ドコモは新料金プランで反転攻勢へ、通信品質1位の目標を「なかったことにするつもりはない」 決算会見で語られたこと
2025年5月10日(土)11時12分 ITmedia Mobile
2024年度通期の業績
営業収益は、スマートライフ、金融決済、法人ソリューション事業などの成長分野で2000億円を超える増収があったものの、コンシューマー通信の減収や、法人PSTN(固定電話の加入電話回線ネットワーク)のマイグレーションなどがマイナス要因となった。
営業利益はスマートライフ事業を中心に増益があった一方、コンシューマー通信の減収、他社対抗コストの戦略的強化、PSTNマイグレーション(固定電話のIP化)などの影響で減益となった。しかし、下期にはMNPがプラスに転じ、ARPUは第1四半期を底に反転傾向。都市部や主要鉄道沿線の通信品質も向上し、プレゼンテーションを行った前田社長は「事業モメンタム(勢い)が明らかに回復した」と語った。
●2025年度の業績予想 コンシューマー通信は減収幅が改善する見込み
2025年度は、スマートライフと法人のオーガニック成長加速により、営業収益が1229億円増の6兆3360億円、営業利益は先行投資の継続と後年度負担軽減策により545億円減の9660億円を見込んでいる。スマートライフや法人といった成長分野では2000億円を超える増収を見込み、法人事業においては営業収益2兆円を目指す。コンシューマー通信は減収幅が改善する見込み。
2025年度も販売促進やネットワーク品質向上への投資を継続し、モメンタムのさらなる改善に取り組むという。2025年度も減益予想だが、26年度以降の成長を確実にするための取り組みに注力。25年度は成長に向けた変革の年として位置付け、マーケティング戦略とネットワークの構造改革を実行するとした。
マーケティング戦略では、新料金プランの「ドコモMAX」などを通じてモバイル通信サービス収入を2026年度にかけて増加に転じさせ、顧客獲得と販促費用の効率的な利用を実現するという。
ネットワーク構造改革では、サービスの土台となる通信品質の強化に今後も投資する。一方でネットワーク構築プロセスを抜本的に見直すことで、2026年度には基地局の投資単金を軽減し、2027年度にかけてネットワーク投資を300億円規模で効率化していくことを目指すとしている。
●新料金プラン「ドコモMAX」でARPU反転を図る
2025年度のコンシューマー事業では、「多様なビジネスパートナーのバリューとドコモのバリューを組み合わせ、お客さまに選ばれる新たなバリューを創出することに注力」するという。その1つの形が、6月5日から提供開始予定の新料金プラン「ドコモMAX」や「ドコモポイ活MAX」だ。
ドコモMAXは「プラン選択の軸をデータ量や価格から、バリューへとシフトした新料金プラン」と説明。長期利用割引や国際ローミングなどの特典に加え、DAZNやAmazonとのコラボレーションを通じて、スポーツ、EC、動画配信など、幅広いユーザーのニーズに応えるとした。
2024年度下期は、販促費の戦略投下によりMNPがプラスとなり、個人ハンドセット純増も改善。2025年度もMNPのプラストレンドを加速し、ユーザー獲得強化とドコモMAXの早期認知度向上による新規顧客獲得を進め、顧客基盤を強化するという。
2024年度のARPUは通期予想に10円及ばなかったものの、「eximoへのプラン変更率は4Qでも60%以上維持」した。料金プランのリニューアルを通じて、2024年度を底に上昇トレンドに乗りたい考えだ。
主な事業についての取り組みも説明した。スマートライフをけん引する金融事業はdカード PLATINUMが好調で、5月5日時点で60万会員を突破。収益拡大に貢献している。マネックス dカード積立決済額が約5倍に成長し、融資事業のローン残高も23%伸長。2025年度の金融事業収益は5160億円を目指す。
