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巨人Intelに挑め! – 最終章:インテルとの法廷闘争、その裏側 (13) 公正取引委員会がインテル・ジャパンを強制調査した"あの日"

マイナビニュース5月8日(月)10時0分
画像:巨人Intelに挑め! – 最終章:インテルとの法廷闘争、その裏側 (13) 公正取引委員会がインテル・ジャパンを強制調査した"あの日"
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○それはある晴れた4月の日に突然起こった…

2004年の4月のある快晴の日であった。私はその日、都内でとある重要顧客とのミーティングを終え、車で首都高速を走っていた。ちょうど正午のニュースをラジオで聞いていると、突然「今朝、公正取引委員会(公取委)が独占禁止法違反の疑いでインテル・ジャパンの強制調査を行いました」、というニュースが飛び込んできた。「ええっ!!」という驚きと同時に「ついにやったか」という感じがした。公取委の強制調査とはいわゆる「がさ入れ」である。車を運転中だったのでテレビのニュースの音声だけを聞いていたのだが、大会社のビルに公正取引委員会の人間がどかどかと入ってゆくテレビニュースで時々目にする光景が想像できた(いつも思うのだが、こういった官庁の強制調査の開始時期は事前にテレビ局などには知らせているのだろうか…)。

後で聞いた話だが、この日インテル・ジャパンではカスタマー向けの大きなイベントがあり、日本支社の幹部のほとんどは、プレゼンのために来日していた本社幹部らと一緒に浦安あたりの国際会議場にいたらしい。インテル・ジャパンの東京本社、つくばオフィスに、朝の9時ころ公取委の職員が大挙して突然現れ、「独占禁止法違反の疑いで強制調査をいたします。すべての従業員はパソコン、デスクの上の資料、キャビネットにあるファイルなど一切手を付けないでください」、と言ってどかどかと入って来るや、あらかじめ用意してきた段ボールにそれらを詰め込んで持って行ってしまう。強制調査の対象はインテル・ジャパンだけではなかった。当時は日本のパソコン市場は全盛期を迎えており、大手ブランドが群雄割拠していた。公取委の強制調査はこれらのインテルのカスタマーである国内パソコンメーカーにも向かった。もちろんAMDのカスタマーとそっくり重なる大手メーカーばかりである。公取委はパソコン、手帳などもすべて持って行ってしまったので、その後対象とされた人たちはしばらく仕事にならなかったそうである。

その晩のテレビのニュース報道でも結構大きく取り上げられていたし、翌日の朝刊では一面で報道していた大手紙もあった。 皮肉なことではあるが当時はテレビで「インテル入ってる」のテレビコマーシャルがいつも流れていたので、インテルの名前はパソコンの急激な普及とともに広く知られていたので、大きなニュースとして報じられた。

前年に立ち上げられた「スリングショット・プロジェクト」のメンバーであった私は事の次第を各国のメンバーにアップデートするカンファレンスコールが続き非常に忙しくなった。その当時、あくまで静観の米国公取の態度と異なり、日本、欧州、韓国の当局は独自の調査を進めていたので、先陣きってインテルに強制調査を断行した日本の公取委のアクションについては大きな関心を払っているようであった。

それまで、日本企業間のカルテルなどのケースを取り上げることが多かった日本の公正取引委員会がなぜこの時期に外資企業のインテルに強制調査を行ったかについては、私の憶測の域を出ないが以下のようなことだと思っている。

それまでの公取委と言えば、建設会社などの談合事件を主に取り上げていたイメージが強かった。しかし、市場はどんどんグローバル化している。世界の産業の中心が重厚長大型から軽薄短小型にシフトしていく中で、当局の関心もエレクトロニクス分野でのグローバル企業の日本市場にもたらす影響は大きな関心事であった。
電子産業の中心プラットフォームとなったパソコンは大変に大きな市場となり、日本市場は米国に次いで世界第2の巨大市場であった。また国内パソコンメーカーは世界市場に大きくシェアを伸ばしていた。そのパソコン製品のキーコンポーネントであるCPUを独占しているインテルの独占的な商習慣はグローバル企業としての日本パソコンメーカーの国際競争力、国内市場に与える影響、パソコン・エンドユーザーの利益という面で重要事項となりつつあった。

○公正取引委員会が排除勧告を出す

公取委は2004年の強制調査で収集した膨大な資料を精査し、ちょうど一年後の2005年3月に遂に排除勧告を行った。"排除勧告"というのはインテルの商習慣が独占禁止法違反に当たるとし、勧告に含まれている行為をやめるように命令するという意味である。このニュースは前年の強制調査の時と同じくらい大きくマスコミに取り上げられた。公取委のWebサイトにも公開されているこの時の排除勧告には、次のような内容が書かれている(分かりやすいようにフォーマットなどを著者が一部変えてはいるが、本文はそのままである)。

(排除行為):MSS(各国内パソコンメーカーが製造販売するパソコンに搭載するCPUの数量のうちインテル製CPUの数量が占める割合)を100%とする、MSSを90%とする、生産数量の比較的多い複数の商品群で競争業者製CPUを採用しないことのいずれかを条件として、割り戻しまたは資金提供を行うことを約束することにより排除。
(適用法条):私的独占の禁止(3条前段)
(違反行為者):インテル(株)(米国インテルの日本法人で、米国インテルが製造販売するCPUの輸入販売を行う事業者)
(競争事業者):日本AMD、米国トランスメタ
(取引分野):国内パソコンメーカー向けのCPUの販売分野
(違反行為者のシェア):約89%(平成15年)
(違反行為):インテル(株)は、国内パソコンメーカーのMSSを最大化することを目標として、国内パソコンメーカーの5社(5社のCPU購入シェアは77%)に対し、それぞれ「 MSSを100%とし、インテル製CPU以外のCPU(競争業者製CPU)を採用しないこと」、「MSSを90%とし、競争業者製CPUの割合を10%に抑えること」、「生産量の比較的多い複数の商品群に属するすべてのパソコンに搭載するCPUについて競争事業者製CPUを採用しないこと」のいずれかを条件として、インテル製CPUに係る割り戻しまたは資金提供を行うことを約束することにより、競争業者の事業活動を排除していた
(結果):日本AMD、米国トランスメタの国内CPUシェアは、約24%(平成14年)から11%(平成15年)に低下

前年の強制調査で入手した膨大な資料の精査という過程で、公取委には一年の間にインテル社員、カスタマー、競合会社から何人もキーマンが呼ばれていろいろな質問を受けた。競合AMDの私も何度か丸の内の公取委の事務所に呼ばれ、いろいろな資料を見せられたくさんの質問を受けた。それらの資料はほとんどが、通常の状態であれば私が眼にする機会のないものばかりのものでかなり生々しいものであったが、ここでその内容をお話しすることはできない。ただ言えることは、我々が疑っていた通りのことをインテルはカスタマーに行い、AMDのビジネスを妨害するのに躍起になっていたことがはっきり分かったことである。当時、省電力の独自のCPUアーキテクチャを発表して携帯用モバイルパソコンに限定的ではあるが実績があったトランスメタの名前が出たのを見た時は多少意外だったが、排除勧告に至る公取委の調査とその判断はかなり的を射ていたものだと思っている。

CPU技術で世界最大の半導体メーカーとなったインテルは、本来の競争領域である技術革新という範囲を超えた禁じ手を使ってAMDの市場躍進を妨害したことが当局の調査で明らかになったのである。これは画期的なことであった。

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、今年(2016年)還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。
・連載「巨人Intelに挑め!」を含む吉川明日論の記事一覧へ

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