山田祥平のニュース羅針盤 第483回 ライブ入場の本人確認にマイナンバー、デジタル庁が新たな実証検証
2025年4月1日(火)6時0分 マイナビニュース
デジタル庁が「ライブイベントにおけるチケット不正転売防止・業務効率化の実証実験」を実施した。
2024年の第38回 マイナビ 東京ガールズコレクション 2024 SPRING/SUMMERに続くもので、2025年は3月21日の「モーニング娘。’25 小田さくらバースデーイベント〜さくらのしらべ14〜」、3月29日の「Hello! Project ひなフェス 2025」が、マイナンバーカード認証検証の場となった。
芸能事務所アップフロントグループ協力のもと、これらの興行で、マイナンバーカードによる本人確認を行うことで、より実効性の高いチケットの不正転売防止対策や、会場入場時の本人確認業務のデジタル化による業務効率化、さらには、ファンクラブサービスにおけるプレミアムな体験価値の提供などの活用可能性を検証した。この実証実験は、ドリームインキュベータを受託事業者、playgroundを技術提供事業者として実施された。
○マイナカード認証で入場検証、転売対策も強化
「Hello! Project ひなフェス 2025」は千葉・幕張メッセにおける約22,000人を動員する大規模興行で、チケットは電子と紙の2種類が販売された。マイナンバーカード認証を選んだ場合、先行抽選枠での申込となるほか、デジタルトレーディングカードのプレゼントなどがあり、今回は、全観客の約13%がこのチケットで入場した。
土日の2日間で計4公演が実施されたが、初日一回目の公演は約800人がマイナンバーカード認証による顔登録とQRコードでの入場だった。このプロセスではマイナンバーカードに記録されている基本4情報(住所・氏名・生年月日・性別)は取得せず、チケットのサービスID連携と、顔情報登録のみが行われた。この実験はあくまでも転売防止対策のための検証であるからだ。
めでたく抽選に当たってチケットを手に入れた観客には、QRコードが発行され、それと自分の顔で会場の改札ゲートを抜ける。ゲートでは係員がタブレット端末を持って観客を迎え、顔とQRコードを同時に認識させ、正当なチケット取得本人であることが確認されるとゲートを通過し、会場の自席に向かうことができる。
○オフライン運用も想定、別人の疑いには対面確認も
端末設備はタブレットだけだ。ネットワークとはWi-Fiで接続する。万が一、Wi-Fiへの接続が絶たれて復旧できない場合に備え、オフラインでも同様のことができるように、データが端末内にも保存されているという。
今回は専用ゲートが用意され、4名の係員がそれぞれ1台の端末を持って対応した。ちなみに800人のうち、システムは3名の観客に対して不正の疑いありとしてゲート通過の許可を出さなかった。そのような場合に備え、マイナンバーカード認証専用チケット不備窓口が用意され、対面での本人確認をする準備があった。
ある程度のしきい値が設定され、あまりにも登録時と顔が異なるといった場合、疑わしいチケット所持者に対して身分証明書など他の手段で対人対面による本人確認をするわけだ。
結果、その3名は確かに本人であることが確認され、無事に会場に入ることができたそうだ。今回の設定しきい値はかなり厳しくしたそうだが、全員が本人であるとはちょっと予想外だったと関係者はもらす。
○複数枚購入は不可。“並び”が欲しい層に課題
システムには、イベントを専門にする技術開発やコンサルティング、SI事業で知られるplaygroundのプラットフォームであるMOALAが使われた。
チケットの入手には、MOALAアカウントを取得し、それをデジタル庁が提供するデジタル認証アプリでマイナンバーカードを使って本人認証した上で、あらためてMOALAに顔を登録、抽選結果を待つ。そしてめでたく当選した場合にQRコードが発行される。
つまり、本人認証され、顔登録が完了した観客だけが抽選対象となるわけだ。マイナンバーは一人に一意だ。メールアドレスなどと紐付いたアカウントのように複数アカウントを持つのは不可能だ。
残念ながら、この仕組みを使って買えるチケットは本人分の1枚だけだった。本人が複数枚購入できるようにすると多くのバリエーションが発生し、それを場合分けするような手数が発生してしまうため、今回は複数枚購入についての検証は見送られている。だが、ここをなんとかクリアしないことにはチケット購入手段としての魅力に乏しい。並びでチケットを確保したいという理由で紙チケットに流れてしまえば、不正転売防止の道は遠い。
ちなみに今回の興行では4公演計22,000席のうち、300枚近くが転売サイトで高額販売されているのを主催者側は確認しているそうだ。金額は一番高いもので7万円程度で定価の7倍程度の価格だ。でも、その摘発は難しい。
マイナンバーカードを使った不正対策なら、ダミーアカウントを取得したり、なりすましたりして不正にチケットを購入することは不可能だ。今回のイベントは幕張メッセのホールで、5,000人程度のキャパシティだったが、東京ドームクラスの会場では、もし身分証を目視で確認して名前入りのチケットを持参した観客の本人確認をする場合、100人以上のスタッフの追加が必要だという。これは主催者側の大きな負担となり、現実的には難しいようだ。また、1秒に一人は入場させるくらいのスピードが必要だが、それも無理となる。
○マイナンバーを社会の“インフラ”に、行政の狙いは
このイベントの実証実験を現地で視察した穂坂泰デジタル副大臣はいう。
「マイナンバーカードは国民1人に1枚のカード。この1枚のカードが行き渡り、それぞれがデジタルの世界でも自分の本人確認ができるのです。いわゆる社会のインフラに将来なり得るものだという風に思っています」(穂坂氏)
「実は、マイナンバーカードでやってるから安心だということを、国民の皆さんには気づいてもらえなくてもいいと私は思っています。この春からは、スマートフォンにマイナンバーカードを実装させることになります。そうすると、意識しなくても、いつも手元にマイナンバーカードがあるという状況になります。つまり、普通に暮らしていても安全な社会ができているということですね。そのインフラ作りを行政としてのデジタル庁が進めることによって、これを土台として、いろんな民間の企業、様々な団体がこのマイナンバーカードを使った安心できる社会を作れるんじゃないでしょうか」(穂坂氏)
チケットの買い占めといったことがなく、誰もが本当に平等の機会を得ながら大好きなアーティストを応援していくことを純粋に楽しめるような仕組みを、デジタル庁にはしっかりと後ろで支えていってほしいものだと思う。
著者 : 山田祥平 やまだしょうへい パソコン黎明期からフリーランスライターとしてスマートライフ関連の記事を各紙誌に寄稿。ハードウェア、ソフトウェア、インターネット、クラウドサービスからモバイル、オーディオ、ガジェットにいたるまで、スマートな暮らしを提案しつつ、新しい当たり前を追求し続けている。インプレス刊の「できるインターネット」、「できるOutlook」などの著者。■個人ブログ:山田祥平の No Smart, No Life この著者の記事一覧はこちら