東奔西走キャッシュレス 第80回 QRに続いてカードのタッチ決済に対応、交通系ICには対応せず……JR東海バスの決断
2025年4月21日(月)19時54分 マイナビニュース
公共交通機関におけるキャッシュレス化が進展しています。公共交通機関では、一般的な飲食店や小売店とはまた異なるニーズがありますが、公共交通機関の中でも鉄道とバスではニーズが違っています。そんな公共交通機関のキャッシュレス化の現状について、以前にQRコード決済の対応について話を聞いたJR東海バスに、その後の現状を聞きました。
○タッチ決済で車内のキャッシュレス率が25%に
JR東海バスは、名古屋発着をメインに主として関東/関西方面の高速バスを運行しています。基本的に多いのは観光需要ですが、意外な用途としてビジネスパーソンの通勤や高校生の通学に使われる例もあるそうです。
こうした使われ方がされるのは、「高速道路上にバス停があり、途中乗車や下車ができる」からです。これは東名高速道路の特徴で、新東名を含む他の路線にはない特徴です。そのため、名古屋から東京にかけてのいずれかのバス停で人が乗り込み、車内で決済が行われる、という状況がありました。
もともとJR東海バスの乗客のほとんどはWebから予約して乗車しており、オンライン決済は事前精算なので、ほぼキャッシュレス化されていました。ただ、途中乗車の利用者が現金で支払いをすることがあったそうです。割合としては全体の1割未満ということですが、その利用者のためにバス車内に運賃箱を設置し、現金での支払いに対応していました。
そんな状況から、2023年にAirペイQRを導入してQR決済に対応しました。そこから2年が経過し、車内決済の10%ほどがQRコード決済になったそうです。
ただ、御殿場から利用するインバウンド客などは、今でも予約をせず、バスがちょうど来たので乗り込む……という人が多いそうです。同様な形で利用する日本人乗客はQRコード決済を利用することが多く、またAirペイQRによって東南アジア系を中心としたQRコード決済に対応しているものの、欧米系の旅行者が望むクレジットカードへの対応はできていない状態でした。結果として、バスの乗務員と現金のやりとりに時間がかかる状況になっていたと言います。
もともと同社では、当初からクレジットカードへの対応は想定していたそうですが、別途機材の導入が必要になるため、一般店舗ではともかくバス車内では機材の追加が難しいと判断していました。しかし、AppleがiPhoneを決済端末にするTap to Phoneの機能を導入し、Airペイ タッチが登場したことで状況が変わりました。
以前にJR東海バスを取材した記事にも書いたとおり、同社は車内の予約管理などでiPhoneを使っており、乗務員が常にiPhoneを携帯して乗車時に利用していました。それをそのままカードのタッチ決済対応にできることから、今回の車内支払いでのカード対応となりました。
つまり、カード対応といっても対応するのはクレジットカードやデビットカード、プリペイドカードなどのタッチ決済のみ、ということになります。カードのタッチ決済対応に際して、これまで同じアプリでQRコード決済に対応していたことから、乗務員の使い方としては困ることもなく、スムーズに導入できたようです。
タッチ決済を導入した3月の車内決済の状況は、現金が75%、QRコード決済が13%、タッチ決済が12%。タッチ決済が一気に伸びたことが分かります。想定していたのは10%以内と言うことなので、予想より多く使われているようです。
また、QRコード決済を始めた当初は利用率が10%程度だったとのことですが、タッチ決済を導入してすぐにキャッシュレス決済が25%に達したことになります。JR東海バスでは、乗車の1分前までオンラインでチケット購入ができるようにしていて、なるべく車内の現金支払いを避けたい考えですが、カードのタッチ決済が少数ながら残っている車内決済での現金利用を減らす効果を発揮しているようです。
○当初から交通系ICは見送り、運賃箱も撤廃へ
JR東海バスではもともと、交通系ICは導入しないという方針でした。
その理由として、同社は維持費やコストの問題を挙げています。熊本市のバスで交通系ICカードの対応を取りやめるなど、一部の公共交通機関で脱交通系ICカードの動きが出ていますが、それも同様の理由で、JR東海バスは最初から導入を見送ったというだけです。
ただ、JR東海バスと同じ路線を走る高速バスの中には交通系ICカードに対応したバス会社もあります。高速バスに乗りなれているビジネスパーソンの中には、交通系IC対応のバスが後から来るので、JR東海バスの車両を見送って次のバスに乗るといった使い方もされているのだそうです。
そうやって一部の利用者を逃すことになってもなお、交通系IC対応にはコストがかかると同社。そもそも、運賃箱自体に多額のコストがかかっていると言います。運賃箱は機械部品なのでメンテナンスコストがあり、新バス導入時のコストもかかります。
これに対して、JR東海バスではカードのタッチ決済対応にあわせて運賃箱の利用を停止しました。運賃箱自体は残していますが、すでに現金の投入口は塞ぎ、乗務員の手渡しという方式に変えています。将来的には運賃箱自体を取り除く予定。現金の扱いを取りやめて完全キャッシュレス化するというよりは、極力オンラインでの事前購入に誘導し、例外的な途中乗車の利用客においても現金利用を減らすことで、自然とキャッシュレス化を推進していくというスタンスです。
ところでAirペイ自体は、主に飲食店などで使われているため、乗車と下車のバス停を選んで料金を確定するというバスの料金に対応するには、工夫が必要だったそうです。JR東海バスでは乗車時に目的地を伝えて、その分の料金を前払いします。
例えば飲食店では「食事」「飲料」と言ったカテゴリを選んで、「コーヒー」「コーラ」を選ぶといった画面遷移になりますが、その遷移をバスの料金にあてはめ、乗車バス停を選ぶと下車バス停の一覧が出て、そこから下車バス停を選ぶことで料金を確定し、支払いを求めるという設計にしています。ちなみに、この設定にあたっては、上限数に引っかかってしまい、すべてのバス停を入力することができなかったそうです。
現在導入されているシステムでは、AirペイQRのころから、乗務員のアプリとAirペイの連携ができていないため、毎回アプリを切り替えているそうです。この点はリクルート側に改善を求めているそうですが、それ以外では特に問題も発生していないとのこと。懸念された電波状況も、現時点で問題が発生したことはないようです。
JR東海バスは、キャッシュレス化を進めることでコスト削減と業務効率化が図れていると言います。特に最終的にバスの乗務員が現金を持ち帰ってチェックをする手間などが削減できており、運賃箱の廃止なども含めてコスト削減をしつつ、オンライン予約の推進などで利便性も向上させていきたい考えだそうです。
小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、PC、スマートフォン……たいてい何か新しいものを欲しがっている。 この著者の記事一覧はこちら