OIST、生命誕生前の原始の海でタンパク質などが移動するための仕組みを発見

2024年4月26日(金)16時19分 マイナビニュース

沖縄科学技術大学院大学(OIST)は4月25日、細胞や微生物が、環境中の化学シグナルに反応して移動するプロセスである「化学走性」に関する根本的な疑問に答えるため、実験室で同現象を模倣するための合成液滴を作成し、現象を正確に分離、制御、研究できるようにした結果、単純な化学的相互作用によって、タンパク質などの非生命でも移動することが可能であることを発見したと発表した。
同成果は、OIST タンパク質工学・進化ユニットのアレッサンドロ・ベヴィラクワ大学院生、同・パオラ・ラウリーノ准教授に加え、OIST マイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットとOIST 複雑流体・流動ユニットの研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する機関学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
現在の地球には、ヒトを含めて数多くの生物が存在しているが、地球がおよそ46億年前に誕生した直後は、全面が溶融したマグマオーシャンだったと考えられており、当然その時には生命はまったく存在していなかったはずである。その後、宇宙空間から水やさまざまな有機分子がもたらされ、そうした「原始スープ」(生命を生んだ液体)から生命は誕生したとする仮説が、有力な説の1つとなっている。
原始スープの中において、タンパク質などの有機分子が移動できることが重要と考えられるが、それを実現するのが化学走性であり、その研究のために今回、合成液滴が作られた。液滴を作ること自体はそれほど困難ではないかも知れないが、すべての変数を正確に制御しながら、生物学的プロセスを可能な限り現実に近い形で模倣することは大変困難だという。
合成された膜のない液滴には、細胞内の混雑状態を模倣するために、ウシのタンパク質である「ウシ血清アルブミン」(BSA)が非常に高濃度で含まれており、また尿素をアンモニアに分解する酵素「ウレアーゼ」なども含まれている点が特徴とする。
アンモニアはpH値が高い、つまり塩基性(アルカリ性)の化合物。酵素がアンモニアの生成を触媒するにつれて、アンモニアは溶液中に拡散し、pH値の高い「ハロー」を液滴の周りに形成する。その結果、液滴はほかの液滴を検知して、互いに向かって移動することができるという。このことから、液滴の化学走性を理解する鍵は、pH勾配にあることが明らかにされた。
pH勾配は、分子がどのように表面張力の高い領域から低い領域へ流れるかを説明する「マランゴニ効果」を促進する。表面張力は、糊のように表面の分子をつなぎ合わせるのに必要なエネルギーの尺度。pHが高くなると、この接着力が弱くなり、分子が広がって表面張力が低下し、分子が動きやすくなるのである。
2つの合成液滴が十分に近づくと、それぞれのハローが相互作用し、それらの間の環境のpHが上昇、2つが一緒に動くようになる。液滴の反対側の端では表面張力がまだ強いため、液滴は表面が接触するまで形を保ち、液滴内部の凝集力が表面張力に打ち勝ち、合体する。大きな液滴はアンモニアの生成量が多く、表面積が広くなる(よって、表面張力が低下する)ため、大きい液滴が小さい方の液滴を引き寄せるという。
この液滴の開発により、研究チームは生物学的な動きに関する根本的な疑問に対する答えに一歩近づいたとする。今回の研究は、その最初の生命が誕生した時期の原始スープで、最も初期の生命体がどのように方向付けられて動いたのかについての知見が得られたとした。それと同時に、生物学的な発想からインスピレーションを受けた新材料の開発にもつながるとしている。
生命が地球のどこでどのように誕生したのかは、現在は確かめる術がないため、正解はもちろんわかっていない。しかし冒頭でも述べたように、タンパク質などの有機分子が原始スープ(海洋)の中で徐々に集まって洗練されて生命が誕生したのだとすれば、液滴が今回の研究で確認されたような移動メカニズムを持っていることは、有益だったと考えられるとする。この移動によって、酵素がさまざまな物質を触媒する原始的な代謝経路が形成され、最終的に化学的な勾配が発生して液滴が集まり、より大規模で洗練された共同体につながった可能性があるとした。
また今回の研究成果は、新技術の手掛かりも提供するという。単純な液滴が化学的な濃度勾配のおかげで移動できることが示されたことから、将来的には、その勾配を感知したり反応したりする技術を、マイクロロボティクスやドラッグデリバリーなどに応用することが考えられるとしている。

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