佐野正弘のケータイ業界情報局 第127回 ROG PhoneとXperia 1、せっかくの個性を弱めてまで“普通”に寄せたのはなぜ?

2024年5月15日(水)16時10分 マイナビニュース

2024年5月15日、エイスーステック・コンピューター(ASUS)がゲーミングスマートフォン「ROG Phone 8」シリーズ2機種、そしてソニーが「Xperia 1 VI」の発売を発表しました。特徴的な機能・性能を持つこれらのシリーズですが、いずれも従来の特徴を大きく覆してスタンダードなスマートフォンに近づけることに重点を置いていることが、ファンの物議を醸すことになりそうです。なぜ、このような変化が起きているのでしょうか。
ゲーミングに加え日常使いもアピールする「ROG Phone 8」
5月に入ってから、各社からスマートフォン新機種の発表が相次いでいますが、5月15日には2社が相次いで、日本市場に向けたスマートフォン新機種を発表しています。
その1つはASUSであり、今回発表されたのはゲーミングスマートフォンの新機種「ROG Phone 8」シリーズ3機種「ROG Phone 8」「ROG Phone 8 Pro」「ROG Phone 8 Pro Edition」です。ROG Phoneシリーズは、ゲーミングに特化した機能・性能を備えたスマートフォンとして知られており、もちろんROG Phone 8シリーズもその例に漏れません。
実際、ROG Phone 8シリーズは、チップセットに米クアルコム製のハイエンド向けとなる最新の「Snapdragon 8 Gen 3」を搭載するほか、RAMも最上位のROG Phone 8 Pro Editionでは24GBと、スマートフォンとしては最大級の容量を誇ります。加えて、横にした状態で上側面の左右をゲームプレイ用のボタンとして使える「Air Trigger」など、ゲーミングに関する機能面での充実も図っています。
ただ、ASUS側の説明を聞くと、従来のROG Phoneシリーズとは大きく変わっている部分があるようです。それはゲーミング用途だけでなく、日常使いのスマートフォンとしてもそん色なく使えることに重点を置いていることです。
その象徴的な要素の1つが本体デザイン。従来のROG Phoneシリーズは、ゲーミング需要を強く意識した派手なデザインで、背面が光る「Auraライト」がそれを象徴していたのですが、ROG Phone 8シリーズではゲーミング需要を意識しながらも、全体的に派手さを抑えたデザインに変更されています。
背面が光る仕組み自体は備わっているものの、「ROG」シリーズのロゴが光るROG Phone 8のAuraライトはサイズがやや小さくなるなど、派手な印象が抑えられています。さらにROG Phone 8 ProとROG Phone 8 Pro Editionは、Auraライトに代わってドット調のLEDによるアニメーション表示が可能な「AniMe Vision」が搭載されており、非表示時はLED部分が目立たないデザインとなるなど、より派手さを抑えたものとなっています。
そしてもう1つ、大きく変わったのがカメラです。ゲーミングスマートフォンは、用途的にカメラをあまり重視しない傾向にあるのですが、ROG Phone 8シリーズはカメラ性能を強化。広角カメラでは新たに、同社の「Zenfone」シリーズでここ最近搭載されている、6軸ジンバルを搭載するなど、手ブレに非常に強く撮影のしやすさに重点を置くようになったことが分かります。
4Kではなくなった「Xperia 1 VI」のディスプレイ
ゲーミングに重きを置いたスマートフォンが日常使いに適していることをアピールすることには違和感もあり、物議を醸しそうなところではありますが、より一層物議を醸しそうなのが、ROG Phone 8シリーズと同日に発表されたソニーの新しいフラッグシップスマートフォン「Xperia 1 VI」です。
ソニーの「Xperia 1」シリーズといえば、最新のイメージセンサーを搭載するなど非常に高い性能を誇るカメラと、ソニーの強みを生かした高いオーディオ・ビジュアル性能を備えたスマートフォンで、21:9比率の4Kディスプレイを備えた縦長のデザインが特徴とされてきました。
ですが、今回のXperia 1 VIでは望遠カメラの焦点距離を85〜170mmにまで伸ばすなど、カメラ性能に力を入れている点は変わっていないのですが、ディスプレイが大きく変わっており、新たに19.5:9比率で解像度がFHD+の6.5インチ有機ELディスプレイを採用したのです。解像度が4Kから引き下げられたのに加え、比率が変わったことから実際に手にした時のサイズ感も一般的なスマートフォンと変わりなく、ある意味Xperia 1シリーズらしくない印象も受けます。
“らしさ”を失ってまでディスプレイを大幅に変更した理由について、ソニーの関係者は1つにバッテリーの持続時間を挙げています。新しいディスプレイは4Kより解像度が低いだけでなく、リフレッシュレートが用途に応じて1〜120Hzまで可変する仕組みも備わっていることから、バッテリーサイズは前機種「Xperia 1 V」と同じ5,000mAhながら、同社の調べではバッテリーが2日持続するなど、大幅な改善が進んでいるといいます。
そしてもう1つ、動画コンテンツ自体の変化も理由として挙げています。Xperia 1シリーズが21:9比率の4Kディスプレイを採用したのは、スマートフォンを横にして本格的な映画視聴体験を得たり、「Cinematography Pro」で映画のプロに近い撮影体験を実現したりするなど、映画コンテンツに重点を置いていたが故といえます。
ですが現在、エンタテインメントの軸が映画やテレビからスマートフォンに移りつつあり、16:9比率やFHD画質、縦画面など、スマートフォン上で快適に視聴できることが重視されるようになってきました。それに伴い、映像を作成するクリエイターの側も、スマートフォンの画面で最適に視聴できることを重視するようになったことから、そうしたニーズに対応するうえでもディスプレイを変える必要があったのだそうです。
ROG Phone 8シリーズとXperia 1シリーズはともに、非常に強い個性と特徴を持ったスマートフォンシリーズだったのですが、一連の動きからはそうした特徴を変えてでも、日常使いに適したデザインやバッテリーの持ちなど、より多くの消費者が関心を持つ部分に力を入れようとしている様子がうかがえます。その狙いはやはり、スマートフォンの販売が非常に厳しいが故に、テコ入れが必要と判断したからこそでしょう。
日本のスマートフォン市場は、円安や政府の値引き規制で非常に厳しい状況にあります。世界的に見ても、新興国にまで広がってきた市場飽和でスマートフォンの販売は伸び悩んでいます。ソニーやASUSは事業規模を縮小して以降、規模を追わずターゲットを絞ったニッチ狙いの戦略に重点を置いてきましたが、両社が力を入れる高価格のハイエンドモデルで、なおかつターゲットを絞ったスマートフォンは買い替えサイクルも長くなりがちなので、一層売れにくくなってきていると考えられます。
それだけに両社は、スマートフォンの事業を継続するためにも、普遍的な要素を取り入れてターゲットを広げ、販売を拡大する必要に迫られたのではないかと考えられます。ですが、そのことは従来培ってきたファンが離れることにもつながりかねず、企業としても難しい判断があったといえそうです。それだけに今回の判断が、両社の今後の事業継続にどう影響してくるのか非常に気になるところです。
佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら

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