エンタテイメント事業の2024年度収益は、動画配信のLeminoや、吉本興業と共同で設立したエンタメ企業「ドコモ スタジオ&ライブ」などの成長により、2338億円まで成長。オリジナルコンテンツの開発や、Jリーグ、人気スポーツなどのイベント、ライブの主催、自社アーティスト育成を強化してオリジナルIPを開発し、2025年度は2360億円の収益を目指す。
法人事業はDX需要により、大企業向けソリューションは大きく成長したが、中堅中小向けは想定を下回った。2025年度はドコモグループのICTインフラやNTTグループの先進技術を活用し、2兆円の収益を目指す。
●ネットワーク品質向上に引き続き注力
2024年度は通信サービス品質向上を最重要課題として取り組んだドコモ。全国の主要都市中心部や主要鉄道動線で、5G基地局数を対前年で20%拡大させ、イベント対策も強化。結果として、平均スループットは主要都心部で対前年20%、主要鉄道動線で30%向上。特に山手線周辺では80%向上した。前田社長は定期的に山手線に乗車して品質測定を行っているといい、「以前よりも高いスループットを確認している。お客さまの体感品質が着実に向上していると感じている」と語っていた。
2025年度は、Sub6の全国展開を拡大し、4G周波数帯による5Gエリアも、これまで以上に拡充する。また、MMU(Massive MIMO Unit)や最新型基地局装置の導入、置き換えを進め、端末の送信電力を高出力化するHPUEのスマホ対応も開始する。
ネットワーク構造改革による効率化も進めていく。通信品質向上の投資は継続しつつ、組織・体制、業務プロセス、調達プロセスを変革してコスト効率化を図る。これにより26年度は5G基地局の投資単金を20%低減。ネットワーク関連投資を300億円規模で削減し、通信品質向上とコスト低減を両立させるとした。
●NTTの「ダイナミックループ」を加えたロゴに刷新
最後に、刷新したコーポレートブランドロゴを紹介した。新しいロゴは、従来のドコモロゴにNTTのコーポレートロゴである「ダイナミックループ」を融合したもの。カラーは今までと同じ「ドコモレッド」だ。加えて、NTTコミュニケーションズをNTTドコモビジネスに、NTTコムウェアをNTTドコモソリューションズに社名変更し、NTTドコモ・グローバルも含め、新たなコーポレートロゴを策定している。
●質疑応答:銀行業や衛星通信の見通し、料金プランの考え方など
ARPUをどのように上げるのか
プレゼンテーション後は記者からの質疑に応じた。
—— モバイル通信サービス収入について、25年度を底に26年度、27年度で反転する絵を描いている。先日発表した料金施策など、どんな形で絵を描いているのか。
前田氏 1つは以前から取り組んでいる顧客獲得をしっかりやっていくということ。正直、一昨年度(2023年度)までは、他社さんに比べて、販促コストに関してわれわれの投入額が多くなかったと思っている。獲られ放題をしっかり止めるということ。24年度は戦略的に販売コストをかけ、それによって下期はMNPがプラスになったが、この流れを25年度以降も続けていく。この中で顧客基盤が強化され、マイナスが少なくなっていく。ハンドセット純増もプラスにしていき、顧客基盤に関してのマイナスはなくなっていくと思っている。
ARPUに関しては、24年度第1四半期で下げ止まっている状態にできている。ポイントや金融・決済といったバリューとの組み合わせで、高い料金プランを選んでいただけるような努力をしている。そのためeximoの移行率が60%になって、ARPUが上がってきていると認識している。
新料金プランによって、さらにこの流れは加速できると思う。これらの掛け合わせによって、26年度には(モバイル通信サービス収入を)なんとか反転できる、再度狙えるような状況を作っていきたいと考えている。
