迫る「2025年の崖」と企業が直面する課題「デジタル化は進むも変革が進まない」ワケ 第3回 変革を停滞させる意思決定の壁? DXを進めるために必要な視点
2025年5月9日(金)13時24分 マイナビニュース
前回は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが進まない理由として、「現行踏襲」の落とし穴について述べました。今回は「情報投資の意思決定プロセス」の落とし穴に焦点を当て、DXを推進するうえでの課題と解決策を詳しく解説します。
IT部門だけで進める意思決定の盲点
DX推進において、DXの構想や「ありたい姿」の策定・推進をIT部門が主導することは少なくありません。しかし、IT部門だけで進める場合、業務部門や経営層の視点が欠けることも多く、投資効果について説明不足になりがちです。その結果、経営層の意思決定に結びつかず、DX投資が停滞する事態が生じるのです。
例えば、IT部門が業務効率化を目的として高額なSaaS(Software as a Service)の導入を提案しても、「その技術が業務改善や売上向上にどう貢献するのか?」という経営視点での説明が不足し、経営層に対して投資の正当性を示せず、承認が得られないといった事例があります。
このような失敗を防ぐためには、IT部門は単なる技術導入ではなく、新たなシステムの導入がどのように業務改善に貢献するかを明確にし、経営層の理解を得ることが必要です。特に、経営層を含め、DXへの投資はコストではなく、事業成長の手段であることを認識することが鍵となります。
企業のDXが停滞する3つの典型的な原因
DXの推進において、多くの企業が共通して直面する課題があります。特に、情報投資の意思決定プロセスにおいて戦略的な視点が欠けると、DXの成果が十分に発揮されません。ここでは、DX推進における3つの典型的な失敗パターンを解説し、それぞれの背景と課題を明確にします。
IT部門のDXに対する理解不足
DXを単なるシステムの刷新や老朽化対応と捉え、IT部門だけでモダナイゼーションを進めてしまうケースがあります。また、業務部門が主導するDX施策に対して、IT部門が十分な支援を提供できず、結果としてIT部門がビジネス成長に貢献できなくなることも少なくありません。その結果、業務部門だけで改革が進み、一時的な業務改善は実現するものの、IT部門には非効率な運用だけが押し戻される事態に陥ることがあります。
経営層のDXに対する理解不足
経営層がDXの本質を理解せず、IT部門にすべてを委ねてしまうことも大きな課題です。IT部門から提案があっても、経営視点での価値を認識できず、投資判断を後回しにしてしまうケースが多く見られます。その結果、DXの取り組みが進まず、企業の競争力向上につながらないという悪循環が発生してしまうのです。
DXを牽引するリーダーの不在
DXを全社的に牽引するCIO(最高情報責任者)や、それに相当するリーダーが不在の場合、DXの方向性が定まらず、推進力が弱まります。その結果、経営層はIT部門の提案に対して批評的な立場にとどまり、デジタル活用による事業成長の戦略をなかなか「自分事」として捉えられません。
DX成功の鍵は全社戦略!意思決定プロセスを最適化する3つのポイント
DXを成功に導くには、単なるITシステムの導入ではなく、全社的な取り組みが不可欠です。前述した3つの失敗パターンを回避するために、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
(1)早い段階で経営層を巻き込む
DXの方向性を全社で統一するためには、企画段階から経営層を巻き込むことが重要です。CIO(最高情報責任者)がいる場合はもちろん、不在の場合もCIO相当の役割を担うステークホルダーを特定し、その意見を反映しながら進めることが成功の鍵となります。経営層のコミットメントが得られれば、DXが単なるITプロジェクトではなく、企業戦略の一環として強力に推進されるようになります。
(2)経営視点での価値をコミットする
DXが事業価値を向上し、競争力を強化するものであることを経営層に理解してもらうことが成功の鍵です。単なるコスト削減ではなく、DXが企業の成長にどのように貢献するのかを具体的な指標とともに示し、投資対効果を明確にしましょう。経営層がDXを戦略的な投資と捉えれば、意思決定がスムーズになり、より積極的な推進が可能になります。
(3)業務部門との連携を強化する
DXを単なるITシステムの刷新や老朽化対応だけで終わらせないためには、現場の課題やニーズを正しく把握し、業務プロセスの改革とセットでIT活用を進めることが重要です。IT部門単独では見落としがちな業務改善の視点を取り入れることで、DXの実効性が高まり、現場での定着率も向上します。
経済産業省のDXレポートにおいても2018年の発行当初は、国内企業に残されたレガシーシステム脱却と危機感を意識させる内容でしたが、2022年7月発行のDXレポート2.2は、経営層が「行動指針」を示すことを促すものへと変化しました。
また、DXを推進するCIOの役割が明確でない企業では、DXの方向性がブレやすいため、長期的な成果を求めにくく短期的な成果を求めざるを得ず、中途半端な改革に終わるケースが多いのも課題です。したがって、DXが事業価値の向上や競争力強化につながることを経営視点で明確にし、投資対効果を示す必要もあります。経営層を初期段階から巻き込み、CIOを含めたリーダーシップの下で全社的な方向性を一致させることが成功の鍵となります。
内部で各部門間をまとめ、DXの旗振り役となるリーダーを選任することが難しい場合は、外部からCIOを招聘することも1つの手段と言えるでしょう。
DXを成功に導くためにIT・業務・経営の連携と投資効果の検討を
本稿で述べてきたように、DXを成功させるためには、IT部門と業務部門が両輪となって企画を進め、投資効果を慎重に検討することが必要です。しかし、経営層からIT部門にDX推進を依頼した際、IT部門がデジタル活用の「手段」を知っていても、「目的」は業務部門と連携しなければ明確にすることはできません。
そのため、経営層を初期段階から巻き込み、経営の課題や意見を反映させた「目的」を明確にすることが重要です。これにより、スムーズな意思決定が可能になります。また、IT部門と業務部門の利害が一致しない場合には、外部のパートナーとしてコンサルタントに伴走してもらうことも1つの手段です。
DXは単なる技術導入ではありません。企業全体の変革を目指す取り組みです。そのためには、全社的な視点での意思決定プロセスが不可欠であることを忘れてはなりません。そして、DXには業務改革・ビジネスモデル変革・データ活用を一体的に進めることが求められます。特に、DXの目的を明確化し、「何を実現するためのDXなのか」を定義することで、各部門の協力を得やすくなり、成果につながる可能性が高まります。
本稿で紹介した「情報投資の意思決定プロセスの落とし穴」を克服し、企業が真のDXを実現するための第一歩を踏み出すことを期待しています。
次回は、DXの進捗を阻害する3つ目の要因である「モダナイゼーション投資効果への固執の落とし穴」について詳しく解説します。
著者:篠田 尚宏
Ridgelinez株式会社 Director/Technology Group
著者:藤井 崇志
Ridgelinez株式会社 Senior Manager/Technology Group