au新料金プランは「王道」「異例」の改定、UQ mobileは“ahamo対抗”の役割を終えてブランド再編に
2025年5月10日(土)6時5分 ITmedia Mobile
KDDIは、auとUQ mobileの新料金プランを6月3日に導入する。合わせて、既存のauの料金プランを8月に値上げすることも発表した
過去には楽天モバイルが1GB以下0円だった「UN-LIMIT VI」を廃止した例はあるが、既存契約者の料金を値上げするのは異例といえる。また、UQ mobileは新料金プラン導入に伴い、現行料金プランの新規受付を終了。既存の料金プランも、今後値上げすることを示唆している。こうした点からは、マルチブランド再編の思惑も透けて見える。
●通信サービスとポイント還元で価値を加えたauバリューリンクプラン
auの新料金プランは、「auバリューリンクプラン」と名付けられた。各種割引適用前の料金は8008円。現行料金プランの「使い放題MAX+」と割引は変わっておらず、「家族割プラス」「auスマートバリュー」「au PAYカードお支払い割」が適用される。割引額や割引の種類を増やし、複雑性が増してしまったドコモの新料金プランとは違い、スムーズに理解されることに主眼を置いているといえる。
割引額は家族割プラスで3人以上の場合が1210円、auスマートバリューが1100円、au PAYカードお支払い割が220円。3つを適用した際の料金は、5478円まで下がる。現行の使い放題MAX+は、割引適用前が7458円、割引適用後が4928円だったため、どちらも550円の値上げになっている。
ただし、auバリューリンクプランには月額548円の「Pontaパス」が付属する。これがセットになったと考えれば、事実上、料金はほぼ据え置きと捉えることも可能だ。Pontaパスのユーザー数は現時点で1500万を超えているため、もともとこれに加入していた多くのユーザーは値上げなしでその他の特典が手に入る格好だ。
“バリュー”と銘打っていることからも分かるように、auバリューリンクプランには、Pontaパス以外のさまざまなサービスもセットされている。料金面で影響が大きいのは、サードパーティーの月額課金サービスを契約した際にポイント還元を受けられる「サブスクぷらすポイント」の還元率が20%に上がること。現行の料金プランは15%還元のため、5ポイントアップになる。
現状、サブスクぷらすポイントは「Netflix」「Apple Music」「YouTube Premium」「TELASA」の4つが対象だが、夏以降、ここに「Google One」も加わる。GoogleドライブやGoogleフォトのバックアップを利用しているAndroidユーザーには、特にうれしい特典といえそうだ。また、AIサービスのFeloも加わる。
経済圏連携を強化しただけでなく、KDDIの本業である通信でのサービスも拡充した。既存の料金プランと同様、「au Starlink Direct」が無料で利用できることに加え、5G SAの優先制御によってより快適に通信ができるようになる「au 5G Fast Lane」も導入される。これは、「基地局が配下の端末にリソースを割り当てる際の確率を高める」(代表取締役社長CEO 松田浩路氏)仕組みで、相対的に速度向上が見込めるという。
さらにドコモと同様、海外ローミング時のデータ通信も15日間相当が無料になる。KDDIの「au海外放題」は、予約なしの場合、通常24時間1200円(不課税)で提供されているが、この15日分相当が無料になる仕組み。事前予約で1日800円(不課税)まで料金が下がる国や地域の場合には、22日間分が無料になる。550円の値上げをしつつ、Pontaパスやサブスクぷらすポイントで還元を強化し、さらに通信サービスも充実させたのがauバリューリンクというわけだ。
松田氏は、「ここまでの価値を提供し、何とかサービス改定(値上げ)をご理解いただきたいという思いがある」と語る。値上げしつつも、Pontaパスやサブスクぷらすポイントをセットにしたことで、料金がKDDIを取り巻くパートナーに還元される側面もある。松田氏も、「いただいた対価は、設備工事を請け負っていただく取引先や代理店、大切なパートナーにしっかり還元し、未来に向けた再投資も行っていく」と述べている。
●既存料金プラン値上げの衝撃、使い放題以外もまとめて改定
料金プランを新設して、移行を促していくのはある意味キャリアの王道といえる手法だが、異例なのが、既存の料金プランも値上げに踏み切ることだ。例えば、使い放題MAX+の場合、auバリューリンクプランと同じau 5G Fast Laneやau海外放題の15日間分無料、サブスクぷらすポイントが加わり、料金は330円値上がりする。
より分かりやすくいえば、Pontaパスの有無がauバリューリンクプランと使い放題MAX+の差分になるということだ。使い放題MAX+の新料金は7788円。各種割引適用後は、5258円に下がる。サービスを増やした分、対価として330円が上がる格好だ。通常、新料金プランを増やした場合、現行の料金プランは受付を終了しながらも、価格は維持することが多い。
例えば、ドコモも「ドコモMAX」や「ドコモmini」を導入するが、6月5日以降も、既に契約していた「eximo」や「irumo」はそのままの容量、料金で使い続けることができる。値上げした場合も、通信方式を変えたり、データ容量を増やしたりして、ユーザーが自らの意思で新料金プランを選択するような建て付けになることが多い。使い放題MAX+のように、自動的に料金が上がるのはレアケースといえる。
