カレー沢薫の時流漂流 第345回 メールが詐欺なのか、カジノが違法なのか、ある日突然、見誤る
2025年3月31日(月)13時5分 マイナビニュース
企業を騙った詐欺メールも日々巧妙化してきている。
私の夫の元にも先日、猫井銀行(仮名)を名乗るメールが来たらしく、何らかの手続きをしないとクレジットカードが失効するという内容だったそうだ。
このように「使えなくなる」「法的措置に出る」など、初手で強い言葉を使いだすメールは疑った方がいいと思うが、色彩的に強い封筒で役所から送られてくる「期日までに支払われない場合は差し押さえになります」が詐欺や脅しかというと、そんなことはないので断言はできない。
しかし、お上とて最初からSSR確定虹色演出封筒で厳しいことを言ってくるわけではなく、N封筒から段階を経てそうなっており、少なくともそのような重要なことは書面で送って来るのだ。
つまり、初手から言うことが強く、重要なことをメールで知らせてくる金融機関からの連絡は疑った方がよいということだ。
だが、私もそのメールを見せてもらったが、ロゴなどはもちろん本物を使用し、「貴様におかれましては平素格別のご高配を」などと、詐欺メール特有の珍語にもなっておらず、パッと見詐欺かどうかはわからない。
しかし、夫は猫井のカードを持っていなかったのである。
持ってないカードから重要なお報せが来るというのは、いない息子から会社の金を横領した電話がかかってくるようなサービス問題だ。
○ある朝、ザムザは目を覚ますと詐欺にかかっていた
逆に言えば、たまたま持っているカードやいつも使っているサービスを騙ったメールがくると危ないということだが、今回は運が良かった。
そう思ったのだが夫は「でも俺は猫菱(仮名)のカードは持っている」と言い出したのだ。
よって、自分が持っているのは猫菱なのに猫井からメールがくるなんておかしいと思いながらも、メールに記載されているURLをクリックしたそうだ。
この時点で、自分には息子はいないが娘はいるので、娘が彼女を妊娠させて急遽金がいる事態に陥っているかもしれないと考えるようなものだが、夫は己のクレカを取り出し「やっぱり俺のカードは猫菱だ」と思いながらも、猫井を名乗るページのクレカ番号欄に番号を打ち込みかけたという。
このような詐欺被害は、思考停止で疑うこともなく操作することで起こっていると思っていたが、最初から疑った上で、一つ一つ確認しながら引っかかる場合もあるようだ。
まさに石橋を叩いて粉砕しようとした夫だが「やはり猫井カードに猫菱カードの番号を打つのはおかしい」という初心に返ってくれたようだ。
よって、番号入力をするのはやめ、猫菱のカスタマーセンターに電話をかけたという。
私の5億倍の慎重さ、そして「行動力」を持ってしてこんなことになっているのだから、この世に詐欺に引っかからないと断言できる奴など存在しないのである。
猫菱カスタマーセンターからすると「おたくではなく猫井を名乗るメールが来たのですが」という謎問い合わせでしかないのだが、内容はともかく詐欺メールに関する問い合わせは多いのだろう。「それは詐欺です」と言われ、やっと得心がいったようである。
本来なら、持ってないカードからメールが来た時点で詐欺だと断定できるところを、壮大な迂回をしているが、その結果ちゃんと正解にたどり着いているのがある意味すごい。
そして先日、今度はアマゾソから「何の理由もないけど5000ポイントあげるよ」という旨のメールが夫の元に届いたのだ。
私はすぐに検索し「それは詐欺ですね」と教えたのだが、夫は納得せず、結局またアマゾソのカスタマーセンターに問い合わせをいれたようである。
夫のリテラシーよりも私の信用のなさに愕然とする。ちなみに私は平素から夫に嘘をついているわけではない、人は嘘をつかずとも生活態度だけで信用を失えるのだ。
しかしよく考えれば、カスタマーセンターという本丸に問い合わせるほど正確なことはなく、私のようにネット検索で誰が発信したかわからない情報を見て「真理を得た」となっている人間の方がかえって騙されやすいのかもしれない。
問題は無知ではなく「わからないから人に聞く」と「わからないから適当に押す」の差なのかもしれない。
つまり中途半端にリテラシーがあると思っている、適当な人間ほど危ないということであり、何も考えずにクリックするスピードが速すぎて、騙されたんじゃないかと思う前に騙され終わっており、未だに騙されたことにも気づいていない可能性がある。
○頑張ってスロット回した労いの商品券ならセーフ?
気づかない内に被害者になっているだけならまだいいが、最近は闇バイトのように無自覚犯罪者になっていることもあり、最近では「オンラインカジノ」もその一つだ。
「違法と知らなかった」という言い訳に対し「そんなことないだろう」と思うかもしれないが、実際明確に公から違法と通達されたのは最近らしく、本当に知らずに手を染めていた人間もゼロではないと思われる。
また、一見普通のオンラインゲームに見える広告が実はオンカジだったという場合もあり、ここまでくると正直騙されない自信がない。
全てを疑ってかからなければいけない世の中をどうにかしてほしいが、とりあえず疑うことと確認することは大事ということだ。
夫のように、直で確認するのが一番正しいと思うのだが、この行動力がいつか「詐欺メールに書かれている電話番号に直電」という形で発揮されそうなのも怖い。
疑うことも行動することも重要だが、一番大事なのは、まず「冷静」になることだろう。