ロボット開発の今と未来、三菱電機の担当者に聞いた自動化推進の鍵とは?

2024年4月22日(月)11時42分 マイナビニュース

●ロボット業界が向かうべき方向性とは?
近年、人口減少や働き方改革が叫ばれている中、そうした課題に貢献するテクノロジーとしてロボットによる生産工程の自動化が注目を集めている。そうした中、三菱電機は2022年よりFAシステム事業のグローバルスローガンとして「Automating the World」を策定。オートメーション(自動化)技術の活用による社会課題解決への貢献を目指している。
自動化技術を長年にわたって培ってきた同社が、ロボット開発の現状や自動化推進の課題感、今後についてどう考えているかなどについて、同社でロボット事業に携わる同社機器事業部 ロボット・センサ部の武原純二氏と同戦略企画グループの菅原陸氏の二人に話を聞いた。
現在のロボット業界の課題
技術開発が進みロボットができることも増え、適用分野も広がっってきている近年。三菱電機でも、作業を高速かつ高精度に行う産業用ロボットのほか、安全柵を使わずに人と一緒に作業できる協働ロボットなど、それらの周辺機器も含めさまざまなロボット製品を展開している。しかし、自動化が進んでいる企業の多くが大企業であり、業界全体として自動化を推進するにはまだまだ障壁があるという。
ではどういった点が障壁となっているのだろうか?。武原氏は、ロボット業界が直面する共通課題として「ロボットのティーチング作業が難しい点」を挙げる。
例えば、人間が同じところに同じものを置く作業を行う際、最終着地点を教えてもらえれば、ものを取る位置や運ぶ位置が少しずれていたとしても、最終的には同じところに感覚で置くことが出来る。しかし、ロボットの場合は、その手順を緻密に教え込む作業が必要であり、いくらロボット側の技術が進化したとしても、それを使いこなせる人材がいなければ宝の持ち腐れになってしまうのだ。
また、専門の技術者によりティーチング作業が完了したとしても、実際にロボットが現場で稼働し始めた後に不具合が起きた場合、必ずしも技術者がその場に常にいるわけではないため、改善までのロスタイムが生じることとなる。ロボット導入を行い生産ラインの省人化が一時的に行えても、長い目で見ると、動作変更なども含めたティーチングの手間が導入の障壁となっていることも少なくはないのだという。
三菱電機が考えるロボット開発の目指すところ
しかし、同社のようなロボットを開発する側としては、必ずしも操作の「簡単さ」だけを追求するのみでは、真の意味でユーザーがロボットを活用するに足りないものがあるという。
「ロボットを提供する側の人間として、まずは自動化をすることによる“生産性向上”が1番の使命であり、ひいてはそれを“人手不足解消”につなげることも使命であると思っています」(武原氏)
つまりロボット業界の課題であるティーチング操作を簡単にし、人手不足解消につなげることも必要であるが、その一方で、いかに正確かつ高速に動作できるかといった精度の追求による生産性向上も実現する必要があり、その両輪を偏りなく開発していくことが重要だとする。
同社の省人化に対する考え方について菅原氏は、「人を0人にする完全自動化はもちろん1つの目指すべき姿としてあるとは思いますが、あまり現実的ではないと思っています。そこに挑むよりも、人がやらなくても良い単純作業をできるだけロボットにやってもらい、商品企画などの頭を使う必要のあるクリエイティブな作業に人手が回るようにするといった意味での“省人化”に力を入れていくべきだと思っています」と語る。
単純作業ではあるが、どうしても行う必要になる部分をロボットで代替することで、その作業に割いていた人手を減らすことができ、結果として人件費の高騰や人手不足などといった課題に対処できる。誰でも使用可能ながら高精度なロボットの開発を進めていくことで、「少しずつ(先行して導入が進んでいる)大企業だけではなく、ロボットの導入に敷居の高さを感じている中小企業であっても手軽に導入できるんだと思ってもらえるようにしていきたいです。そして、そうした多くのユーザーをいかにサポートしていくかというところも意識していきたい」(同)と語っていた。
●三菱電機の担当者が考えるロボット開発と自動化推推進の未来