銀行業の進展はめどが立っておらず
—— 銀行機能の獲得が後ろ倒しになっている。現段階の進捗(しんちょく)状況、銀行機能の獲得に対する考えを聞きたい。
前田氏 25年3月までにめどをつけたいと豪語していたが、かなわなかった。大変残念だと思っている。正直、現時点で何も決まっているものはないが、あらゆる可能性を探っている。
銀行機能の必要性の認識はまったく変わっていない。特に今は金利も上がっており、銀行機能を取り込むことによるビジネス拡大のチャンスはある。銀行機能を取り込むことで、お客さまに提供できる金融サービスの幅も広がり、お客さまからのお支払い、われわれがパートナーに対して支払いをすることに関しても、銀行機能があるかないかで、やりやすさが変わってくる。改めて頑張って進めたい。
通信品質ナンバーワンは諦めずに取り組む
—— 通信品質向上の取り組みで一定の効果があった一方、25年度も取り組みを継続する。また、4月下旬に発表されたOpensignalの調査レポートではKDDIが多くの項目で優位に立っている。前田社長は過去に『一貫した品質』の体感評価ナンバーワンを目指すという発言もした。24年度を終えて、現状の通信品質についてどう感じているのか。
前田氏 向上してきているところはあると思っている。その結果が、Opensignalの5Gのダウンロードスピードやカバレッジの高評価につながったと思う。ただ、全体的には他社さんが上回っている。現時点で、他社さんを上回る状況には、必ずしもなっていないだろうとは思っている。25年度も26年度もしっかり投資していき、(通信品質を)向上させていく。
私が昨年度、(通信品質改善を)お話させていただいた後、社内で一緒に取り組んできたが、やはり一定時間かかることがあるのは事実。その中で、どのように取り組んでいくべきか分かってきたこともある。そういった部分を充実させていき、なんとか向上させていきたいと思っている。
サブランドも含めた通信品質でいえば、そこまで他社と乖離(かいり)しているレベルではないと思っている。
—— Opensignalの一貫した品質でナンバーワンを目標に掲げていたが、今回は(調査方法が変更されたため)発表されなかった。次回に持ち越しするのか。それとも、もうなかったことにするのか。
前田氏 なかったことにするつもりは全然ない。そこに向けてしっかり努力を進めていきたい。
2026年に衛星とスマホの直接通信サービスを開始予定
—— 衛星とスマホの直接通信について、KDDIはサービスを開始し、楽天モバイルは少し先の話を開示し、ソフトバンクも来年(2026年)開始すると明らかにした。ドコモにはHAPSもあり、NTTグループには宇宙ビジネスの「C89」もある。この状況が競争環境にどのような影響を与えると見ているのか。
前田氏 われわれも、衛星とスマホの直接通信に関して、来年夏にはサービス開始できるめどが立っている。そういう意味ではソフトバンクさんと同じ状況にあると思っている。
HAPSはもともと26年度内に商用サービスしていきたいということで実験をいろいろ繰り返している。課題ももちろんあるが、目標をそこに定めており、今後もそこに向けて努力をし続けていきたい。
いずれにせよ、KDDIさんが先行していることは事実だと思うので、われわれとしては来年度のサービス開始に向けた準備を確実に進めていくことだと思う。災害対策という意味では、必ずしも衛星とスマホの直接通信だけではないと思っている。やれることをしっかり取り組んでいくことでカバーできるんじゃないかと思っている。
—— 来年夏のサービス開始時、どこの事業者の衛星を活用するのか。
前田氏 それに関しては回答できない。できるようになったらお話したい。
新料金プランは選択肢が少ない? ahamoも値上げ?
