阪大など、原始星の成長に迫る大規模3次元シミュレーションに成功
2025年5月15日(木)18時50分 マイナビニュース
大阪大学(阪大)、京都大学、東北大学、武蔵野美術大学の4者は5月14日、原始星の内部構造、周囲のガス円盤、および磁場の影響も考慮した大規模3次元シミュレーションに成功したことを共同で発表した。
同成果は、阪大大学院 理学研究科の髙棹真介助教(現・武蔵野美術大 准教授)、京大の細川隆史准教授、東北大の富田賢吾准教授、国立天文台の岩﨑一成助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
星は、宇宙に漂うガスが重力によって集まり圧縮されて誕生する。原始星は、周囲のガスが円盤状に広がった「原始惑星系円盤」からガスを取り込みながら成長するが、原始星と円盤の境界領域で何が起きているのかについては、まだ不明な点も多いという。
円盤のガスには回転による遠心力が生じるため、原始星には容易に落下しないことから、ガスの回転を弱める働きが必要になる。その働きを担うのが磁場で、十分に電離したガスに対してゴム紐のように振る舞い、回転するガスにまとわりついて減速させて落下を促す。そうした中でこれまで、円盤内に乱流的な磁場を作る「磁気回転不安定性」というメカニズムが広く注目されてきた。ところが、原始星とガス円盤の境界領域では、ガスの速度構造の影響でこのメカニズムが働かないとされ、別のメカニズムの解明が求められていた。
そこで研究チームは今回、原始星の磁場の役割に注目。原始星は太陽よりもはるかに強い磁場を持つと予想されており、その磁場がガス円盤との境界でガスの回転を減速させる可能性が推測されていたという。強い磁場を持つ原始星とガス円盤のつながりを調べるにはシミュレーションが不可欠で、物理的な性質が大きく異なる両者を1つのモデルに含める必要があるのだが、ガスの密度や磁場の強さなど、物理的性質が急激に変化する状況での計算は非常に難しいため、これまで詳しいシミュレーションは実現していなかったとのこと。そこで今回の研究では、阪大 D3センターの「SQUID」と、国立天文台 天文シミュレーションプロジェクトの「アテルイII」(後継機の「アテルイIII」が2024年12月に稼働)という2台のスーパーコンピュータを用い、太陽型星の原始星を対象とした大規模シミュレーションに挑戦したとする。
このシミュレーションではまず、原始星が円盤から取り込んだ磁場を蓄えるだけでなく、太陽と同様にガス内部の対流運動によって磁場を増幅し、強い磁場をまとっているダイナミックな姿が明らかにされた。強い磁場を持つ原始星では、太陽フレアのような爆発現象が頻繁に発生し、円盤との境界からはジェットが噴き出していることも確認された。つまり、原始星のガスの取り込みが、これまで想像されていた以上に激しいことが示されたのである。
次に、原始星と円盤の境界領域でのガスの落下メカニズムが調べられた。その結果、ガスの落下は単一のメカニズムだけでなく、複数のメカニズムが組み合わさって起きていることが判明。中でも重要な発見として、星の表面から伸びる複数のスパイラル状の衝撃波が挙げられ、この衝撃波が円盤ガスの回転を減速させ、遠心力と重力のバランスを崩し、激しいガスの落下を引き起こしていることがわかったとした。
さらに、この衝撃波の発生源を詳細に調べたところ、原始星の強い磁場が鍵となっていることがわかったという。原始星の内部では、太陽と同様にガスが対流しており、そのような原始星が磁場を含んだ円盤ガスを取り込むと、磁場も引き込まれ、星の表面に太陽黒点のような強い磁場領域が形成される。その強い磁場領域が、衝撃波の発生源となっていたのである。
原始星の磁場は、超高速で回転する円盤ガスにとって障害物のような役割を果たしており、ガスが磁場に衝突すると、強く圧縮されて衝撃波が発生する。これまでの研究でもスパイラル状の衝撃波の存在は予測されていたが、原始星の磁場の影響は考慮されておらず、衝撃波の強さもそれほど大きくないと考えられていたが、今回の研究により、従来の理解を覆す結果が導き出されたのである。
加えて、原始星と円盤の境界から噴き出すジェットが、円盤ガスの角運動量(回転の勢い)を外に運び出す様子も確認されたとのこと。角運動量を失ったガスは回転が遅くなり、より原始星へと落ち込みやすくなる。このように、円盤の赤道面だけでなく、回転軸方向に現れる構造も、ガスの落下を促進する上で重要であることがわかった。
研究チームによると、今回のシミュレーションモデルは最先端のものであるものの、まだ改良の余地があるという。今回のシナリオも、現時点では1つの仮説に過ぎないが、原始星とガス円盤のダイナミックな連携が解明された今回の成果は、星の誕生と太陽系の成り立ちをつなぐ新しい道筋を照らすものとして、大きな意義を持つとしている。