東北大、従来の1/10のコストで済むマウス肺とヒト細胞の臓器移植実験に成功

2024年4月9日(火)15時14分 マイナビニュース

東北大学は4月5日、従来のラットを用いた臓器再生研究のための手法と比べておよそ1/10のコストで済む、脱細胞化したマウス肺をヒト細胞で再生するプラットフォームを開発し、この分野で最も困難とされる肺毛細血管網再生とマウスへの移植実験に成功したことを発表した。
同成果は、東北大 加齢医学研究所の鈴木隆哉助教、同・岡田克典教授、同・大学 医学系研究科の冨山史子大学院生(現・宮城県立がんセンター)、同・大学 流体科学研究所の鈴木杏奈准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
人工臓器を用いた移植医療が可能になれば、臓器移植を必要とするすべての患者に対する治療が可能となるため、大きく期待されている。現在、移植可能なバイオ人工臓器を作成する方法としては、「臓器脱細胞化・再細胞化法」がある。これはドナーとなる動物臓器から薬剤により細胞のみを完全に取り除き(脱細胞化)、そこに培養したヒト細胞を注入して還流培養を行って細胞を定着させ(再細胞化)、臓器を復元再生するという技術で、肺のように細胞数が膨大で微細な構造を持つ臓器の作成に対し、最も適していると考えられている。
iPS細胞の臨床応用が可能になり、患者自身の細胞を使用して拒絶反応のない新しい自己臓器を再生することが可能になりつつある一方で、大量の細胞を適切に使用して移植臓器として機能発揮させるためには、まだ多くの知見が必要だという。ところが、この研究のための実験プラットフォームが確立されていなかったとする。
ほ乳動物の肺は巨大で複雑であるものの、基本的な肺微小構造は酷似しており、その小単位の膨大な繰り返しから成り立っている。もし小型なマウス肺を利用して臓器再生プラットフォームを開発することができれば、必要なリソースを1/10以下にすることができ、この分野の研究を大きく加速させることができるという。そこで研究チームは今回、これまで取り組んできた実験動物肺移植の技術を応用し、臓器再生プラットフォームの開発を試みることにしたとする。
今回の研究では、顕微鏡下手術により極小サイズのマウス肺を還流培養サーキットに接続することに成功したという。そして、そのマウス肺から細胞を完全に取り除き、そこにヒト由来血管内皮細胞を注入して臓器培養が行われた。すると、細胞が完全に取り除かれた肺に新たな肺血管網が再生されていることが確認されたとした。
マウス肺は小さいことに加え、臓器チャンバーもコンパクトであることから、通常の実験室サイズでも培養が可能とする。これまで、同様の実験はラットやブタの肺を利用して行われていたが、今回の方法ならラット1回分のリソースで10回程度の実験を行えることになり、さまざまな条件で行った実験を一度に比較することも可能になったとした。
このアドバンテージを利用し、注入された細胞が肺全体にどのように分布し定着しているのかが数学的に解析された。その結果、顕微鏡を用いて再生肺全体の画像がキャプチャーされ、フラクタル解析の一種である「ボックスカウンティング」手法を用いてどれくらいの細胞数で臓器再生を行うのが最適かを割り出すことに成功したとする。
今回の研究では、脱細胞化肺に1500万〜6000万個のヒト血管内皮細胞が注入され、再生された肺構造のフラクタル次元が割り出された。解析の結果、肺に2つの異なる性質の構造があることがわかり、そのフラクタル次元は細胞数を増やすほど正常肺に近づくが、3000万個を超えたところで限界となったとした。これは、つまり肺を再生するにあたって、注入細胞数が多ければ良いというわけではなく、ある最適な閾値が存在することが示されているという。
最終的にこれらの比較検討により、最適細胞数である3000万個のヒト由来血管内皮細胞が注入され、毛細血管まで十分に再生された肺がマウスに移植された。血管縫合後に血流を再開させたところ、肺の隅々にまで血流が行き渡っていることが肉眼的にも顕微鏡的にも確認できたという。
研究チームでは現在、ヒト肺臨床検体を用いてさまざまな細胞を分離培養し、人工的な幹細胞を作成する技術を開発中だとしており、今回開発されたマウスサイズ臓器エンジニアリングプラットフォームを利用し臨床検体由来細胞の機能検証を行い、移植臓器としての機能を向上させていくとした。
また将来的には、この研究はブタ肺をヒト由来細胞により再生する研究へ発展するという。ブタ肺はヒト肺と遜色ない大きさであり、これが可能になれば、バイオ人工臓器の臨床応用が現実的なものとなるとしている。

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