吉川明日論の半導体放談 第128回 半導体業界用語の基礎知識 「スピン」

3月27日(金)7時0分 マイナビニュース

私の半導体業界での経験で学んだ用語を私の勝手な解釈で思い出と一緒に解説しようという今回のシリーズ。今回は「Spin(スピン)」を取り上げたい。今回も正確性については甚だ自信がないが読み物だと思ってお付き合い願いたい。
スピンの半導体業界での意味

ここで言う「スピン」はフィギュアスケートのスピンではない。スピンとは「回す」と言う意味で、マイクロプロセッサー業界ではあまりよろしくない言葉として用いられる。

と言うのもスピンは完成したマスクを基に製品を製造してみたものの、致命的なバグがあったり、思ったような性能が達成できなくてマスクの変更を余儀なくされた場合に使われる用語だからである。「あのチップはもう一度スピンさせるらしい」と言えば「不具合を修正するのにマスク変更をしなければならないので製品の市場投入は少なくとも3〜4か月は遅れる」という事を意味する。

スピンにまつわる苦い思い出

スピンについては私はAMDで何度も経験したが、一番苦い思い出となって記憶に残っているのは「Barcelona」の時である。

BarcelonaはK8シリーズのAMD最初の4コア製品のコードネームであった。65nm/SOIという当時の先端プロセスで4コアを集積するBarcelonaはK8ベースのAMD Opteron発表後、2コアのWoodcrestで肉薄するIntelを一気に振り切るはずの戦略製品であったが、4コアの集積CPUを最先端プロセスで製造するという野心的なアプローチの結果、AMDは大きく躓いた。経緯は下記の通りであった。

2007年3月、AMDはBarcelonaを同年8月から出荷開始と発表。
2007年8月、AMDはBarcelonaの出荷開始時期を「9月から少量」と変更。
2007年11月、AMDはB2(B1シリコンをスピンしたもの)にバグが発見されたという理由でBarcelonaの出荷を一時停止。
2008年4月、AMDはB3(B2シリコンをスピンしたもの)にてBarcelonaの出荷を再開。

公に発表したものだけでも2回のスピンを行っている。実際には4-5回のマスク変更があったと記憶している。当時Barcelonaはある国立大学のスパコンに採用が決まっていたので、出荷時期が遅れるたびに顧客からは大きなプレッシャーを受けた。もう大丈夫だろうと思っていると「ソフトのパッチで何とかやろうとしたのだが、やはりまたスピンするらしい」などと言う社内連絡があって心が折れかかった経験がある。結局スパコンの稼働にはぎりぎりで間に合ったが、猛追するIntelとの差は大きく縮まってしまった。スピンは怖い。

著者プロフィール
吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

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