目指すはトータルソリューションの提供、1社完結の自動化体制
そうしたカスタマファーストでロボットを開発・提供している三菱電機だが、そんな同社の最大の強みは「一元管理できるところ」にあるという。
例えばロボットとリニアトラックを別々に制御している場合、リニアトラックで早くものを目的地に運んだとしても、その目的地にロボットがアクセスするのに時間がかかれば効率が下がってしまう。しかし、一元管理することでロボットとリニアトラックを連動させることができれば、互いを効率よく動かすことが可能となる。こうした「同期性」を出せることが、あらゆるソリューションラインナップを揃えている三菱電機の技術の特徴と言えると武原氏は述べていた。
また、さまざまな機器に対してトラブルや課題を感じた時に、それぞれの機器ベンダに相談する場合、問題の切り分けに時間がかかるなど、時間と労力が必要となることもあるが、三菱電機1社に相談できる環境とすることで、そうした心配を排除できるようになるため、安心につながるだろうと菅原氏は言う。
さらに自動化の推進に向けては、「データの活用が重要になる」という考えから、顧客の現場で生み出された動作データなどを収集、そこから付加価値のあるデータを導き出し、顧客に還元している。近年はトータルソリューションの提供ができるような状態監視ソフトウェアやシミュレーションソフトウェアなど、各種ソフトの開発に注力しており、「いよいよ1社でさまざまな相談に乗れるステージに来たかなと思っている」と、強気の姿勢をみせていた。
そうして開発されたソフトとして、例えば3Dシミュレーションソフト「MELSOFT Gemini」では、三菱電機の製品はもちろん、最終的に顧客がどのロボット製品を使うかを想定し他社のロボット製品部品合わせて約3000種類のデータを標準装備、マウス操作で簡単にシミュレーションを行う環境を構築したという。
また、同社ではAI技術「Maisart」を活用したティーチングレスロボットシステム技術や、遠隔操作ロボットの開発による人が現地まで移動しなくても現場の作業ができる仕組みなど、人手不足解消につながるあらゆる技術を開発していることに加え、パートナーとの連携強化も図っており、すでにロボット関連だけでも200社以上と協力、より顧客ごとにあわせた形での提案ができるように事業展開を図っているとした。
自動化推進に向けた未来を考える
今回、取材の一環として、自動化に対して必要な機器などのものづくりを「見て」、使いこなせるノウハウを「学び」、実現したい手法を「試す」ことが出来る“自動化を支援するための施設”として2018年7月に設立された東日本FAソリューションセンター(東京・秋葉原)を見せてもらった。
取材時、施設内には同社の産業用ロボット「FRシリーズ」として、2023年10月より受注を開始した同シリーズ最大リーチ・最大可搬を実現した「RV-35/50/80 FR」(35kg、50kg、80kg可搬)の実機や、2023年3月より発売開始した、バッテリレスの高性能モータを搭載した「RV-12CR-D」の実機が展示してあった。2018年の設立以降、随時施設内の展示も変更しており、その時々の最新ソリューションを体感できるという。
こうした自動化ソリューションを身近に感じられる施設で実機を見てどういったことができるのかを理解することは、導入に躊躇する企業にとっても目の前で動いているという説得力もあり、導入に向けた一歩を踏み出しやすくしてくれることになるだろう。近年は、海外メーカー、特に中国メーカーからコストを抑えたロボットソリューションが日本市場にも入ってきているが、武原氏は「生産性向上、精度の面では、日本メーカーは負けていないと思っています。国内外メーカーの動向を抑えつつ、新たな価値を創造し、トータルなソリューションを提供できるよう開発を続けていきます。そして、(FAソリューションセンターを含め)顧客とコミュニケーションをしっかり取りながら、あらゆる不安や疑問を解消し、自動化を推進できるよう取り組みを進めていきたい」と語り、自社の強みを伸ばしていくことで、これから進むであろうあらゆる産業分野でのロボット活用に向けた活動を推進していきたいとしていた。

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