航空機の技術とメカニズムの裏側 第171回 飛行機とお天気(5)霧と雲の巻 - ブルーインパルスの演目にも影響?

5月14日(火)9時0分 マイナビニュース

第117回で、着陸進入支援手段の話を取り上げた時に、計器着陸システム(ILS : Instrument Landing System)のカテゴリーに言及した。その際、カテゴリーを規定する条件として「決断高度(DH : Decision Height)」と「視程(水平方向に見渡せる距離)」がある、という話も書いた。

○視程を悪化させる原因

いうまでもなく、視程が最も良いのは晴天の日中である。しかしこれも場合によりけりで、スッキリと遠くまで見通せるのは夏よりも冬、というのが、首都圏に住んでいる人の実感だろう。

例えば、天気がよい日に羽田空港の第1ターミナルに行くと、富士山がきれいに見える日がある。同じ晴天の日中でも、夏期のほうがスッキリしないことが多いように思える。それでも、一応は遠くまで見通せる。

夜間は昼間と比べると見づらくなるが、そのために飛行場灯火というものがある

。夜間でも晴れていれば、飛行場の灯火を参考にしてタキシングや離着陸ができる。

ところが、昼間でも状況次第では遠くまで見通せなくなってくる。雨、雪、霧といった気象条件に遭遇した場合がそれ。なにも飛行機に限らず、高速道路だって、極端に濃い霧に見舞われると通行止になることがある。

遠くまで見通せないということは、言葉を換えると視程が短いということである。視程が短いということは、ごく近くの状況しか視認できないということだから、いわば「五里霧中」。見えていないところにある危険要因に気付くのは難しい。

視程の良し悪しに関連する話として、雲底(シーリング)がどれぐらいまで下がってきているか、も挙げられる。雲底が十分に高ければ、雲の下に出て視界がいくらか良くなった状態で着陸する、といったことになるが、雲底が低いと話は別。地面のすぐ近くまで降りても雲の中だったら、安全な着陸は難しい。滑走路を視認(“runway insight” とコールする)できないのに、闇雲に突っ込んだら危ない。

それらは結果として、山や地面との意図せざる接触、というような事態につながる。それを避けるために、視程が悪化すると飛行機を飛ばすのを止める。その閾値をできるだけ低くして、飛ばせる場面を増やそうとすると、ILSみたいな仕掛けが必要になる。

雲が絡む視程悪化は、普通に旅客機に乗っていても体感できる。曇りや雨や雪の日の離着陸では、上昇・降下の際に雲の中を通過するから、その際には窓の外は真っ白、何も見えなくなってしまう。

○離着陸時に限った話ではない

地面に近いところを飛ぶ場面が多い離着陸時には、飛行場とその周囲の視程が問題になる。しかし、それ以外の場面でも視程が問題になることがある。

例えば、戦闘機が編隊飛行を行う場合。僚機は長機を目視しながら相対的な位置関係を調節して、適切なポジションを維持している。すると、視程が悪化して長機を視認できなくなれば、編隊も組めなくなる。そのまま近接して飛び続けたら空中接触・空中衝突の危険性があるから、編隊を解くか、十分な距離をとらないと危ない。

編隊飛行というとアクロバット・チームにもつきものだが、これも事情は同じ。十分に良好な視程が確保できなければ、アクロバット・チームの展示飛行は中止になる。もっとも、視程不良の条件下で飛んでくれたところで、地上から見えないから展示飛行の意味がなくなってしまうけれど。

航空自衛隊のブルーインパルスの場合、視程とシーリングを条件にして複数の「区分」を設けており、条件が悪くなると、課目の内容に関する制約がきつくなる。例えば、上昇・下降を伴う垂直系の課目をやらなくなる。

それはよくよく考えれば当然のこと。近接した編隊を組んで上昇している最中に雲の中に突っ込んだら危ないし、地面に向けて降下している時なら、なおのこと。高度変化を伴わない水平系の課目だけでもできれば、ということで複数の区分が設けてあるのだろう。

ただし、「もう安全に飛べないレベルです」というところまで雲底が下がったり視程が悪化したりすると、地上滑走だけになってしまう。

戦闘機同士がいわゆるドッグファイト、つまり近接格闘戦を行うとか、近接格闘戦のための訓練をするとかいう場面でも、視程が悪いと空中接触・空中衝突の危険性がある。だから「雲の中では格闘戦の訓練はしません」という話になる。
○視程を調べる方法

では、その大事な視程をどうやって調べるか。測定結果が間違っていて、実際にはもっと視程がいいのに「視程が悪いので空港を閉鎖」となったのではありがたくないが、逆になれば危ない。精確に測定したいところである。

そこで登場するのが視程計。直達式は、投光器と受光器を離して設置して、投光器から受光器に向けてレーザー・ビームを発信する。飛行場の視程では数百メートル単位の値が問題になるから、あまり近いと仕事にならない。飛行場みたいに広い敷地がある場所でないと使いづらい。

視程計には2種類の方式があるが、いずれも、発信したレーザー・ビームが、大気中の雨や霧など視程を妨げる要素に当たって発生した散乱を測定する仕組みになっている。雨や霧が多いほど散乱が増えるという理屈による。

直達式の場合、投光器と受光器を向かい合わせに設置する。雨や霧など視程を妨げる要素が多いと、その分だけ散乱が増えて、受光器に入るレーザー・ビームが少なくなる。その減衰の度合を調べて視程の値に換算する。

もう1つが散乱式。こちらも投光器からレーザー・ビームを発信するが、受光器の位置が違う。前方散乱式では投光器の斜め前方、後方散乱式では投光器の斜め後方に設置する(投光器の真正面に設置すると直達式になってしまう)。そして、「散乱が発生すると受光器にビームが入る。そのビームが少ないほど散乱が少ない = 視程が良い」となる。

余談だが、新幹線の降雪検知装置でも似たような仕掛けを使っている。投光器と受光器を向かい合わせに設置して、受光器に入る光が減るほど「雪がバンバン降っている」と判断する仕組みである。ただしこちらは、投光器と受光器の間隔はごく近い。

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。

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