【決算深読み】パナソニックHDが黒字でも1万人リストラの危機感「ゼロベースで構造改革」へ

2025年5月12日(月)15時58分 マイナビニュース


パナソニックホールディングスは、グループ経営改革の取り組みについて説明。2026年度までの2年間で、国内5000人、海外5000人の合計1万人を対象にした人材削減を行うことを発表した。その一方で、2026年度には、調整後営業利益で1500億円以上の収益改善効果(2024年度比)を見込み、6000億円以上への到達を目指す。これにより、2028年度には調整後営業利益で累計3000億円以上の収益改善を目指す方針を改めて強調した。
パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOは、「経営改革により、収益改善を進め、環境変化に強い体質を構築する。今度こそ、2028年度にROEで10%以上、調整後営業利益率で10%以上を必達する」と宣言した。
2024年度を最終年度とする中期計画では、3年累計(2022〜2024年度)の営業キャッシュフローは2兆1837億円となり、目標の2兆円を達成したが、累積営業利益1兆5000億円、ROE10%以上という目標は未達となっている。
「中期計画の大きな未達が、経営改革の発端である。先行して改革を実行している同業他社と比べて、販管費率が5%ほど高い。固定費構造に大きくメスを入れなくては、利益をあげ、そこから再投資し、再び成長に転じるといったことができない。パナソニックグループは、まだまだ低収益である。固定費構造の改革は急を要する」とし、「中期計画未達の経営責任はグループCEOである私にある。10年後、20年後も、これまで以上にお客様や社会へのお役立ちを果たし続けるために、2028年度に向けた経営改革を完遂することが、私自身の経営責任の果たし方である」と述べた。
「忸怩たる」1万人リストラの衝撃、課題事業と成長事業を明確に
今回の発表で目玉となった人員の適正化については、「社員一人あたりの生産性が高い組織へと変革すべく、グループ各社で営業部門、間接部門を中心に、業務効率の徹底的な見直しを行うとともに、必要な組織や人員数を、ゼロベースで再設計した。収益改善が見通せない赤字事業の終息、拠点の統廃合による人員減も見込む。変化が激しい事業環境でも、耐性があるリーンな体質を再構築する。1万人の人員削減は、主に2025年度に実行することになり、国内グループ各社では、早期希望退職プログラムを実施することになる」と説明した上で、「これだけの規模の人員適正化に及ばざるを得ず、雇用に手をつけなくてはならないことは、忸怩たる思いである。この3年間の結果、こうした決断をしなくてはならないことについては申し訳なく思っている。しかし、ここで経営基盤を変えなくては、持続的に成長させることはできない。悩んだ結果、判断した。これを真摯に受け止めて、2025年度は、私の総報酬の40%を返上する」と述べた。
だが、その一方で、「グループ経営改革で進める組織、人員の再設計と、徹底した効率化は一過性のものとせずに、今後も継続的に実施する。環境変化に応じたグループ各社の適正な人員数と固定費を厳格に管理し、人員適正化を常態化させる」とも述べた。
グループ経営改革では、2026年度までに、調整後営業利益ベースで、1220億円の構造改革効果を見込む。そのうち、間接機能やオペレーションの集約および効率化、技術テーマの選択や集中による「本社本部改革」では470億円、分散した営業および間接部門の集約、効率化に加えて、グローバル標準コスト(チャイナコスト)を展開する「家電事業改革」で330億円、赤字事業の撤退や終息、拠点の統廃合、全グループのIT投資の効率化、間接機能の集約や効率化による「事業部門改革」では420億円の効果を想定している。
また、車載電池などの先行投資領域における収益改善、各事業の増販や合理化、価格改定などによる収益改善も見込む。
パナソニックグループでは、2025年2月4日に、グループ経営改革を発表。今回の説明会では、その進捗とともに、この取り組みの位置づけについても改めて触れた。
楠見グループCEOは、「2025年度は、持続可能な成長を果たすための経営改革に集中する1年になる。グループ経営改革をやり切り、経営基盤を作り変えて、企業価値向上を加速させる」と発言した。
基本姿勢としては、「ソリューション領域」を注力分野としており、なかでも、エネルギーソリューションおよびSCMソリューションを成長エンジンに位置づけ、グローバル競争力を持つソリューション事業に注力。グループ全体でシナジー創出する一方、車載用二次電池、材料・プロセス系デバイスなどの「デバイス領域」、家庭用電化製品などの「スマートライフ領域」を収益基盤とする方針を打ち出している。
具体的には、「ソリューション領域」では、成長に向けた投資を進め、それぞれの事業が2桁の調整後営業利益率を恒常的に創出することを目指すほか、「デバイス領域」では高収益事業への絞り込みで、調整後営業利益率で15%以上、「スマートライフ領域」では事業再建によって収益力を獲得し、調整後営業利益率で10%以上を目指す方針を打ち出している。
「パナソニックグループが目指す姿を実現するために、各事業がしっかりと競争力を磨き、収益性を高め、成長に向けて他社より速いスピードで再投資できるようにする。そのためにもグループ経営改革のなかで、固定費の構造改革、収益改善を進めるとともに、事業ポートフォリオマネジメントを加速する」と述べた。
パナソニック株式会社から分社化、家電の聖域にもメス
パナソニックグループでは、家電事業などを担当するパナソニック株式会社を、2025年度中に発展的に解消し、傘下の分社を事業会社化することを発表している。
「2026年1月には、スマートライフ、空質空調・食品流通、エレクトリックワークスのそれぞれの事業会社をバーチャルで発足させた組織体制で運用を開始する。2026年4月には新体制でスタートを切り、2026年度初めには新たな中期戦略を発表する」と述べた。
