ミニPCに外付けGPUを接続できる! 約1.2万円のOCuLink拡張ドック「DEG1」、MINISFORUM AI X1で試した
2025年5月12日(月)16時0分 ITmedia PC USER
ゲーミングやAIなどで活用したいグラフィックス面の性能については、どうしてもフルタワーといった大きなデスクトップPCと比べて劣ってしまう。
一般的な使い方であればCPUの内蔵グラフィックスで事足りるのだが、せっかくのデスクトップPCとしてPCゲームなどを遊びたいといった欲が出てくると、“フツー”の使い方では窮屈な思いをするものだ。
そんなミニPCの弱点となりうるGPUの性能を力業で向上させられる製品がある。それがeGPUドックだ。今回はミニPCでおなじみのMINISFORUM(ミニスフォーラム)が販売しているeGPUドック「Minisforum DEG1」を手元に用意したので、同社の最新ミニPC「Minisforum AI X1」と接続して、グラフィックス性能の底上げを試してみた。
●Minisforum DEG1に採用されている「OCuLink」とは一体どんなインタフェースなのか
Minisforum DEG1(以下、DEG1)は、GPUとATX電源を搭載できる拡張ドックで、ミニPCと「OCuLink」と呼ばれるコネクターで接続して使う。直販サイトやAmazon.co.jpでは、割り引きクーポンを適用して約1.2万円ほどで購入できる(記事公開時点)。
OCuLinkは「Optical-copper link」(光-銅リンクの略)で、内部のPCI ExpressスロットをPCの外にそのまま取り出したようなインタフェースだ。2015年10月にPCI Express 3.0 x4で動作するVersion 1.0がリリースされた。
記事執筆段階で最新版となるVersion 2.0では、PCI Express 4.0 x4をサポートしており、DEG1も対応している。
OCuLinkの帯域幅は最大64Gbpsで、帯域幅が40GbpsのThunderbolt 4より約60%高い。よって外部GPUを接続した際のボトルネックが軽減され、パフォーマンスの向上が期待できる。
ただし、OCuLinkはミニPCのNVMe用のM.2スロットの空きを利用する。よって実際の帯域幅は、搭載するM.2スロットのPCI Expressレーン数に依存する。「OCuLinkポートが搭載されているミニPCであれば、例外なくGPUパフォーマンスをフルで発揮できる」というわけではないので注意が必要だ。
さらにThunderbolt 4の場合はホットスワップ(PCの電源を入れたまま抜き差しすること)に対応しているが、OCuLinkは対応していない。PCを起動しながらDEG1を取り外せないという不便さが残る。とはいえ、GPUをホットスワップすることは基本的に無いため、運用上はさほど気にはならないだろう。
●Thunderbolt 5と比べるとOCuLinkはパフォーマンスに劣るが、コストバランスの取れたインタフェース
さて、先ほどOCuLinkとThunderbolt 4を比較した場合は前者にパフォーマンスの優位性が確認できると紹介したが、2023年9月12日に発表されたThunderbolt 5は、最大120Gbpsの帯域幅(80Gbps双方向、最大120GbpsのBandwidth Boostモード)に対応しているため、OCuLinkより高いパフォーマンスが期待できる。
パフォーマンスの面だけでは新しいThunderbolt 5に軍配が上がるが、Thunderbolt 5はOCuLinkと比べて高価なので、パフォーマンスというボトルネックとコストをてんびんにかけると、OCuLinkはまだしばらくeGPUドック用のインタフェースとして活躍するだろうと筆者は考えている。
●DEG1の外観をチェック!
