カレー沢薫の時流漂流 第296回 母は言った、ゲームは1日1時間、ビールは1日1缶までよと

2024年4月22日(月)14時50分 マイナビニュース

言うのも恥ずかしい話だが、二十代前半のころ「酒豪キャラ」に憧れていた。
正攻法でモテることができない、もしくは正攻法でモテている人間をバカにしている人間は、エキセントリックなキャラ作りをしてしまいがちなところがある。
だがストレートすら投げられない奴が魔球をマスターできるわけがないのだ。
「個性」と「奇行」を混同してはいけない。大体は常識あってこその個性であり、個性だけで勝ち抜けるのは、ジョブズ級の才気を持っている奴だけである。
よって、当時は居酒屋に行くと、アルコールメニューを端から全部頼むなどして豪傑ぶりをアピールしていたが、今思えば、カクテルやチューハイメニューしか頼んでおらず、逆に「ジュースみたいな酒しか飲めない」ことを猛烈にアピってしまっていたような気がする。
しかし、酒に強いわけではないので、次の日は二日酔いで1日を無駄にするし、気が付いたらカバンが水浸しになっていたり、友人を外に待たせたまま、二時間コンビニのトイレを占拠するという革命運動を起こしてしまったこともあった。
他人に多大な迷惑をかけてしまったので、外での深酒は控えるようになったが、その後も明治の文豪をイメージして、昼間からウメッシュなどを飲み、推しキャラのバストアップイラスト制作などの創作活動に勤しんでいたら、母親に本気で心配され、抱きしめられたことを今でもはっきり覚えているし、その時エロサイトを閲覧中で、エロサイトの画面とうしろから抱きしめる母に挟まれて本当に困ったことも鮮明に覚えている。
明治の文豪はろくでなしも多いが創作の才能があっただけマシだと思う、世の中にはこういう太宰治から小説の才能を抜いた上に死ぬガッツもない奴がゴロゴロいるのだ。
○あのストロング系チューハイとの懐かしき日々
エロサイトと母の涙に圧殺されたのに懲りたわけではないと思うが、その後10年ぐらいは過度な飲酒をすることはなかったが、数年前「ストロング系チューハイブーム」がやってきた。
ストロング系チューハイとは、普通のチューハイよりアルコール度数が高いチューハイのことである。
ストロング系チューハイが話題になったのは、味ではなくもちろん度数の強さだ。
安価ですぐに酩酊でき、辛い現実から逃れられるため「飲む福祉」という異名を得て人気を博していた。
まっとうな大人であれば「まこと貧しくなり申した」と、日本の貧困化を藤木源之助みたいな顔で嘆くところだが、30代半ばにして未だに退廃への憧れを捨てきれない私は、さっそくストロング系チューハイを買って飲んでみた。
確かに、度数が高いため、あっという間に酔うことができた。
私のようにジュースみたいな酒しか飲めない、味覚キッズでも飲めてしまうのがストロング系チューハイの恐ろしいところなのである。
その感覚が楽しくて、しばらく朝からストロング系チューハイを飲みながら原稿を描く、文豪スタイルを楽しんだのだが、何せ元々アルコールに強い体質ではない。
結局、酩酊の快より、すぐに頭痛腹痛などの不快の方が上回り、このままでは死ぬと判断して、ストロング系チューハイを飲むのはやめ、その後酒類はほとんど飲まなくなった。
アルコール依存症の人は「これ以上飲んだら死ぬ」という「底つき」を体験してはじめて回復に向かうというが、私は底が「スト〇ロング缶3本」と浅かったため、命拾いしたと言える。
改めて私の酒歴を顧みると、一度たりとも「酒がおいしい」と思って飲んでいないことがわかる。
実際私は酒の味が好きではないし、ファソタグレープを「神の雫」と呼んでいる。
私が酒を飲むのは常に「違う自分になりたい」「現実から目を背けたい」時であり、おそらくアルコール依存症になる人の一定数はこの動機からなっているのではないかと思う。
同じ動機でも、もう少しチャレンジ精神のある人なら違法薬物などに行ってしまうのだろうが、私のように「もうどうにでもなれ!」と髪を振り乱しながらも「違法はちょっと」と、急に手櫛で毛をかき上げだすタイプも多いと思う。
おそらくそういうタイプは酒に行きがちである。
○厚生労働省が真顔になる。国民も目が据わる
酒は合法だが、逆にそのせいで依存しやすく回復が遅れがちとも言える。
実際、日本の「酒が安価でどこでも買える」という状況は、海外から見ると異常であり、屋外で昼間から飲酒していても誰も気にしていない日本の風景が「信じられない」と話題になることもある。
おそらく海外からすれば、全裸で外に出てしまっている上に周囲がそれを全く気にしていないという異常事態に見えるのだろう。
つまり、日本は実質ヌーディストビーチと言える。青い鳥は意外と近くにいたのだ。
辛い現実、簡単に入手できる状況、そしてストロング系飲料の台頭など、様々な条件がそろい、日本の酒害は思ったより深刻化しているようだ。
そしてついに、厚生省が「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を発表するに至った。
ガイドラインによると、1日の純アルコール量の目安は男性で40グラム、女性で20グラムだという。
20グラムは大体500mlの缶ビール1本分、350mlのチューハイ1本分だそうで、日常的に飲酒する人からは「とても無理」という言葉が挙がっている。
そもそも、酒の飲みすぎが体に良くないことぐらい、言われなくてもわかっている。
しかし、酒を飲まなければ、もっと体に悪い「ストレス」を解消できないので、どちらにしても健康を害すのである。
DIO様ですら飲まずにいられない酒を、我々しびれてあこがれ続けるだけのモブが我慢できるわけがない。
むしろ下手に酒を禁止すると、もっとヤバいものに手を出す人間が増加する恐れがある。
実際、大麻合法の国は、大麻の安全性を認めたわけではなく、もっとハードな物が蔓延するのを防ぐため「とりあえず大麻でも吸って落ち着こうぜ」というガス抜きの意味で解禁している場合もあると聞く。
国は酒を飲むのをやめさせるより、何故国民が酒を飲まずにいられなくなっているかを先に考えるべきだろう。

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