APS-Cミラーレスの新基準、ニコン「Z50II」 シグマ単焦点レンズで撮影してみた
2025年3月28日(金)19時0分 マイナビニュース
「Z50II」は、APS-Cセンサーを搭載するニコンのミラーレスカメラ。2024年12月にそれまでの「Z 50」からバトンタッチしました。Z50IIの主要な機能や先代モデルからの進化点、操作感などの紹介に加え、Z50IIの小型軽量ボディを生かすシグマのAPS-C専用単焦点レンズ3本と組み合わせた作例をご紹介します。
エントリー機ながら機能や装備が底上げされた
Zシリーズは、現在のところ3つのモデルがAPS-Cサイズのイメージセンサーを搭載しています。今回のZ50IIのほか、クラシックなスタイルが特徴の「Z fc」、Vlogなど動画撮影に軸足を置く「Z 30」です。これら3モデルのなかで、Z50IIはスタンダードと呼べる位置付けのミラーレスで、静止画撮影を主な目的とするエントリーユーザーからベテランユーザーまで幅広い支持を狙います。
Z50IIの外観は、Z 50からの変化が少なくありません。際立ったところとしては、ショルダー部が高くなったことに加え、正面から見て左ショルダー前面に動画撮影時に点灯するRECランプ(タリーランプ)が備わっています。ピクチャーコントロール専用のボタンを、新たにトップカバーのISO感度ボタンとメインコマンドダイヤルの間に設けたことも注目点。ピクチャーコントロールでは、フィルター機能であるクリエイティブピクチャーコントロールも選択できるので、積極的に活用するユーザーにとって便利に思える進化と言えるでしょう。
カメラ背面部は特に大きく変わりました。これまで、拡大ボタンなどいくいつかの操作部材は液晶モニターのタッチ操作としていましたが、すべて物理ボタンに変更。タッチ操作はどことなく心許ないところがあるので、操作感、操作性がぐっと向上したように思えます。ちなみにボタンレイアウトは、Z6IIIの背面からサブセレクターを省略したものに準じています。
液晶モニターはスペックこそ3.2インチ、104万ドットと先代モデル同様ですが、チルト式からバリアングル式へと変わりました。チルト式でも下方向に180°液晶モニターが展開できるので自分撮りにも使用できましたが、バリアングル式では液晶モニターの動きに対する自由度が格段に大きく、それに合わせて視認性も高くなりました。ただし、液晶モニターとボディをつなぐヒンジが出っ張ってしまうことや、液晶モニターをボディから開いた状態では光軸から画面が大きく外れてしまうため、ユーザーや使い方によっては具合が悪く感じることもありそうです。
キーデバイスである有効2088万画素のイメージセンサーは従来を踏襲します。ただし、画像処理エンジンはそれまでのEXPEED 6からEXPEED 7に変わりました。AFに流行りの被写体認識AFが搭載できたのは、この画像処理エンジンの進化によるものと思われます。認識する被写体は、人物、動物、鳥、乗り物、飛行機のほか、カメラが自動的に被写体を判断して認識するオートも搭載します。このAFを使用した印象として捕捉精度は極めて高く、被写体を外してしまうことはありませんでした。ユーザーのスキルにかかわらず積極的に活用できそうです。
同様に、シャッターボタンを全押しする前にさかのぼって画像を記録するプリキャプチャーモードが搭載されたのも、画像処理エンジンの進化と述べてよいでしょう。JPEGのみの記録となりますが、最大1秒前からの画像を保存します。予期せぬ動きをする被写体の撮影など重宝すること請け合いです。
画質モードにHEIFが採用されたのもトピックです。同フォーマットは、JPEGよりも圧縮効率が高く、しかも高画質が得られます。現時点でこのフォーマットに対応する環境はまだ十分ではありませんが、ライバルのソニーやキヤノンも積極的に採用していますので、これからの展開が大いに期待できそうです。
さらにEVFの進化も見逃せない部分。スペック自体は0.39型236万ドットと従来と同じですが、輝度はそれまでの約2倍に。明るく鮮明な表示を実現し、ピントの状態などより把握しやすくなったように思えます。本モデルが本来ターゲットとするユーザー層はライブビューでの撮影が多いのかもしれませんが、ファインダーに接眼して撮る往年の構え方がいかに被写体に集中できるかを知るきっかけにもなりそうです。
仕上がり設定であるピクチャーコントロールのなかにフィルター機能のクリエイティブピクチャーコントロールを加えているのは先代モデルと同様ですが、新たにZ50IIではクラウドピクチャーコントロールとしてインターネットを経由して有名クリエイターが作成した仕上がり(レシピ)も無料でカメラにインストールできます。現時点では25名のクリエイターが登録されており、それぞれのレシピで撮影した作例も閲覧できます。また、自身が作成したレシピをこのクラウドで保存管理することも可能です。前述したピクチャーコントロールボタンの搭載も含め、仕上がり設定に関する進化もZ50IIの見逃せない部分です。