OCuLinkの話はこれくらいにして、DEG1の外観について詳しくチェックしていこう。本体のデザインは非常にシンプルで、上面にはPCI Expressスロットが1基とATX/SFX電源ユニットから電源を供給するための24ピンATXケーブルを接続するコネクターが用意されている。
左側面にはミニPCと接続するためのOCuLinkポートが1つだけと非常にシンプルな構成だ。また、ATX/SFX電源ユニットの両方に対応しているため、それぞれ電源ユニットを固定するためのネジ穴が用意されている。
右側面にはDEG1の電源ボタンが用意されている。DEG1はMinisforum製のミニPCを利用していれば、PCの電源と連動するため基本的に利用しない。
Minisforum製以外のミニPCを利用する場合、PCの電源と連動しない場合があるため、その際はミニPCの電源を入れる前にDEG1の電源ボタンを押して電源を入れた後、10秒ほど待ってから接続先のミニPCの電源を入れる必要がある。
電源ユニットとGPUを搭載すると、以下の写真ような構成となる。今回テストで利用した「Intel Arc A750 Limited Edition」は2スロット厚だが、DEG1は3スロット厚のグラフィックスカードも対応している。
電源ユニットもフルプラグインタイプの製品を利用すれば、ケーブルが乱雑になることもなく、想像以上にコンパクトにまとまるだろう。もしDEG1を購入する場合はプラグインタイプの電源ユニットの購入をおすすめしたい。
外観チェックはこれくらいにして、実際にDEG1を使ってミニPCにGPUを接続し、各種ベンチマークテストから内蔵GPUとのパフォーマンスの差を比較してみよう。
●DEG1でIntel Arc A750を接続したミニPCのパフォーマンスは?
今回はMinisforum AI X1(以下、AI X1)と「Intel Arc A750 Limited Edition」(以下、Intel Arc A750)、さらに筆者の自作マシンを用意した。
これらでAI X1の内蔵グラフィックス(iGPU)と、DEG1を使ってeGPUとして利用した場合のパフォーマンス向上、そしてIntel Arc A750をPCI Express 4.0スロットに直接挿せる自作マシンとの比較でOCuLinkによるボトルネックを計測してみた。
なお、ベンチマークテストは下記の構成で実施しているので、スコアを見るときの参考にしてほしい。
Minisforum AI X1の構成
・CPU:AMD Ryzen 7 260
・内蔵GPU:AMD Radeon 780M
・メモリ:DDR5-5600 32GB
・ストレージ:CT1000P3PSSD8 1TB
・OCuLink用M.2スロット:PCI Express 4.0 x4動作
・外部GPU:Intel Arc A750 Limited Edition
自作PC(ボトルネック参考用)の構成
・CPU:Intel Core i5-12400F
・CPUクーラー:SCYTHE 虎徹 MARK3
・マザーボード:ASUS TUF GAMING H770-PRO Wi-Fi
・メモリ:Corsair CMK64GX5M2B5600C40(64GB)
・グラフィックスカード:Intel Arc A750 Limited Edition
・SSD:WD 1TB Black SN750
・電源ユニット:玄人志向 KRPW-GK650W/90+
3Dmark
まずは3Dグラフィックス性能をテストする「3DMark」の結果を確認していこう。
・Fire Strike(DirectX 11ベース/フルHD描画)
・Radeon 780M:7637ポイント
・Intel Arc A750(DEG1):2万870ポイント
・Intel Arc A750:2万1544ポイント
Fire Strike Extreme(DirectX 11ベース/WQHD描画)
・Radeon 780M:4107ポイント
・Intel Arc A750(DEG1):9842ポイント
・Intel Arc A750:1万3ポイント
Fire Strike Ultra(DirectX 11ベース/4K描画)
・Radeon 780M:2300ポイント
・Intel Arc A750(DEG1):5491ポイント
・Intel Arc A750:5236ポイント
Time Spy(DirectX 12ベース/WQHD描画)
・Radeon 780M:3202ポイント
・Intel Arc A750(DEG1):1万1121ポイント
・Intel Arc A750:1万1747ポイント
Time Spy Extreme(DirectX 12ベース/4K描画)
・Radeon 780M:1501ポイント
・Intel Arc A750(DEG1):5815ポイント
・Intel Arc A750:5599ポイント
Steel Nomad(DirectX 12 feature level 12.0ベース/4K描画)
・Radeon 780M:495ポイント
・Intel Arc A750(DEG1):2452ポイント
・Intel Arc A750:2634ポイント
Speed Way(DirectX 12 Ultraベース/4K描画)
