「ノモの国」でパナソニックグループが次世代の子どもにアピールした理由 「大阪・関西万博」のパビリオン訪問記
2025年5月2日(金)12時0分 ITmedia PC USER
パナソニックグループパビリオン「ノモの国」
ノモの国は、完全予約制のパビリオンだ。ただし、Osaka Metro中央線の夢洲(ゆめしま)駅から直結する東ゲートからは、すぐの場所にあるため、予約時間が合えば最初に訪れるパビリオンにしてみるのもいいかもしれない。特に、子どもが訪れるパビリオンとしては最適な内容になっている。
実際に現地の様子をレポートしよう。
●循環型社会の実践例でもある「ノモの国」
パナソニックグループパビリオンのコンセプトは、「解き放て。こころと からだと じぶんと せかい。」だ。
子どもたちが持つ秘められた力を解き放ち、非日常体験ができる「Unlock体験エリア」と、研究開発中の技術を用いて未来社会のアイデアを具現化した展示エリアの「大地」で構成される。事前予約で、15分ごとに30人ずつが参加が可能だ。Unlock体験エリアは約30分間、大地は約15分間の合計45分間の体験を味わえる。
会期中に45万人の来場が予定されているが、開幕10日間で約3万人が来場しており、予約が取りにくいと声が出るほどの人気ぶりとなっている。
まず、目を引くのがパビリオンの外観だ。
敷地面積は3508m2、延床面積は1732m2のパナソニックグループパビリオンは建築家の永山祐子氏がデザインしたもので、約1400枚のモチーフが折り重なり、ファサードを構成する。鉄製のフレームに薄いオーガンジーを張り、これが風に揺らぐことで、時々の条件でさまざまな見え方を楽しめる。
夜になると下方向からミストが噴射され、LEDによるライトアップと共に幻想的な雰囲気の演出が行われる。このライトアップに使われているエネルギーには、近接するNTTパビリオンから供給される水素を利用している。太陽光発電により、日中に生成した水素エネルギーを地中パイプラインを通じてパナソニックグループパビリオンに送り、純水素型燃料電池に蓄積し、それを夜間に利用している。
また、入口周辺に敷かれた舗装ブロックは、9200台のドラム式洗濯機の扉の裏側にあるガラス部分をリサイクルして作り上げたもので、循環型社会の実践例にもなっている。
●最新のテクノロジーを使って個々人の特性を表現
今回、事前に予約をしたのは午後3時15分の回であり、参加人数は約20人だ。親子連れが多く、ベビーカーでの参加者を含めて、子どもが約半分を占めていたのが印象的だった。
入口前では、ノモの国のオリジナルアニメの予告編を上映しており、それを見ながら入場時間を待つことになる。
ノモの国のオリジナルアニメは、今回の万博開催にあわせて制作されたもので、約34分間の作品となっている。市ノ瀬加那さん、潘めぐみさん、悠木碧さんなどの人気声優を起用した他、歌手の大原櫻子さんがテーマソング「夢は翼」を歌っている。
ノモの国の館長を務める、パナソニック ホールディングスの小川理子執行役員は、「パナソニックグループパビリオンの体験は、オリジナルアニメのアナザーストーリーに位置付けている。アニメを見てから来場すれば、より楽しんでもらえる。ノモの国に来場する前には、ぜひ、オリジナルアニメを見てほしい」と呼びかける。
予定の時間になると、Unlock体験エリアの入口に誘導される。Unlock体験エリアは、「カガミイケの奥深く」「ノモの森」「古木の谷」「大空へ」という4つのZONEで構成されており、まるで冒険をするような感じだ。
ZONE1のカガミイケの奥深くでは、真っ暗な空間の中に光や音、振動によって演出されたノモの国の様子を体験できる。
部屋の設置場所に合わせて最適な音質に調整する「Space Tune」の応用や、Technicsの高音質スピーカーで構成された23.4チャンネルの立体音響サウンドシステム、高輝度プロジェクターなどを活用することによって、水や風、光などを意識することができ、非日常の体験が始まることを予感させる。
