズと同等(ただし項目としてはRシリーズが実施したディスプレイ衝撃試験をXシリーズは行ってない)でdynabook Gシリーズの17項目を上回る(GシリーズではXシリーズがクリアした防滴試験、無線品質試験を実施していない)。
なお、Dynabook社では、堅牢性の指標としてMIL-STD-810H準拠した耐久テストを工場出荷時に実施してクリアしていることも訴求ポイントとして挙げているが、dynabook X CHANGERに関しては2月初旬時点で「実施予定」となっている。
ディスプレイ上部には、有効画素数約92万画素のカメラとステレオ入力に対応するアレイマイクを配置。音声関連機能では環境ノイズをカットする「AIノイズキャンセラー」が利用できる。
○地味ながら新世代エンパワーテクノロジーを支える小技
dynabookシリーズの特徴として、エンパワーテクノロジーの対応が挙げられる。dynabook X CHANGERではエンパワーテクノロジーの新しい構成要素の1つとして、一見地味ながらもユニークな仕掛けを用意した。それが「ダスト・クリーニング」機構だ。
通常ノートPCでは、CPUから発する熱を内部から排出するために、吸気口から外気をクーラーユニットに取り込む。しかしこの空気の流れを作るファンに、外気と一緒に取り込んだホコリや油分が付着すると、ファンのブレード形状を変えてしまい、風量効率を下げてしまう。すると、CPUの温度は上昇し、今度はCPUの発熱を抑えるために動作クロックを下げることになる。これが、結果的に処理能力の低下につながる。
このような事態を回避するために、底面の左右2か所にある吸気口にフィルター=ダスト・クリーニング機構を用意している。このフィルターは取り外し式になっているので、ユーザーが外して掃除することで、結果的にPCの処理能力を維持できるようになっている。
●モバイル決戦「dynabook X対dynabook G」
以上のように、新機軸のエンパワーテクノロジーを導入したdynabook X CHANGERでは、今回評価する上位構成(X8)のCPUに第13世代の「Core i7-1360P」を搭載している。
TDP(Processor Base Power)は28Wで、処理能力優先のPコアを4基、省電力を重視したコアを8基組み込んでいる。Pコアはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては12コア16スレッドだ。ここまでは、同じdynabook X CHANGERの下位構成(X6)のCPUとして採用する「Core i5-1340P」と共通する。
しかし、スマートキャッシュの容量は18MB(Core i5-1340Pでは12MB)で、動作クロックがP-coreでベース2.2GHz、Max Turbo Frequencyで5.0GHz、E-coreでベース1.6GHzのMax Turbo Frequenc3.7GHzと向上する(Core i5-1340PではP-coreでベース1.9GHzのMax Turbo Frequency4.6GHz、E-coreでベース1.4GHzのMax Turbo Frequency3.4GHz)。
TDPはベースで28W〜64Wとなる。グラフィックス処理にはCPU統合のIris Xe Graphicsを利用するのは同様だが、演算ユニットは96基で動作クロックは1.5GHzとこちらもCore i5クラスと比べると強化されている。
なお、CPU以外で処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、試用機のシステムメモリはLPDDR5-4800を採用していた。容量は16GBでユーザーによる増設はできない。ストレージは容量512GBのSSDで試用機にはSamsungのMZVL2512HCJQを搭載していた。接続バスはNVM Express 1.4(PCI Express 3.0 x4)だ。
Core i7-1360Pを搭載したdynabook X8 CHANGERの処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark Time Spy、CrystalDiskMark 8.0.4 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:暁月のフィナーレを実施した。
なお、比較対象としてCPUに同じくCore i7-1360Pを搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがDDR5-4800 16GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPC(要はdynabook G8/W)で測定したスコアを併記する。
大きくスコアが開いているわけではなく、PCMark 10 ProductivityとCrystalDiskMark 8.0.4 x64 Seq1M Q8T1 Readでは逆転されていたりもするが、総じて「新機軸エンパワーテクノロジー」を導入したdynabook X8 CHANGERが上回っている。
特に、3DMark Time Spy、3DMark Night Raid、FFXIV:暁月のフィナーレといったゲームベンチマークテストで大きくスコアを向上させている。
このほか、外出先で使うときに気になる騒音と、薄型モバイルノートPCで注意したい表面温度を把握するために、温度と騒音をチェックした。
電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行し、CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パークレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定した音圧の値は次のようになった。
○パフォーマンスは確かに新世代。キーボードは「イマドキ仕様」
注目のキーボードは確かにストロークが十分にあって、タイプしたことを十分に感じることができる。キーはぐらつかず押し込んだ力をたわむことなく受け止めるので安定してタイプを続けられる。
見た目から受ける印象より軽い力でタイプできるのでイマドキのノートPCに慣れたユーザーなら快適と思うだろう。一方で、デスクトップPC用キーボードと同じようなタイプ感触を予想していると「ん?」と思うかもしれない。
小技を利かせたエンパワーテクノロジーの進化はベンチマークテストのスコアで確認する限り、処理能力を確実に向上させている。メンテナンスが容易なダスト・クリーニング機構のおかげで、長期間使い続けても処理能力は維持できるだろう。能力の維持という観点ではユーザーが交換できるバッテリーパックも管理コストの削減としては有効だろう。
総じて、最新の動向を理解しているモバイルノートPCユーザーにとっては有効な工夫を重ねたワークホースとして役に立つ道具に進化したといえそうだ。一方で、ベテランの“オールドソルト”にとっては、昔のモービルPCで描いていたロマンとはちょっとだけ方向が違うと感じるかもしれない。

マイナビニュース

「ストロー」をもっと詳しく

「ストロー」のニュース

「ストロー」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