—— ドコモMAXは、DAZNユーザーからの評価がある一方で、DAZNは見ないから不要いう声も当然ある。もっとシンプルで使い放題のプランは検討しないのか。
前田氏 バリュー軸でお客さまに対してサービスを提供する方向に、マーケティングとして転換させていきたいという戦略的意図がある。事業環境が、あらゆるコストが増えていることは事実なので、お客さまに高いレベルの対価を払っていただけるようなサービスを提供していく方向に、何とか持っていきたい。その意味で、やはり通信だけではなく、その上に載ってくる価値でどう差別化していくか。その価値をニーズとしてお持ちのお客さまに、どうアプローチしていくか。こういった部分を強化していくことで、差別化されたドコモのサービスをお楽しみいただけると思っている。
ただ、できる限り広いお客さまに受け入れられれば、それに越したことはない。ドコモMAXは、確かにDAZNが際立っていると思う。分かりにくいという評価もいただいている。さまざまなサービスをご利用いただくことで割引を適用しているが、われわれがさまざまな事業を行っていく中で、セットでサービスを提供する。バラバラでお使いいただくよりもお客さまにお得やメリットがある状況を作っていくために、こういう形を採用している。
eximoでは、お客さまの半分はフルで割引が適用されていて、90%は何らかの割引が適用されている。今回ドコモMAXにセットさせていただいている価格自体は、決して高いものではないのではないと考えている。この路線で、これから頑張ってやっていきたい。
—— 他社がサブブランドも値上げしている。ドコモのahamoはどうするのか。
前田氏 既存プランに関してはいろいろ考えたい。ある前提をもってお客さまに加入いただいているので、それをどうこうすることは、相当考えなくてはいけない。全体の状況を見ながら判断していかないといけない話なので、じっくり検討していきたい。われわれには、3Gも含めてかなり古くからの料金プランある。こういった古いプランを整理していかないと、それこそコストばかり高くつく。整理は進めていきたいと思っている。
—— 既存プランは上げる方向なのか。
前田氏 上げるということではない。どちらかというと、古いプランをなくしていって新しいプランに移り変わっていただくという感覚。
—— 低料金プランが結構な値上げになっている。今、顧客を獲得している中で、マイナス影響にならないか。
前田氏 irumoの0.5GBプランに関しては、顧客獲得の上で一定の影響が、短期にはあるかもしれないとは思っている。ただ、特に新規、ポートインで0.5GBに入っていただいているお客さまの半数が、1年以内に次に移られる状態。こういった獲得に対してコストをかけること自体に、あまり意味がなくなってきている。つまり、取れもしないけど減りもしないということになるので、あまり影響を大きく及ぼすことはないだろうなと思っている。全体としてギガ数を増やし、割引の施策も含め、リーズナブルな料金体系を設定させていただいているので、十分競争力があると考えている。
NTTのロゴを導入するのはなぜ?
—— NTTのロゴ(ダイナミックループ)を導入する狙いは何か。NTTコミュニケーションズやNTTコムウェアで、ドコモの力が強まる懸念はないか。
前田氏 NTTの島田社長も話していたが、ダイナミックループはわれわれがNTTグループの一員として、さらに大きくシナジーを拡大していくということだと思っている。NTTグループの中には、さまざまなアセット、ケイパビリティがある。これをお客さまに対して新しい価値として提供していくことや、競争力強化に使わない手はない。今回、NTTデータもNTTグループの中に完全子会社化ということで組み込まれた。もちろん、われわれは日頃からいろんな連携をしている。こういったことを強めていく。その中でわれわれがグループをリードしていくということで、赤いダイナミックループを付けることにしたということ。
ドコモとコミュニケーションズ、コムウェアがグループになって4年になろうとしているが、まさに全体を融合させて競争力を作るために行ったこと。さまざまな連携を取ってきており、いろんなフォーメーションも試してきている。より一層、一体感を強めていくことが、競争力の強化につながっていく。昨年度(2024年度)、グループビジョン、グループ行動原則も制定したが、まさにそういう思いからやらせていただいた。
今回、さまざまなブランドの見直しが行われるタイミングが、われわれとしては一番いいタイミングだということで、ドコモグループ全体で相談して、話をした結果として今回の改変に踏み切った。力が強いとか、そういう話ではなくて、フラットに連携し合いながら一緒に進んでいきたいと思っている。