ZONE2の「ノモの森」では、参加者一人一人がテーブルに置かれた「結晶(クリスタル)」を取り、光を放つ森の木々や岩に結晶を近づけると、音や光で反応する。輝く木や岩を見つけた子どもたちは、そこに駆け寄り、結晶を近づけるという様子があちこちで見られた。
実は、この結晶にはRFIDが内蔵されており、上部に設置された6台のカメラを組み合わせて、体験者の行動を分析することができる。この情報が、この後のZONEで活用されることになる。
多くの木や岩にかざしたり、人が少ない場所を選んでかざしたりといったそれぞれの行動から、性格などを分析するという。
ZONE3は、「古木の谷」だ。
古木には、個々人の個性や特性を反映した映像が表示され、さらに、それぞれに異なる色や形をしたチョウが結晶から解き放たれることになる。
古木には、透明OLEDディスプレイが埋め込まれており、そこに文字が表示されると共に、古木をのぞき込んだ体験者の表情を4台のカメラで捉え、ZONE2で収集した行動データと組み合わせて、感性モデルによって分析。それぞれの個性を表現する。
これはパナソニックグループが取り組んできた人の理解研究に基づく研究成果を活用したもので、表情解析や行動解析を元に、体験者の特性を分析できるという。
同社によると「好奇心やリーダーシップ、自律指向など、子どもを軸とした感性モデルによって特性を分類しており、性格的な強みとして4種類、強みを発揮する環境で8種類を掛け合わせた合計32種類の行動特性を示すことができる」とのこと。
これらの分析結果をベースに、個性として表現されるチョウの種類は百数十種類になる。
●体験者それぞれをチョウに見立てて360度シアターを楽しむ
ZONE3での体験が終わると、目の前には、大きな滝が現れる。
これは、同社独自の超微細ミストである「シルキーファインミスト」を用いて、約7(幅)×3.5(高さ)mという大きさの滝を再現したものだ。ミストをスクリーンとして活用し、そこに高輝度プロジェクターを使った演出を加えることで、滝の流れが変化したり、チョウが舞ったりといった様子を見ることができる。
体験者は、この滝を勇気を持ってくぐり抜けることで、次のZONEに行くことができる。
ZONE4は、「大空へ」と題したエリアだ。
ZONE全体が没入型シアターとなっており、台座に結晶を置き、葉っぱ(うちわ)で扇ぎ、風を起こすと、その風に乗って自分のチョウが舞いあがり、他のチョウたちと一緒になって音を奏で合うことになる。この動きが、ZONE内に新たなエネルギーを生み、空からミストの輪が降り注ぎ、体験者は開放された空間にいることを感じることができる。
ここでは、21台の高輝度プロジェクターを利用して、360度の空間に映像が投影される。クライマックスシーンでは、ボルテックスリングを活用して、映像が照射された直径約1.3mのミストの渦輪が、天井の5カ所から降り注ぐことになる。
体験が終了し、結晶を指定の場所に返却すると、それぞれの体験結果が反映された「Unlockカード」をもらえる。カードにはQRコードが記載されており、スマホなどを使ってアクセスすると、ノモの国で体験した様子を振り返ることができる。
●グループの技術を結集させて体感にこだわった「大地」エリア
Unlock体験エリアが終わると、次は「大地」のエリアだ。
ここでは「人の営み」と「自然の営み」を組み合わせた720度の循環をテーマに、パナソニックグループが研究開発中の技術を活用し、子どもたちや共創パートナーと共に、より良い未来を考えるための展示を行っている。
最初の展示が、成長刺激剤「Novitek(ノビテク)」だ。パナソニックグループが開発した食糧の生産力向上をもたらす新材料であり、トマトやトウモロコシ、ほうれん草などの葉面に塗布し、生育状況の効果検証を行っている。屋内における検証は初めてで、照明を当てて生育し、会期中には収穫も行う。
