フグに着想を得た振動推進型ロボットをJAISTが開発 - 配管内も自在に前進
2025年5月9日(金)20時18分 マイナビニュース
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は5月8日、フグのように体を膨らませる柔軟な素材と、振動を用いた推進機構の組み合わせにより、複雑な配管内を自在に前進できる適応型ソフトロボット「PufferFace Robot」(PFR)を開発したことを発表した。
同成果は、JAIST ナノマテリアル・デバイス研究領域のLinh Viet Nguyen大学院生(研究当時)、同・Khoi Thanh Nguyen大学院生、同・Ho Anh Van教授、米・テキサス大学オースティン校のThe Advanced Robotic Technologies for Surgery Laboratoryの国際共同研究チームによるもの。詳細は、「Science Advances」に掲載された。
柔軟素材を用いたソフトロボットは、その柔軟性と適応性により、従来の硬い素材を用いたロボットでは効果を発揮することが困難な環境でも活躍することが可能だ。ソフトロボットは、適応的な形態変化を備えており、これは身体知能の一形態として機能し、最小限の計算で環境の変化に応じて反応できる。こうした適応型のロボットは物理的構造を通じた局所的な調整により、計算負荷が軽減され、環境応答性が向上する。そこで今回の研究では、狭く人間が立ち入れない配管のような、制約のある可変形状における適応的な移動に焦点が当てられた。
配管は直径や形状、長さが場所によって大きく異なるため、ロボットの設計には大きな課題がある。これまでには、車輪式、歩行式、クローラー式、振動式など、さまざまな推進機構を持つロボットが開発されてきたが、それらをセンチメートルスケールの配管に適応させることは困難だ。
それに対し近年では、生物に着想を得て、さまざまなスマート素材を用い開発されたロボットのコンパクトで柔軟な設計が用いられており、複雑で狭い配管システム内での移動における適応性とエネルギー効率を向上させる。とはいえ、このような制約環境における、機敏かつ配管のサイズに適応可能な高信頼性の点検ロボットを実現することは、依然として課題だったとのこと。そこで研究チームは今回その課題に対応するため、フグに着想を得た適応型ソフトロボットを開発したという。
今回開発されたPFRは、形態学的な柔らかいスパイクを持つ、高弾性の薄いシリコーンゴム製の外皮を特徴とする。その設計パラメータは、研究チームの以前の研究である「Leafbot」から受け継がれたものだといい、周囲の流体や気体の流れを確保するため、ロボットの剛体構造は中空フレームおよび振動源から構成されている。そして、外部の圧縮空気源によって膨張・収縮を操作し、わずかな空気圧で大きく直径を変化させることができ、この仕組みにより不規則かつ多様なパイプ形状にも適応可能だ。また、暗所での点検作業を支援するLEDと小型カメラも搭載されている。
PFRの移動メカニズムは、柔らかいスパイクの先端に分布する非対称摩擦特性に基づく。その非対称性と振動の組み合わせによってPFRは前進し、今回の研究では実際にその前進移動が可能であることが示された。PFRには3つの移動モードがある。モード1では、振動モータを作動させ、水平配管を移動するモードだ。モード2では、柔らかい外皮の膨張・収縮のみで動作するモードだ。モード3は、モード1と2を組み合わせたハイブリッドモードで、配管内移動における主要なモードである。
今回の研究では、「テラダイナミクス」の手法が採用され、PFRが配管システムの困難な「地形条件」に対し、どれほど効率的かつ効果的な走行を行えるかが評価された。これには、鋭角な曲がり(エルボ継ぎ手曲率領域、分岐点、水平から垂直への移行、あらゆる方向での配管サイズの変化、T字分岐での操縦が含まれる。有限要素解析に基づいたシミュレーションプラットフォーム「ABAQUS」の「Dynamic Explicitモジュール」が使用され、PFRを実環境に配置する前に、特定の管状環境での通過可能性が評価された。その結果、すべてのテストケースにおいて、シミュレーションの結果は実験結果とよく一致したという。
PFRのような振動駆動型ソフトロボットは、特に小規模配管用途に特化した設計に将来性があり、今回の評価対象となった配管のような工業点検に加えて、医療用途、特に大腸検査などの低侵襲手術への応用に大きな可能性を秘めているとする。柔らかく適応性のある構造は、複雑で傷つきやすい生物学的環境を安全に移動させ、従来の内視鏡ツールに代わる、より安全で効率的な選択肢を提供するとした。研究チームは今後、さらなる小型化と移動性能の向上を目指し、より狭く限られた空間でも自在に動けるように改良を進めていく予定としている。