すばる望遠鏡、ペルセウス座銀河団と衝突したダークマターの塊を発見
2025年4月24日(木)17時11分 マイナビニュース
国立天文台は4月23日、すばる望遠鏡を用いて、これまで“静穏な銀河団の典型例”と考えられていた「ペルセウス座銀河団」に関する詳細な分析を行った結果、同銀河団の中心部から約140万光年離れた位置に、太陽質量の約200兆倍というダークマターの巨大な塊(副構造)を特定し、それが約50億年前に同銀河団と衝突し、その重力的に相互作用した痕跡と考えられる「橋」のような構造を捉えることに成功したと発表した。
同成果は、韓国・延世大学のキム・ヒョンハン博士らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
銀河団は、重力によって結びついた数千もの銀河からなる、宇宙における巨大な構造の1つだ。我々の天の川銀河も単独で存在しているわけではなく、隣のアンドロメダ銀河と共に周辺の矮小銀河を重力的に束縛して50〜60個の銀河で「局所銀河群」を構成している。さらに、同銀河群は、地球から約5900万光年と最も近くにある「おとめ座銀河団」に重力的に束縛され、それら全体を含めて銀河団の上位構造である「局所超銀河団」を構成している(さらにその上に、完全に重力では結びついていないが、「ラニアケア超銀河団」という超々銀河団ともいうべき構造もある)。
おとめ座銀河団の場合、およそ3260万〜8150万光年の範囲内に、史上初めて観測された超大質量ブラックホールの母銀河である巨大楕円銀河「M87」を中心に、大小合わせて3000個以上の銀河が密集している。その質量は研究によって1桁ほど異なり、太陽質量の600兆〜2000兆倍とされる。銀河団とは、銀河の密集地域といえ、そこでは衝突・合体も起きやすく、また銀河はそうして成長していく。
今回の観測ターゲットとなったペルセウス座銀河団は、地球からおよそ2億4000万光年の距離に位置し、質量は太陽の約600兆倍だ。これまでの研究から、同銀河団では合体の痕跡が見られないことから、銀河の衝突・合体が終了し、安定した状態にある「静穏な銀河団の典型例」と考えられてきた。ところが近年、観測技術が発達したことで、同銀河団の構造をより詳細に観測できるようになり、その結果、かすかながらも説得力のある、過去のかく乱の証拠が発見された。しかし、もしそれが間違いなく過去の衝突の痕跡だとした場合、衝突した相手がいなくてはならないが、これまで確認できていなかった。そこで研究チームは今回、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Supreime-Cam」(ハイパー・シュプリーム・カム)で取得された撮像データを詳細に分析することにしたという。
銀河団などの巨大な質量が、背後の銀河の光を曲げ、同じ銀河が増光したり、複数に分裂して見えたりする現象は、「重力レンズ効果」として知られている。遠方天体の観測に有効であると同時に、重力以外では検知できないダークマターの分布を探る強力な手段でもある。今回の研究では、独自開発された「重力レンズ解析手法」を用いて詳細な撮像データの分析が行われた。同解析手法は、背景にある銀河の形が、ペルセウス座銀河団のダークマターの存在によって極めてわずかに歪められる「弱重力レンズ効果」の影響を精密測定して、ダークマターの分布を調べるという手法であるその結果、ペルセウス座銀河団の中心部から約140万光年離れた位置に、太陽質量の約200兆倍というダークマターの巨大な塊である副構造が特定された。
また、この副構造とペルセウス座銀河団の中心部が、淡いながらも統計的に有意な“橋”のような構造で結ばれていることも発見された。このダークマターの橋は、両者に重力的な相互作用があったことを直接的に示すものだ。数値シミュレーションの結果、このダークマターの橋は、約50億年前にペルセウス座銀河団と衝突した痕跡であることが示唆された。この衝突の痕跡は、現在も銀河団の構造に影響を及ぼしていることが考えられるという。これまで、ペルセウス座銀河団では非対称な構造やガスの渦などが観測されていたが、銀河団の大規模な衝突の証拠と考えると、すべてがきれいに説明できるとした。
今回の研究成果については、2023年7月に打ち上げられた欧州宇宙機関(ESA)のサーベイ観測用衛星「ユークリッド」や、その2か月後に打ち上げられた宇宙航空研究開発機構(JAXA)のX線分光撮像衛星「XRISM」による観測結果からも、裏付ける観測データが得られたとしている。