産学連携が進化させるSTEAM教育のかたち(前編) - オリンパスの出張授業に潜入

2024年3月30日(土)6時57分 マイナビニュース

●“本物”の医療機器に生徒も興味津々
○新学習指導要領にも追加された「がん教育」の重要性
日本の“国民病”とも言われるがんは、長らく日本人の死因で最も多くの割合を占め、多くの人々を悩ませ続けている。そうした状況を改善するため、がんの予防・治療技術の開発が進められているものの、がんの発生を無くす、あるいは絶対に治せる、といった状況には至っておらず、今後も国民病の1つであり続けることが予想される。
しかし、特に若年層にとってがんを自分事として捉える機会は少なく、どこか縁遠いものと考えていることも多いだろう。そういった現状を変えていくべく、新学習指導要領では「がん教育」を小学校〜高校年代での授業で積極的に推進することが求められるようになった。
○産学連携での出張授業に取り組むオリンパス
新たに始まったがん教育に対しては、その教え方や授業の在り方が模索されている真っ最中。その中で企業として1つのアプローチを提示しているのが、医療用の内視鏡メーカーとして世界トップのシェアを誇るオリンパスである。同社はがん治療に用いられる内視鏡のプロフェッショナルとして、内視鏡関連機材を用いた出張授業を実施しているとのこと。2016年に開始されたこの取り組みでは、前述のがん教育に加え、近年重視されている理系教育、キャリア教育などにも活用可能なプログラムを提供しているという。
オリンパスが注力する内視鏡授業は、未来を担う世代に何を与えているのか。今回は、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)にも指定されている東京都立富士高等学校で行われたオリンパスの出張授業の様子を通して、企業との連携が教育現場にもたらす価値について迫った。
○本物の機器に触れる“体験型”の内視鏡授業
今回の富士高校での内視鏡授業は、2年生の生物の授業として行われた。なお、内視鏡や関連器具に触れる時間を確保するため、内視鏡授業の当日にはがんに関する詳しい説明は行わないとのこと。代わりにがんをテーマにしたワークシート形式の事前授業を学校の方で行い、調べ学習や発表を通してがんへの理解を深めてから、連携授業を迎えたという。
○まずはオリンパスと内視鏡についておさらい
授業は内視鏡に関する簡単な講義からスタート。内視鏡はどんなもので、どんな方法でがん治療に役立てられるのかを説明するとともに、内視鏡開発の歴史が紹介された。胃カメラが考案された経緯から、その実現や進歩に大きく寄与したファイバースコープ・ビデオスコープについての簡単な技術解説など、通常の授業ではあまり触れることのない内容について、生徒たちも真剣な面持ちで耳を傾けていた。
○授業後半は機器に直接触れる時間に
そして授業の後半は、実物に触れる操作体験。2班に分かれ、内視鏡や内視鏡治療に用いられる処置具を使ってみる時間だ。
内視鏡操作では、実際の医療現場でも用いられるような“本物”の内視鏡を使って、模型の内部を観察する。画面を見ながら左手のリモコンを操作し、先端のカメラを観察したい方向に向ける姿は、医療現場さながら。しかし当然ながら、慣れない操作に苦戦する姿も多く見られた。
一方の処置具の体験では、内視鏡の中を通して体内のポリープなどを摘出するのに用いるスネアなどを使って、実際に小さなものをつかめるのかに挑戦。内視鏡治療で行われている処置を簡易的に体験しながら、その治療の繊細さを感じているようだ。
体験を終えた生徒の中には、教室内に併せて展示されている内視鏡に興味を示す人も多く、これまで見たこともなかったであろう精密医療機器に触れながら、その仕組みや使い方についてオリンパスの担当者へ積極的に質問しているのが印象的だった。
体験後は、内視鏡を使った最新医療技術について簡単に解説し、オリンパスの若手社員からのメッセージ映像を放映。生徒たちとも近い世代の社員たちが同社で何をしているのか、その具体的なイメージにつながることを願っているという。
●“普段より主体的に取り組める”体験型の授業
○“将来の視野が広がった”と語る生徒たち
内視鏡授業を終え、生徒たちは何を感じたのだろうか。
