ソフトバンクと理研が進める量子・スパコン連携は社会に何をもたらすのか?

2024年3月27日(水)12時25分 マイナビニュース

理化学研究所(理研)とソフトバンクは、経済産業省(経産省)と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募したプロジェクトである 「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ポスト5G情報通信システムの開発(委託)」における開発テーマ「(g1)量子・スパコンの統合利用技術の開発」に採択され、量子コンピュータとスーパーコンピュータ(スパコン)の連携利用を目指すプラットフォームの研究開発プロジェクトを2023年11月より開始している。2024年3月25日、同プロジェクトのキックオフシンポジウムが開催された。
「JHPC-quantum」プロジェクトが目指すもの
「JHPC-quantum」プロジェクトと名付けられた、この“計算可能領域の開拓のための量子・スパコン連携プラットフォームの研究開発”に向けた取り組みの研究開発統括責任者を務める理研 計算科学研究センター 量子HPC連携プラットフォーム部門 部門長の佐藤三久氏は、理研が2023年度より開始した最先端研究プラットフォーム連携(TRIP: Transformative Research Innovation Platform of RIKEN platforms) 事業の一環としてソフトバンクを共同提案者とし、東京大学(東大)ならびに大阪大学(阪大)を共同実施者として推進していくとする。
同プロジェクトの目標は、量子コンピュータとスパコン/HPCを連携するための量子・HPC連携システムソフトウェアを研究開発し、これまでのスパコンのみでは困難だった領域の計算を可能とする量子・スパコン連携プラットフォームを構築することに加え、既存のスパコンのみによる計算に対し、量子・HPC連携アプリの優位性を実証するとともに、この計算プラットフォームで実行される量子・HPC連携アプリを、ポスト5G時代のネットワークで提供されるサービスとして展開する技術として開発すること。
プロジェクトの推進にあたっては、商用化されたタイプの異なる量子コンピュータ(2台)を理研内に導入し、2025年度に稼働させる予定だとしている。具体的には、理研(和光地区)に、量子コンピュータ(超伝導・シリコン量子ビット方式・理研独自開発)と、量子コンピュータ(Quantinuum製の20量子ビット以上のイオントラップ方式)を、理研(神戸地区)に量子コンピュータ(IBM製の100量子ビット以上の超伝導方式)、スパコン(GPUシステム)、スパコン「富岳」という振り分けで、計算資源の多様化・ソフトウェア開発を通じた計算資源・計算可能領域の拡張を図っていくという。
理研内に導入される2台の量子コンピュータにおける設置から完了までの間は、クラウドを通じて量子コンピュータの計算資源を活用し、量子コンピュータとHPCの連携に向けたソフトウェアスタックの開発を行うとのこと。
プロジェクト期間は、2023年11月1日から5年間を予定しており、この5年間の中間目標(ステージゲート)として、実際の量子コンピュータを整備し、開発した量子・HPC連携システムソフトウェアの活用を設定。連携システムソフトを活用する形で理研のみならず東大や阪大のスパコンとの相互利用まで含めた量子・スパコン連携プラットフォームを構築し、運用体制の整備を進め、同ブラットフォームの量子・HPC連携アプリケーションの研究開発者に向けて提供することも予定しているとする。
そして、最終的には同プラットフォームにおいて、いくつかのアプリ・アルゴリズム(2024年3月時点では量子ダイナミックスのアプリを想定)を用いて、量子・HPC連携によるアプリの有効性実証を行うほか、連携システムソフトを用いて、複数のスパコンならびにクラウドと複数の量子コンピュータおよび量子計算シミュレータからなるマルチプラットフォームを構築、それぞれ相互に利用できることを確認していくという。
なぜ、量子コンピュータとスパコンを連携させるプラットフォームが必要になるのか? その必要性について佐藤氏は、「これから開拓される量子コンピュータの利用を考えると、量子コンピュータに期待されるアプリケーション領域の多くは、これまでスパコンでの計算能力を用いてサポートされてきたアプリケーション領域であり、スパコン側からは量子コンピュータはこの領域のアプリケーションを大幅に加速する装置として捉えることが適切だ」と説明したほか、「現在、ハードウェアとして実現されている量子コンピュータの多くは、NISQ(Noisy Intermediate Scale Quantum Computer)であり、活用するためには従来のデジタルコンピュータによる適切な制御、ノイズによるエラーの緩和(error mitigation)、回路分割・最画化を行う必要がある」と量子コンピュータだけではその性能を活かしきれないことを指摘する。
さらに、量子コンピュータのアルゴリズムの研究開発には、量子計算シミュレータが不可欠でありqubit数が大きくなればスパコン級の演算能力が必要になるとし、量子・スパコン連携プラットフォームの必要性を強調していた。
量子コンピューティングの現状と量子・HPC連携の展望
超伝導型の量子コンピュータでは、量子ピット数が100を超え、すでにステートベクトル法のシミュレータでシミュレートできる範囲を大きく超えている。量子コンピュータの技術は、エンジニアリングのフェーズに入っているとされ、今後も量子ビット数は年々増えていくことが期待されている。
しかし、「100量子ピットは実用にはまだまだ足りない」と佐藤氏は言う。忠実度は次第に改善されているが、依然、NISQ(ノイズあり)で、FTQC(ノイズなし)が実用化されるにはまだ時間がかかるだろうとのこと。
こうしたいろいろな課題が残されている量子コンピュータであるが、今後も進歩が続いていくのは確実。「現在の規模ではまだまだ実用アプリは限定されるが、近い将来を見据えて利用領域を開拓して準備しておくことは非常に重要だ」と締めくくった。
また、理研 計算科学研究センターの松岡聡センター長は「計算の、計算による、計算のための科学」というスタンスが現代の科学のメインストリームとなっているとし、計算の科学で技術を「つくる」、計算による科学で技術を「つかう」、そして計算のための科学でそれら技術を他分野へ「ひろげる」といった三位一体となって進化することで、次世代の計算を実現していくと述べ、同プロジェクトにかかる期待の高さを述べていた。

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