Z50IIを手にした印象としては、適度に小型軽量であるためハンドリングは上々。グリップも右手で握りやすく感じます。ファインダーの見やすさは前述のとおりで、EVFを積極的に活用したく思えるほど。キレの良いシャッター音とともに撮る楽しさが味わえると述べてよいでしょう。ボディ内手ブレ補正機構は搭載されていませんが、高感度にも強いカメラですので、そのような状況になったら躊躇わず感度を上げるとよい結果が得られると思います。もっとも、手ブレ補正が備わっていたとしても、カメラをしっかり構えて初めてその効果が得られるわけですので、よほどの低速シャッターでの撮影でない限り搭載されていないことを気にする必要はさほどないように筆者個人は思っています。
なお、ミラーレスではEVFや液晶モニターで露出の状態がリアルタイムで把握できるため、AE撮影時の露出補正はより積極的に行う操作のひとつとなりました。Z50IIの露出補正の方法は、これまでどおり露出補正ボタンを押しながらメインコマンドダイヤルで行うものですが、それではボタンを押すワンアクション手間が必要で、スピーディかつ直感的に補正することができません。ダイレクトにメインコマンドダイヤルだけで露出補正できるようにしてほしく思えた部分です(カスタム設定で対応できないか確認したのですが、残念ながら対応していないようでした)。
シグマの単焦点レンズと組み合わせてみた
今回のZ50IIのレビューでは、シグマの単焦点レンズを使って作例撮影を行いました。使用したレンズは、いずれもAPS-Cフォーマットに最適化された単焦点レンズ「16mm F1.4 DC DN」「30mm F1.4 DC DN」「56mm F1.4 DC DN」の3本となります。開放F1.4の明るいレンズであるのもこれらの特徴で、発売以来高い人気を誇っています。ちなみにマウントは、今回使用したニコンZのほかL、ソニーE、富士フイルムX、マイクロフォーサーズ、キヤノンEF-M、キヤノンRFからも選べます。
開放F1.4ながらAPS-Cフォーマット専用とすることでコンパクトに仕上がっています。Z50IIとの組み合わせでは、持った感じの大きさ重さのバランスもよいですし、カメラとこのレンズ3本の入るカメラバッグはコンパクトなもので済みそうです。ユニークに思えるのが鏡筒全長で、焦点距離の短い16mmが一番長く、焦点距離の長い56mmが一番短くなっています。ちなみに全長は16mmが90.3mm、30mmが71.3mm、56mmが57.5mmとなります。
つくりの精度も高く、フォーカスリングの操作感も良好。気になったのは、フィルター径がバラバラなこと。16mmがφ67mm、30mmがφ52mm、56mmがφ55mmで、レンズごとにフィルターを揃える必要があります。開放値F1.4を維持するためだったのかもしれませんが、ちょっと考えて欲しかったところです。
写りとしては、いずれも現代的なレンズらしく解像感は高く、色のにじみなどよく抑えています。また、画面周辺部もしっかり結像しています。一般にサードパーティ製のレンズは、カメラ側の補正機能が効かないことも多く、そのため諸収差の補正などレンズ内で完結する必要があります。それは言うまでもなく高度な光学設計技術が要求されるわけで、今回紹介した3本のレンズも例外ではありません。それぞれの写りについては、掲載した作例をご覧いただきたいのですが、いずれも大いに撮る気にさせるもので、Z50IIとの組み合わせは撮影していてとても楽しく感じられました。
Z50IIは実に魅力的なミラーレスです。多彩な機能を搭載しユーザーを選ばないカメラであることに加え、このところ各社のカメラの価格が高騰していることを考えるとコストパフォーマンスも高く感じられます。カメラ初心者からニコンが好きなこだわりの写真愛好家まで満足できるカメラと言えるでしょう。同時に筆者個人としては、このカメラの上となる“Z二桁機”の登場にも期待したくなります。裏面照射型イメージセンサーの搭載をはじめメカシャッターの最高シャッター速度1/8000秒、手ブレ補正機構、サブセレクター、拡張性の高いカスタム設定など「Z 8」あるいは「Z 7II」のAPS-C版とも言えるミラーレスです。ネーミングは“Z70”あたりでしょうか。そのような妄想もしてしまいたくなるZ50IIでありました。
著者 : 大浦タケシ おおうらたけし 宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマンやデザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌および一般紙、Web媒体を中心に多方面で活動を行う。日本写真家協会(JPS)会員。 この著者の記事一覧はこちら