東大、ナノ炭素触媒が結晶セルロースを直接糖化できることを確認
2025年4月23日(水)13時55分 マイナビニュース
東京大学(東大)は4月22日、バイオマスの中で最も発生量が多い木質の主成分であるセルロース(結晶セルロース)を、前処理を必要とせずに直接分解してグルコース(ブドウ糖)を糖化(合成)することに成功したと発表した。
同成果は、東大大学院 総合文化研究科 広域科学専攻/附属先進科学研究機構の小林広和准教授、東大 教養学部 理科一類の嶌根亮学部生(現・東大 工学部 化学生命工学科 学部生)、東大大学院 総合文化研究科 広域科学専攻の西村直美学術専門職員、同・岩井智弘講師らの研究チームによるもの。詳細は、天然資源と廃棄物資源の持続可能な利用に関する学術誌「ACS Sustainable Resource Management」に掲載された。
バイオマスとは、生物由来で化石資源以外の、再生可能な炭素資源のことだ。具体的には、主に植物や藻類、シアノバクテリアなどの生物が太陽エネルギーを使って水と二酸化炭素から光合成を利用して生成して生成した有機物を指す。バイオマスを使用することで二酸化炭素を排出したとしても、光合成により再びバイオマスに戻すことが可能であり、環境負荷が低い資源とされている。
発生量の多いバイオマスとして、植物の細胞壁および繊維の主成分であるセルロースが挙げられる。セルロースは天然の高分子化合物で、グルコース(ブドウ糖)が多数つながった物質であるため、セルロースを効率的に分解することで、グルコースを得ることができる。得られたグルコースは、化学的あるいは発酵法により、生分解性プラスチックなどさまざまな有用化合物へと変換が可能となる。
天然のセルロースの特徴は剛直な結晶構造をしていることで、難分解性であることが知られている。セルロースを分解するには、長時間の粉砕を行うなど、強い前処理を施して結晶構造を壊し、相対的に反応性が高い非晶質のセルロースへと変える必要がある。この状態になれば分解でき、活性炭や酵素などの既存の触媒によってグルコースを糖化できる。しかし、結晶セルロースの反応性を高めるための前処理におけるエネルギー消費量が大きいために、これまでセルロースを化学資源として利用することが容易ではなかった。
そこで研究チームは今回、既存の活性炭が結晶セルロースをうまく分解できない理由が、活性炭が分子レベルではマイクロメートルサイズという巨大である上に硬い固体であることと、セルロースも大きくて剛直な固体であることから、両者の間にうまく接触が形成できないためではないかと考察。そしてナノサイズの柔軟な炭素であれば、結晶セルロースの表面に容易にアクセスして分解できるようになるのではないかと着想し、実際に確かめたという。
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