触媒効率1000倍超! - 名大などが厚さ1nmのバイポーラ膜用極薄触媒を開発
2025年4月18日(金)17時22分 マイナビニュース
名古屋大学(名大)と科学技術振興機構(JST)の両者は4月17日、ナノシート集積膜が、陰陽のイオン選択性の異なる2種類の膜を積層して構成される複合膜である「バイポーラ膜」における水の解離反応を大幅に促進することを実証したと共同で発表した。
同成果は、名大 未来材料・システム研究所の山本瑛祐助教、同・長田実教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する機関学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
近年、さまざまな視点から持続可能なエネルギー技術の研究開発が進められており、電気化学的プロセスを効率的に制御・促進するイオン伝導性膜材料への注目度が増している。中でもバイポーラ膜は、水から酸(水素イオン)と塩基(水酸化物イオン)を生成する機能を持つイオン伝導性膜材料として知られ、これまでは主に医療用途として透析に利用されてきたが、近年は次世代の水電解、燃料電池、二酸化炭素(CO2)回収、レドックスフロー電池(大規模な電力貯蔵などに使われるバッテリー)など、幅広い分野での応用が期待されている。
バイポーラ膜は、カチオン(陽イオン)交換膜とアニオン(陰イオン)交換膜という、2種類の異なる高分子のイオン交換膜の積層で構成される。カチオン交換膜は通常、スルホン酸基などの負に帯電した固定基を持ち、水素イオンなどのカチオンのみを選択的に透過させる。一方のアニオン交換膜は通常、第四級アンモニウム基などの正に帯電した固定基を持ち、水酸化物イオンなどのアニオンのみを選択的に透過させる。両交換膜の界面では、両者のプロトン(水素イオン)濃度の違いを反映して強電界が生じる。そのため、界面に水分子を導入すると、水が解離して水素イオンと水酸化物イオンが生成される「水解離反応」が進行すると考えられている。
この反応により膜の両側にpH(酸性やアルカリ性の強さを示す指標)の勾配が形成され、片側では酸性環境、反対側では塩基性(アルカリ性)環境の安定的な構築が可能となるとのこと。この特性により、アノード(陽極)とカソード(陰極)で異なるpH条件下での電極反応を同時に制御でき、反応効率の最適化が図られる。しかし、実用的なバイポーラ膜の設計における課題として、水解離反応に伴う高い過電圧(理論的な電圧に対し、実際に反応を進行させるために必要な追加の電圧)があるといい、特に水電解やCO2分離といった高電流密度が要求される条件下では、過電圧の存在はシステム全体のエネルギー効率を著しく低下させてしまうことが問題となっていた。
近年、界面にナノ粒子などの触媒層を挿入することで水解離反応を加速させる試みが行われている。しかし、膜厚が数百ナノメートル(nm)以上に達する近年の高効率触媒層では、バイポーラ膜特有の強電場が界面のごく近傍でしか有効に作用しないため、厚い触媒層ではその恩恵が得られにくいことから、バイポーラ膜の根幹である「膜間のプロトン濃度差で生じる電場による促進効果」を十分に活用することが困難だった。そこで研究チームは今回、膜間に極めて急峻な電位勾配を創出できる、原子1層〜数層という極薄の酸化チタンナノシートに着目し、これをバイポーラ膜の界面に敷き詰めるという新しいアプローチを試みたという。
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