脳内のドパミン減少による不安が引き起こされる仕組み、岡山理科大が一端を解明

2024年3月25日(月)9時32分 マイナビニュース

岡山理科大学は3月21日、これまでよくわかっていなかった神経伝達物質の一種である「カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)」を投与されたマウスが、不安様行動を誘発されてしまうメカニズムについて、CGRPが“幸せ物質”などとも呼ばれる神経伝達物質「ドーパミン(ドパミン)」を減少させること、およびその機序にエピジェネティックな制御系が関与していることを明らかにしたと発表した。
同成果は、岡山理科大の橋川成美准教授、同・橋川直也准教授らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の生物学を扱う学術「Communications Biology」に掲載された。
不安障害は、ヒトの感情の1つである“不安”が日常生活に支障を来すほどの状態にまで進んでしまう症状で、そこに至るきっかけは環境・遺伝・社会的要因など、個人ごとに異なった複数の要因が複雑に絡み合った結果と考えられている。不安障害に対する薬剤として「ベンゾジアゼピン系」が用いられているものの、多くのメリットがある一方で、依存性や離脱症状(依存性のある薬物などの反復使用を中止することから起こる病的な症状)などの問題もあることから、そうした心配のない新たな薬剤の開発が求められるようになっている。
CGRPは知覚神経に含まれる神経伝達物質であり、痛みを感じる時に遊離され、強力な血管拡張作用を示すことが知られており、マウスに投与すると不安様行動を起こすことが確認されていたが、そのメカニズムについては良く分かっていなかったという。そこで、研究チームはCGRPがどのようにして不安様行動を引き起こすのかを解明することを目的に、CGRPの投与により不安様状態が引き起こされたマウスの脳海馬における遺伝子の変化を観察することにしたという。
その結果、CGRP投与で不安様行動が引き起こされたマウスの脳では、記憶や学習、ストレス応答や不安に関与する脳の重要な領域である「海馬」のドーパミン量が減少していることが判明。これを踏まえて、報酬や快楽、感情調節に関与している神経伝達物質の一種であるドパミンの合成酵素や代謝酵素の発現量が調べられたところ、ドパミン代謝酵素「MAOB」が有意に増加していることが確認されたとする。
これを受けて、CGRPがMAOBを増加させる機序として、同酵素との関連が知られている、遺伝子の転写を調節する因子「KLF11」が関与していると考察。分析の結果から、CGRPの投与により、KLF11が発現上昇していることを確認したという。
さらにKLF11の発現調節として、これまでの研究からメチル化ヒストン「H3リジン9」に結合することで、「クロマチン」を凝集させて遺伝子をにエピジェネティックにオフにする「サイレンシング」を促進することと、リン酸化されるとその結合が離れ、凝集がほどけることが報告されている「ヘテロクロマチンプロテイン1(HP1)」タンパク質ファミリー分子の1つである「HP1γ」に着目する形でCGRPが投与されたマウスの海馬を調べたところ、リン酸化HP1γが増加し、KLF11の遺伝子の転写を調節するDNA領域の中でも、特に転写効率を著しく高める部位である「エンハンサー領域」のHP1γ量とメチル化ヒストンH3リジン9量が減少し、クロマチンの凝集がほどけてKLF11の転写を活性化させることが判明したとするほか、CGRPによる不安様行動は、MAOB阻害薬や、MAOBに対するsiRNA(短鎖RNA)を用いたノックダウンにおいても抑制されることが確認されたとする。
なお研究チームでは、これらの成果について、CGRPが介在する多くの病態の発症機構の一端を解明したということに加えて、不安障害の理解を深め、新たな抗不安薬の開発や治療法の試験に役立つ可能性が期待されるともしている。

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