東大など、「交互積層型電荷移動錯体」の高伝導化を実現することに成功

2024年4月19日(金)13時39分 マイナビニュース

東京大学(東大)、分子科学研究所(分子研)、岡山理科大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)、科学技術振興機構(JST)の5者は4月17日、電子の豊富なドナー分子と電子の不足したアクセプター分子からなる「交互積層型電荷移動錯体」(以下、「ALCTC」と省略)は、電荷輸送に携わる実効的なキャリアが少ないために電気が流れにくいとされていたが、分子軌道に着目した新しい設計により同錯体の高伝導化に成功、一次元単結晶において室温・常圧で最高の伝導度を達成したことを発表した。
同成果は、東大 物性研究所の藤野智子助教(JSTさきがけ研究者)、同・森初果教授、東大大学院 新領域創成科学研究科の岡本博教授、同・有馬孝尚教授、分子研の中村敏和チームリーダー、岡山理科大の山本薫教授、JASRIの中村唯我研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
有機伝導体の次世代材料として期待されるのが、電子の豊富なドナー分子と電子の不足したアクセプター分子とで形成される電荷移動錯体。同錯体は大別して2種類あり、そのうちのドナーとアクセプターが交互に積層した「交互積層型」は比較的容易に得られやすいにも関わらず、高い伝導性を含む錯体を長らく実現できずにいたという。
伝導性が低い原因は、ドナーからアクセプターへの電荷移動量δが0〜0.4の中性領域、または0.75よりも大きいイオン性領域にあることで、電荷輸送に携わる実効的なキャリアが少ないためと考えられている。つまり、中性-イオン性の境界領域にある電荷移動錯体を合成できれば電気がよく流れる可能性がある。
そうした中、研究チームが近年開発した、電子の豊富なドナー分子「ドープ型ポリ(PEDOT)」(3,4-エチレンジオキシチオフェン)のオリゴマーモデルの最短の二量体およびその酸素/硫黄原子置換体が、電子不足な「フッ素置換テトラシアノキノジメタン類」対し、中性-イオン性の境界領域の錯体を構築するのに理想的な電子構造を持っていることが確認されたとする。
δの境界領域を実現するには、ドナーの最高占有分子軌道(HOMO)とアクセプターの最低非占有分子軌道(LUMO)の間での小さなエネルギー差を持つことが必須と予想されている。2O/2SドナーとF4/F2アクセプターの組み合わせは、そのような条件をよく満たし、さらに電荷移動後の分子軌道形態の対称性もよく一致しており、両軌道が強く混成した良導性のキャリアの伝導経路の実現が期待されていた。そこで今回の研究では、ドナー2Oと新規合成した2S、アクセプターF4とF2を用いて、電荷移動錯体単結晶を開発することにしたという。
有機溶媒中でそれぞれ混合させて数日かけて濃縮を行った結果、4種の針状の電荷移動錯体単結晶が得られ、いずれもドナーとアクセプターが交互に等間隔で積層した一次元構造が示された。そしてδにつては、特に2S-F4が0.69と、中性-イオン性境界に位置していることが確認された。
次に、結晶の電子構造を調べるために第一原理計算から結晶軌道が算出され、ドナーのHOMO由来とアクセプターのLUMO由来の両軌道が強く混成しており、ドナーとアクセプターのどちらにも非局在化していることがわかったという。分子間相互作用も大きく、キャリア間のクーロン反発エネルギーも特に2Sをドナーとする錯体において小さく、計算上で高い伝導性の発現が予見されたとした。
続く電気抵抗率の測定では、今回の錯体の室温伝導度が従来と比較して極めて高く、特に2S-F4では一次元単結晶の中では最高となる0.10Scm-1だったという。同結晶は、構造の動的変化を反映しやすい光反射率測定により、ドナーとアクセプター間での二量化形成を示唆する結果が示されたとした。
なおALCTCでは、平面状分子の示す対称的な伸縮振動モードは、振動方向と直交するπ積層方向において赤外不活性となると考えられている。しかし、今回は赤外活性なモードとして観測されたことから第一原理計算が行われ、電子-分子内振動(EMV)結合に基づいたものであることが示された。つまり、ドナーとアクセプター間で二量化を伴う構造的な揺らぎが生じていることが示唆されたという。これは、中性-イオン性境界特有の電子状態が顕れていることが伺えるとした。また単結晶構造解析からも、二量化揺らぎを支持する散漫散乱が観測された。これらの結果から、今回合成された錯体では、二量化に伴うスピンの組み残しなどの効果により、高い伝導性が発現した可能性があるとした。
さらに電気抵抗率の測定では、絶対温度282K(約9℃)において急峻かつ可逆な温度変化が示され、同時にEMV結合由来のシグナル強度の増大を確認された。詳細な構造解析の結果、b軸とc軸に二倍周期を持つ超格子へと構造転移をしていることが判明。ALCTCにおいて、ほぼ室温かつ常圧でこうした構造転移が示された例はなく、中性-イオン性境界特有の構造的な揺らぎが反映されたものと考えられるとしている。
今回のALCTCは大量合成が可能で、また有機溶媒への高い溶解性を示し、溶液中でも分解されずに長時間安定に存在することから、塗布型伝導体材料としても高い潜在性も有し、有機伝導体材料としての高い可能性が期待されるとした。

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