・Radeon 780M:454ポイント
・Intel Arc A750(DEG1):2327ポイント
・Intel Arc A750:2336ポイント
AI X1が搭載するAMD Ryzen 7 260の内蔵GPU「AMD Radeon 780M」は、記事公開段階では内蔵GPUとして最上位に当たるモデルで、内蔵GPUとは思えない高いパフォーマンスを発揮している。
とはいえ、Intel Arc A750のようなデスクトップ向けミドルレンジGPUと比較すると、パフォーマンスの差が顕著に表れる。OCuLinkに対応したミニPCを購入すれば、後に動作が重たいPCゲームをプレイしたくなっても、DEG1とGPUを組み合わせて外部GPUを使えるというわけだ。
また、今回はIntel Arc A750をPCI Express 4.0スロットに直接挿したPCで測定したスコアも参考値として用意したが、DEG1に挿した場合と比較してスコア差は誤差レベルに収まっていることが分かった。
搭載するGPUがミドルレンジモデルで、PCI Express 4.0 x4による動作でもパフォーマンス上限に達していない場合、DEG1を経由してもボトルネックはほぼ発生しなさそうだ。
Cyberpunk 2077
続いてAAAタイトルかつレイトレーシングを使ったベンチマークテストも走らせられる「Cyberpunk 2077」を実行し、AAAタイトルがどれぐらい快適にプレイできるのかを確認してみた。プリセットごとの結果は以下の通りだ。なお、どちらの環境も4Kでベンチマークテストを実行している。
・中
・AMD Radeon 780M:18.28FPS
・Intel Arc A750(DEG1):61.53FPS
ウルトラ
・AMD Radeon 780M:7.25FPS
・Intel Arc A750(DEG1):15.37FPS
レイトレーシング:低
・AMD Radeon 780M:5.29FPS
・Intel Arc A750(DEG1):15.27FPS
レイトレーシング:ウルトラ
・AMD Radeon 780M:4.24FPS
・Intel Arc A750(DEG1):8.83FPS
レイトレーシング:オーバードライブ
・AMD Radeon 780M:1.60FPS
・Intel Arc A750(DEG1):3.33FPS
今回のベンチマークテストではゲーム解像度を4Kに設定し、それぞれベンチマークテストを実施した。AMD Radeon 780Mも思いの外、奮闘しており、4K描画のプリセット中の結果が18.28FPSだったため、解像度を下げれば、ある程度の画質でもゲームプレイできそうだ。
Intel Arc A750をDEG1に接続した結果として、4K描画のプリセット中の結果が61.53FPSだったことを考えると、ミニPCでありながらミドルレンジGPUを搭載したデスクトップPCとほぼ同じパフォーマンスを発揮できるという点はやはり大きい。
モンスターハンターワイルズ
続いて2月に発売された、シリーズ最新作「モンスターハンターワイルズ」のベンチマークテストを実施した。Cyberpunk 2077より要求スペックが高いタイトルなので、AMD Radeon 780Mでは動作困難であることが予測される。
そんな状況でDEG1を介してIntel Arc A750を外部GPUとして利用した場合、モンスターハンターワイルズをプレイできるのか、ベンチマークテストを通して確認してみた。結果は以下の通りだ。なお、今回のテストでは解像度はフルHD、グラフィックプリセットは低、フレーム生成オンで設定している。
・AMD Radeon 780M:7688ポイント(評価:設定変更を推奨します)
・Intel A750(DEG1):1万1850ポイント(評価:問題なくプレイできます)
Cyberpunk 2077のベンチマークテストと同じく、AMD Radeon 780Mでも解像度をフルHD以下か、もしくはグラフィックプリセットを最低に設定すればモンスターハンターワイルズを問題なくプレイできそうな点は正直驚きだ。
●GPU以外でも利用できる
DEG1は商品名に「外付けGPUドック」と記載があるが、GPU以外のPCI Expressを使う拡張カードであれば基本的にいずれも利用可能だ。
今回は試しにIntel Gigabit CT Desktop AdapterをDEG1に挿してみたところ、デバイスマネージャーで正常に認識されたことを確認できた。
PCI Express 4.0 x4で動作するため、Intel X520-DA1のような10GbE NICもフルスペックで利用できる。コストパフォーマンスは悪いが、10Gbps環境も構築できそうだ。
●まとめ
あらかじめ外部GPUを利用する場合は、最初からデスクトップPCを購入するのが一番だが、初期の予算を抑えたい場合やPCの設置スペースが限られている方にとっては、OCuLinkで外部GPUを利用できる点は結構大きいメリットだろう。
もし、ミニPCの購入を検討しているのであれば、Minisforum AI X1のようにOCuLinkを搭載しているPCを購入し、後々外部GPUが必要になった際にDEG1を購入してみるのもいいだろう。なお、AI X1本体のレビューも今後お届け予定だ。