一方で、料金プランの新設だと、移行のペースはどうしても緩やかになる。物価が急速に上がっている状況だと、“実質値下げ”になってしまいやすい。松田氏も、「大きな背景として、社会全体であらゆる価格の見直しが進んでいる」ことを挙げていた。ユーザーからの反発がある程度あることも予想した上で、新サービスの付与によって、値上げを許容してもらえるように腐心したことがうかがえる。
また、一連の価格設定からは、Pontaパスの加入を促進したい狙いも透けて見える。使い放題MAX+の新料金と、auバリューリンクプランの差額が、わずか220円だからだ。松田氏は「(Pontaパスに)魅力を感じていただける方は、よりお得にauバリューリンクプランに入っていただける構造になっている」と語っていた。放っておいても値上がりするなら、220円の追加でPontaパスも入手したい——そう考える人は、少なくないはずだ。
もっとも、使い放題MAX+はもともと料金が高い最上位プランで、率で見れば値上げ幅は小さい。割引適用後でも6.7%の値上げにとどまっており、むしろ、端末の買い替えで月額料金が増えることの方が多いほどだ。通信品質やデータ容量、サービスにかかるコストをいとわない層が契約する料金プランのため、すんなり受け入れられそうな印象はある。一方で、その他の料金プランを契約しているユーザーがどう受け止めるかは未知数な部分もある。
例えば、スマホスタートプランやスマホミニプラン+などは、改定後に220円値上げされるが、新たに付くサービスはサブスクぷらすポイントのみ。ルーターやケータイに至っては、単純な値上げになる。auバリューリンクプランや使い放題MAX+の話題性があったため、陰に隠れてしまった感はあるが、これらの料金プランを使うユーザーがauから離れてしまうリスクもあるといえそうだ。
●UQ mobileも料金刷新、背景にあるマルチブランドの位置付け見直し
同様に、KDDIの主力になっているUQ mobileの料金改定も、低中容量で済んでいた比較的ライトなユーザーへの影響が大きくなりそうだ。UQ mobileは、6月3日に新料金プランの「コミコミプランバリュー」と「トクトクプラン2」を新設。現行の「ミニミニプラン」「トクトクプラン」「コミコミプラン+」は、6月2日に新規受付を終了する。
コミコミプランバリューは、コミコミプラン+にPontaパスがセットになった料金プランで、サブスクぷらすポイントも適用されるが、料金は550円上がり、3828円になる。これらの特典を上手に使っていけば、“元を取る”ことはできそうだが、売りだったシンプルさは失われてしまう。ahamo対抗として誕生したコミコミプランだが、その役割を終えつつあるといえる
同様に、データ容量4GBのミニミニプランがなくなり、料金は2本立てになる。トクトクプラン2が、ミニミニプランとトクトクプランの2つを包含できるよう、データ容量の階段が変更されている一方、現行の料金プランで事足りていたユーザーにとっては値上げになる。特に影響が大きいのは、割引適用後に1078円で使えていたミニミニプラン。新料金プランでは、トクトクプラン2で5GB以下だった場合の1628円が最安になる。データ容量は1GB増えるものの、値上げ幅は550円と大きい。
UQ mobileはシンプルさや低中容量での安さを売りにしていたブランドだけに、新規獲得のペースが鈍る可能性もある。また、KDDIはUQ mobileの既存の料金も値上げすることを発表しており、詳細は追って発表される。値上げ後の金額がいくらになるのか次第だが、コストにセンシティブなユーザーが多いブランドなだけに、値上げ幅によっては他社への流出が増えてしまう可能性はありそうだ。
もっとも、KDDIもそれはある程度織り込み済みであることがうかがえる。KDDIの取締役執行役員常務 竹澤浩氏は、「au、UQ、povoの3ブランド戦略を進める上で、auとUQの役割をしっかり整理していこうと思った」と語る。UQ mobileは、「データ容量と利用状況に合わせて選択できるサブスクぷらすポイントを中心に、シンプルな形にした」と述べており、auよりも経済圏との連携は限定的ながら、通信だけのブランドではない形に位置付けを整理し直した格好だ。
竹澤氏のコメントは、低中容量で低価格のブランドを、povo 2.0に集約していく方針だと受け取れる。実際、povo 2.0では3GBのトッピングが990円で提供されており、割引なしでも990円で利用できる。また、30GBトッピング(30日間)は2780円だが、360GBトッピング(1年間)をまとめ買いすれば1カ月あたり2200円まで料金は下がる。オンライン専用ブランドは、店舗運営や端末販売のインセンティブがかからないため、構造的にコストを抑えやすい。
オンラインのahamoに対抗するのは、オンラインのpovo 2.0という方向にかじを切ったといえる。その意味では、povo 2.0に多彩な料金プランがあるからこそ、auやUQ mobileの料金プランを大胆に変更しやすい側面がある。ややあいまいだったブランドごとのすみ分けが、より明確になっていくことは間違いない。auやUQ mobileの新料金プランにフィットしないユーザーを、povo 2.0でどう巻き取っていくのかは今後の課題になっていくかもしれない。