2つ目が「ガラス型ペロブスカイト太陽電池」だ。同社が「発電するガラス」と呼ぶように、屋根の上に乗せる太陽電池とは異なり、窓やバルコニーのガラスなどにも利用できる太陽電池で、展示エリアでは懐中電灯を太陽に見立て、ガラス型ペロブスカイト太陽電池を採用した建物の模型に当てるとエネルギーを活用して光ったり、模型が動き出したりする。
また、屋外にはインクジェット技術による独自加工を施したデザイン性の高いガラス型ペロブスカイト太陽電池も展示している。
3つ目は、セルロースエコマテリアル「kinari(きなり)」だ。
最大85%の植物繊維(セルロース)を含む植物ベースの高機能素材であり、展示エリアの天井には、Kinariによるリーフオブジェを配置している。100%の生分解素材により、7〜8カ月後には水とCO2となって土に返るという。また、廃材を利活用した再生素材のペレットも展示中だ。ジーンズやおがくず、古紙などを裁断してペレット化し、新たな商品作りにつなげることができるという。
4つ目が、「バイオライト(発光微生物)」だ。パナソニックグループでは、発光微生物を長期的に培養する技術を開発しており、その成果をバイオライトとして展示した。
展示エリアでは暗い場所に60Lの水槽を設置し、その中に発光微生物を入れて空気を流し込むと発光する。発光微生物は酸素を体内に取り込むことで体内の酵素と化学反応し、発光するという仕組みだ。将来的には、環境負荷が低いバイオライトを日常的に利用できる環境を目指すという。
最後は「バイオセンサリードーム」だ。外界からのノイズを軽減しつつ、さまざまな感覚刺激により自然環境に包まれる心地よさを感じることができるバイオフィリックデザインの考え方を取り入れたドーム空間を用意。ミストと照明の組み合わせによって気流の流れを可視化し、揺らぎを見ることで、心を落ち着かせることができたり、きのこの菌で作った菌糸パネルを配置し、日本家屋のような匂いや質感を体感できたりする。
また、生き物のようなやわらかさや温かさをもった呼吸玉を展示し、マイクロLEDを活用して木漏れ日の下で眠る心地よさも再現し、体験者にリラクゼーションを与えるという。
●「ノモの国」という名称の由来と狙い
パナソニックグループパビリオンを体験後に、パナソニック ホールディングス 万博推進プロジェクト総合プロデューサーの原口雄一郎氏が取材に応じてくれた。
原口総合プロデューサーは、「パナソニックグループパビリオンは、創業者である松下幸之助の『天分を生かす』という考え方から始まり、それを元に子どもたちの個性や感性を育むというコンセプトを打ち出した。パビリオン内では、技術的な説明を行っていないため、その分、体験に没頭してもらえている。技術を意識する体験ではなく、感性で楽しんでもらえるパビリオンになっている。
体験した子どもたちからは『なぜ、自分の性格のことが分かったんだろうと不思議な気持ちになった』とか、『メッセージをもらって前向きな気持ちになった』といった声が出ていた。また、大人も童心に返って楽しんでいる様子が感じられた。大地のエリアでは、トマトの栽培など身近な物事を通じて、最新の技術を体験してもらえている。パナソニックグループが、次世代を担う子どもたちに寄り添っていく企業であることを感じてもらいたい」と述べた。
パナソニックグループパビリオンのノモの国という名称は、「モノの捉え方はココロの持ちようで大きく変わる」ことを示し、モノという言葉をひっくり返し、「モノとココロは写し鏡のような存在である」という思いを込めているという。
万博会場には180以上のパビリオンがあるというが、パナソニックグループパビリオンは、子どもたちに気付きを与えるという体験ができるパビリオンとして、ユニークなものだといえそうだ。