2025年2月の説明では、産業デバイス事業、メカトロニクス事業、キッチンアプライアンス事業、テレビ事業の4つを課題事業と定義していたが、「各事業への対応策の実行内容が正式に決定した段階で順次伝える」とし、これらの事業の改革について、進捗状況には言及しなかった。だが、産業デバイス事業は2024年度に大きく改善、メカトロニクス事業は2024年度に欧州向けビジネスが縮小、キッチンアプライアンス事業は2024年度下期に改善傾向へと転換。テレビ事業の収益性は厳しいままだが大きな改善が見られているという。
「テレビ事業は、パートナーとの協業も取り入れて、ライトアセット化した。だが、さらなる収益改善の必要があり、パートナーとの協業を一層進化させることを含めて、様々な可能性を検討している。決定していることはないが、スマートライフ領域において、テレビという商材は重要であり、とくに日本、台湾、香港ではその傾向が強い。パナソニックらしい商品を届けながら、サービスを継続する必要性があると認識している」と述べた。
楠見グループCEOは、課題事業に関して、2025年度中には見極めを行い、事業終息や事業譲渡などの手段を取ることを明らかにしている。
なお、楠見グループCEOは、2025年10月に予定している2025年度上期連結業績の発表にあわせて、グループ経営改革の進捗状況を報告する予定を明らかにし、2025年12月には個別事業に関する戦略説明を実施する予定も示した。
2024年度通期決算はほぼ増収増益、今期「トランプ関税」の影響は?
一方、パナソニックホールディングスが発表した2024年度(2024年4月〜2025年3月)連結業績は、売上高が前年比0.5%減の8兆4581億円、営業利益は18.2%増の4264億円、調整後営業利益は19.8%増の4672億円、税引前利益は同14.4%増の4862億円、当期純利益は17.5%減の3662億円となった。
パナソニックホールディングス 執行役員 グループCFOの和仁古 明氏は、「期中に非連結化したオートモーティブを除くと増収増益となる。また、売上高、利益ともに、2月4日の公表値を上回った。インダストリーおよびエナジーでは、生成AI関連が売上高に貢献。コネクトのプロセスオートメーション、アビオニクス、現場ソリューションも売上げ増加に寄与した。純利益では、前年度に計上したパナソニック液晶ディスプレイの解散に伴う一時益の反動などにより減益となった」と総括した。
くらし事業は、売上高は前年比4%増の3兆5842億円、調整後営業利益は24億円増の1362億円。くらし事業のうち、くらしアプライアンス社の売上高は前年比1%増の8747億円、調整後営業利益は1億円増の482億円。空質空調社の売上高は前年比12%増の9102億円、調整後営業利益は9億円増の156億円。コールドチェーンソリューションズ社の売上高は前年比3%増の4084億円、調整後営業利益は2億円減の201億円。エレクトリックワークス社の売上高は前年比3%増の1兆715億円、調整後営業利益は63億円増の767億円。なお、中国・北東アジア社の売上高は同2%増の7459億円、調整後営業利益は49億円減の306億円となっている。
コネクトの売上高は前年比11%増の1兆3322億円、調整後営業利益は378億円増の814億円。インダストリーの売上高は前年比4%増の1兆836億円、調整後営業利益は231億円増の543億円。エナジーの売上高は前年比5%減の8732億円、調整後営業利益が281億円増の1227億円となった。
2025年度(2025年4月〜2026年3月)連結業績見通しは、売上高は前年比7.8%減の7兆8000億円、営業利益は同13.2%減の3700億円、調整後営業利益は同7.0%増の5000億円、税引前利益は同15.7%減の4100億円、当期純利益は15.3%減の3100億円と、減収減益の計画とした。
「オートモーティブを除くと、売上高は増収、調整後営業利益は増益となる。その一方で、営業利益と純利益には、構造改革費用として1300億円を織り込んでいる」という。
1300億円の構造改革費用では、人員適正化、拠点統廃合、間接機能の集約および効率化を図る。構造改革費用のセグメント別内訳は、くらし事業が620億円、コネクトが20億円、インダストリーが160億円、パナソニックホーディングスおよびパナソニックオペレーショナルエクセレンスを含むその他が500億円を想定しており、「各セグメントの構造改革費用の大きさと、人員削減の規模はほぼ比例している」と述べた。
また、トランプ関税の影響については、「2025年度業績見通しには織り込んでいない。今後の動向を見極める必要がある」としたものの、「2024年度実績で米国での売上高は1兆5700億円となるが、北米での現地生産機能を一定程度有しており、調整後営業利益への最終的な関税影響は、グループ連結売上高の1%未満の780億円程度になる。追加関税に関するコストアップは、原則、価格改定で対応することを検討しており、サプライチェーンの最適化についても、短期・中長期の観点で対策を講じ、影響額の最小化を図る」と述べた。
セグメント別見通しは、くらし事業は、売上高が前年比1%減の3兆5350億円、調整後営業利益は395億円増の1760億円。くらし事業のうち、くらしアプライアンス社の売上高は前年並みの8850億円、調整後営業利益は79億円増の570億円。空質空調社の売上高は前年比1%減の8930億円、調整後営業利益は188億円増の350億円。コールドチェーンソリューションズ社の売上高は前年比3%増の4200億円、調整後営業利益は29億円増の230億円。エレクトリックワークス社の売上高は前年比1%増の1兆870億円、調整後営業利益は23億円増の790億円。とした。
コネクトの売上高は前年比9%減の1兆2000億円、調整後営業利益は37億円減の770億円。インダストリーの売上高は前年比3%減の1兆500億円、調整後営業利益は267億円増の810億円。エナジーの売上高は前年比19%増の1兆390億円、調整後営業利益が453億円増の1680億円としている。

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