授業を受けた峯島優妃(ゆき)さんは、「これまで大きな病気を経験していないので、内視鏡のことを知る機会はほとんどなかった」といい、「知らなかった内視鏡に触れながら学ぶことができたり、わからないことをプロにその場で質問できたりするのが、新鮮で楽しかった」と話す。また、看護師を目指しているという堤瑛子さんは、事前授業を経た今回の授業を経て「予備知識を持って体験することで知識と実物が結びついたので、しっかりと記憶に定着しそう」と学びの深さを感じるとともに、「内視鏡の可能性を広げる研究も楽しそうだと思って、将来の視野が広がった」と変化を実感したという。
一方、文系を選択したという宮森涼介さんは「普段は触れることのない内容で、すごく楽しめた」と話し、「実際に触ってみないとわからないことにも気付くことができたのが印象的だった」と授業を振り返る。同じく文系の野口碧天(あおい)さんも、内視鏡に触れる機会の貴重さを語るとともに、「自分が選ばないであろう道に進んだ人の話を聞ける機会はとても貴重だと思う」と話しており、直接的に医療や内視鏡開発の道を目指していなかったからこそ、今のうちにその世界に触れられることの価値を感じていたようだった。
○企業と学校が連携する価値の大きさとは
では教育現場の立場から見ると、今回のような産学連携授業はどういったメリットがあるのだろうか。富士高校・附属中学校で理科(生物)を担当し、今回オリンパスとの連携を主導した塩入直也主任教諭によると、選択科目の関係で今回の授業に参加したうち3分の2ほどが文系の生徒であったという。つまり言ってしまえば“生物という科目への興味が薄い生徒”も多い中で、内視鏡授業については「通常の授業よりも主体的に参加しているように見えた」とのことだ。
「日常の授業ではがんについて関連する分野に触れる程度である中で、有識者から直接がんや内視鏡について教えてもらえる機会は貴重」という側面から、東京都の事業として募集があったオリンパスとの連携授業について、富士高校では2022年度から連続して応募。「教員からではなく、実際に携わっているプロからの話が聞け、さらに内視鏡の操作を体験できることで、実体験として記憶に残すことができる」と、学習面での産学連携の価値があると話す。
○継続的に連携することでより効果的な“探求学習”に
またSSHにも指定されている富士高校では“探求学習”に力を入れているとのことで、生徒それぞれが自分でテーマを設定し、学びを深めていくことを目指しているという。そのため今回の取り組みも、スポット的なものとして終わらせるのではなく、「生徒たちが継続的な学びに繋げていく過程で、分野や内容に応じてオリンパスから技術者によるアドバイスや指導をいただくことができれば、さらなる探求学習につながっていくのではないか」と、より効果的な教育につながる長期的な連携への展望も語った。
○教育と医療の両面で将来の人材育成に貢献へ
オリンパスは、自社の内視鏡開発に関わる人材はもちろんのこと、持続的な社会成長を支える次世代人材の育成に貢献するため、教育機関と連携した支援活動を行っている。特に内視鏡授業の取り組みは、小学校・中学校・高校を対象に2016年から継続して行っており、医療やものづくりに対しての興味や関心を喚起するだけではなく、児童・生徒たちが企業で働く社会人と会話し触れ合うことで、将来について考える機会や“何をしたいか”を考える契機となることを狙っているという。
特に都立の高校や中高一貫校での内視鏡授業は実施数を拡大させていて、2023年度には11の高校および2つの中学校(中高一貫校)で実施。今後もその数は増加させていきたいとしている。
日本の将来を担う子どもたちに、普段の授業では出会うことのない貴重な機会を提供するため、世界的に知られる日本企業が強みを活かす。また同時に、国民的な課題であるがんについても考える場を与えることで、その啓蒙にもつなげていく。教育と医療の両面から次世代への貢献を目指す産学連携授業の取り組みについて、教育の現場である高校から観察した今回に続き、次回は教育の指針を定める立場である教育庁の視点から、オリンパスの取り組みの価値を考察する。

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