「月・火星探査時代」が始まった 第1回 新たな宇宙ステーションとトヨタの月面車が目指す未来

4月1日(月)7時41分 マイナビニュース

3月12日に東京で開催された国際宇宙探査シンポジウムで発表された、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とトヨタ自動車が協力して開発する月面車が大きな話題となった。ただ、これはこの3月初旬に発表された一連の月探査関係の話題のひとつにすぎない。その全貌を一言で言えば「アポロ計画を上回る、国際共同月面探査計画がスタートを切った」ということだ。

アメリカを中心とする有人宇宙探査は大きく分けて2つの時代に分けることができるだろう。ひとつめは最初の有人宇宙飛行に始まり、月探査までの「アポロ時代」。もうひとつは1981年のスペースシャトル打ち上げから、国際宇宙ステーション(ISS)建設を経て現在に至る「スペースシャトル・ISS時代」。そして2021年から次の「月・火星探査時代」へ、人類の宇宙活動が新たな一歩を踏み出すのだ。
○月周回軌道に建設される「地球と宇宙を結ぶ国際空港」

世界14の国・機関で構成された国際宇宙探査協働グループ(ISECG)は、次世代の宇宙探査計画である「国際宇宙探査ロードマップ」(GER)を検討してきた。最新の第3版(GER3)は2018年1月に公表されている。このGERの目玉が、月を周回する宇宙ステーション「月軌道プラットフォーム・ゲートウェイ(以下、ゲートウェイ)」の建設だ。

トヨタの月面車の発表があった3月12日、日本、アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、カナダの各宇宙機関はゲートウェイの建設に合意したと、共同声明を発表した。JAXAとトヨタの月面車開発構想は、ゲートウェイ建設の次のステップとしてGER3に記載されているものだ。つまり国際的にはゲートウェイの建設決定が「本命」で、トヨタの月面車は「将来への布石」と言えるだろう。

現在運用されているISSは、地球から高度400kmの「地球低軌道」と呼ばれる軌道を飛行している。これに対しゲートウェイは、月面からの高度が最低4000km、最高7万kmという長い楕円軌道で月を周回する。この軌道は地球、月面、他の太陽系空間(火星や小惑星など)のどこへでも行きやすく、戻ってきやすいという特徴があるので、宇宙船の乗り継ぎに適している。

ゲートウェイはその名の通り、地球や月の玄関口となる。地球からゲートウェイへ到着した宇宙船は、そこで月面や火星へ向かう宇宙船に乗り換える。ちょうど、国内線と国際線を乗り継ぐ国際空港のような役割だ。

○最初の目的は、月の水

ゲートウェイが建設されて、最初の目的地は月面だ。アポロ計画から半世紀も行われなかった月面有人探査が急に本格化したのには理由がある。月の水だ。

月は水が全くない砂の天体だと考えられていたが、21世紀に入って月の地形上陰になっている部分に、かなりの氷があることがわかってきた。地球から宇宙へ物資を打ち上げるには莫大な費用が掛かるが、重力の小さな月で水資源を得られるなら、宇宙活動のコストを大きく下げられる可能性がある。

アポロ計画後、有人宇宙探査が行われなかった理由は、主に「費用がかかるうえに、行った先に資源などの利益がない」ということだった。月に水が発見されたことで「費用を抑えられる資源」を手に入れるという目標が明確になった。

○日本が心臓部を担当

このゲートウェイを中心とした計画は、これまではアメリカが担当する部分と、アメリカ以外の誰かが担当する部分という形でしか描かれていなかった。それが今回、より詳細に各国の分担まで公表された。

常時宇宙飛行士が滞在して実験や研究をしているISSと異なり、ゲートウェイは無人で運用される期間が長い。当面、宇宙船の乗り継ぎのために宇宙飛行士が立ち寄る期間は年間30日程度ということだ。また、ISSでは大きな割合を占めていた実験モジュールはなく、ゲートウェイの中心は各種宇宙船のドッキング装置を備えた2つの居住モジュールだ。

この2つの居住モジュールのうち、1つはNASAが開発、もうひとつはヨーロッパ宇宙機関(ESA)と日本のJAXAが共同で開発することが今回、発表された。居住モジュールには宇宙飛行士の呼気に含まれる二酸化炭素や水蒸気を回収し、酸素や飲料水を供給する生命維持装置が必要で、このシステムをJAXAが開発する。ESAはモジュールの構造部分などを担当することになるだろう。

JAXAはISSでは日本実験モジュール「きぼう」を開発していたので、それと比べると内部の機器だけを担当するのは地味に思えるかもしれないが、そうではない。ISSの場合、実験モジュールは複数あったので、極論すると日本のモジュールが開発失敗してもISS全体が失敗するわけではなかった。しかし、生命維持システムが失敗すればゲートウェイ全体の成否にかかわる。ISSの生命維持システムはアメリカ製とロシア製が使われていたのだが、ゲートウェイではアメリカ製と日本製になるということは、日本は失敗が許されない最重要部分を任されるほど日本が信頼されたことを意味する。

○打ち上げまでわずか5年

最新の計画では、まず2022年にゲートウェイ全体の軌道を制御するエンジン部分(アメリカが担当)、2023年に燃料補給や通信機能を持つ部分(ESAが担当)と倉庫機能を持つ部分(アメリカが担当)、オリオン有人宇宙船の3つが1機の大型ロケット「SLS」でまとめて打ち上げられ、最初の整備作業を行う。続いて2024年にESAとJAXAが担当する居住モジュール、2025年にアメリカの居住モジュールが打ち上げられ、2026年には「フェーズ1(第1段階)」のゲートウェイが完成する。

JAXAは2024年に打ち上げられる居住モジュールに搭載する生命維持システムを、あと5年で完成させなければならない。すでに実証モデルの開発は行われており、水再生装置は今年「きぼう」へ送られて実際に宇宙でテストが行われる。

「きぼう」の開発は1985年に決定し、宇宙ステーション計画自体の遅れが相次いだこともあって、2009年の完成まで24年を要した。これに対してゲートウェイは開発決定から打ち上げまでわずか5年だ。またJAXAのゲートウェイ関連予算が初めてついたのは2018年度で、その額は3億円。2019年度は21億円と大幅に増えているものの、残り5年ということを考えるとかなり差し迫っている印象がある。

マイナビニュース

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