自動で最適なサウンドに、ソニー「WH-1000XM6」はシンプルに最高音質が楽しめるヘッドホンだった
2025年5月16日(金)19時0分 マイナビニュース
ソニーが、ワイヤレスヘッドホンのフラグシップ「WH-1000XM6」(マークシックス)を5月30日に発売します。約3年ぶりにアップデートされるシリーズの第6世代モデルを速報レポートします。
自動でベストなリスニング環境を整えてくれるヘッドホン
最近は、若いユーザーを中心にヘッドホンファンが再び増えています。数年前は、圧倒的に左右独立型のワイヤレスイヤホンが優勢でしたが、ヘッドホンの方が個性を主張できるファッションアイテムとして徐々に脚光を浴びてきました。落として紛失する心配が少ないポータブルオーディオとしても注目されているようです。
若いヘッドホンファンの間では、とりわけアップルの「AirPods Max」が支持を集めています。AirPods Maxには複数のカラバリがあり、デザインされたサードパーティの専用カバーなど、カスタマイゼーションが楽しめるアイテムも数多く見つかります。日本では、特にiPhoneユーザーが多いことから、AirPodsシリーズは機能面での親和性も高いオーディオとして好まれるのでしょう。
ただ、AirPods Maxは2025年5月現在、Apple Storeでは84,800円で販売されている高額なヘッドホンです。筆者は、まわりから「もう少し手ごろな価格で、AirPods Maxに負けないほど魅力的なワイヤレスヘッドホンがほしい」と相談を受けた時には、ソニーの1000Xシリーズをおすすめ候補のひとつとして紹介してきました。
今回登場したWH-1000XM6の魅力をひとことで言えば「全部おまかせで極上のリスニング体験が楽しめるワイヤレスヘッドホン」です。ソニーの1000Xシリーズは、ヘッドホン・イヤホンともに「ものすごく多機能」というイメージが広く浸透しています。実際、そこが特徴であるとも言えるのですが、ワイヤレスヘッドホンの入門機としては“とっつきにくさ”を与えかねません。
本当のところ、WH-1000XM6は操作や設定がとてもシンプルなワイヤレスヘッドホンです。AirPods Maxと同じように、サウンドのバランスやノイズキャンセリングの消音効果をヘッドホンが自動で最適化してくれる機能を満載しているからです。アップル流の言葉づかいをすれば、ソニーのWH-1000XM6も「コンピュテーショナルオーディオ」が得意なヘッドホンなのです。
WH-1000XM6は、ユーザーの使い方をヘッドホンが学習して、ノイズキャンセリングや外音取り込みの設定を最適なタイミングで切り替える「アダプティブサウンドコントロール」という代表的なコンピュテーショナルオーディオの機能があります。ヘッドホンを身に着けているユーザーの行動シーンを「止まっている」「歩いている」など4つのパターンから解析して、ノイズキャンセリングと外音取り込みのバランスを最適化します。
このアダプティブサウンドコントロールを含むさまざまな機能は、ソニーのモバイルアプリ「Sound Connect」から好みに合わせて設定が選べます。「掘ればものすごく多機能」な1000Xシリーズですが、いきなりすべての機能を使いこなす必要はありません。慣れてきたころに、ひとつずつゆっくりとマスターしていけば良いのです。高価なワイヤレスヘッドホンですが、アップデートにより追加されるものも含めて、たくさんの機能を“我がもの”にしたころにはしっかりと元が取れているはずです。
消音バランスが一段と向上したノイズキャンセリング
サウンドとノイズキャンセリングについて、筆者がWH-1000XM6の実機を試して感じたファーストインプレッションをレポートします。それぞれの進化を検証するために、前機種のWH-1000XM5も用意しました。
はじめに、ノイズキャンセリングの実力を比べてみます。
WH-1000XM6には、内蔵するセンサーなどのハードウェアと機械学習のアルゴリズムを制御しながら、高度な音声信号処理などを行う統合プロセッサー「V2」が搭載されています。このチップとは別に、ノイズキャンセリングと外音取り込み処理のための専用プロセッサー「QN3」もあります。どちらも、ソニーが独自に設計・開発したチップセットです。WH-1000XM5は、前世代の統合プロセッサー「V1」とノイキャン用プロセッサー「QN1」の組み合わせでした。
まずはヘッドホンの電源を入れて、サウンドを再生しないままノイズキャンセリングの効果を聴き比べてみます。アプリからアダプティブサウンドコントロールはオフにしています。
新しいマーク6は、人の声が含まれる中音域から高音域にかけて消音効果が向上しています。全体に、マーク5よりもバランスよく消音される印象を受けました。よりシビアに比較すると、マーク5の方がノイズキャンセリングをオンにした時の圧迫感がわずかに強い感触もあります。マーク6は、すべての音域に対して均等に消音効果がかかるため、オン・オフを切り替えた時の不自然さがないのかもしれません。
外音取り込みの機能は、新旧モデルの差がより明らかでした。マーク6の方が環境音がよりクリアに聞こえます。内蔵マイクの性能も向上した手応えがあります。なお、外音取り込みはアプリから20段階でレベル調整ができます。筆者は、この機能を使う場面では環境音にしっかりと注意を向けたいので、レベルを変えずに使うことが多いです。
今までの限界を超える高音質
続いて、サウンドの傾向を聴き比べました。そもそも、ソニーの1000Xシリーズは他社による同価格帯のライバルに比べて、繊細なディティールの再現性能に優れていると筆者は思います。マーク5では、その傾向が顕著でした。マーク6ではそのキャラクターを残しながら、音の力強さと鮮やかさが増しています。
例えば、米津玄師の楽曲『Plazma』を課題曲として再生してみると、マーク6ではボーカルの切れ味はさらに鋭く、ベースやドラムスの低音は肉付きが豊かさを増しています。ビートも粘り強くしなやかに描きます。生演奏のように活き活きとした音楽を聴かせてくれるヘッドホンです。
マーク6では、ソニーが独自に設計した最新のダイナミック型ドライバーを搭載し、中高音域の伸びやかさに磨きをかけています。上原ひろみ feat. Sonic wonderのアルバム「OUT THERE」から『XYZ』を聴き、ピアノやトランペットの煌びやかな音色に触れると、マーク6の成長ぶりがよく分かると思います。
ソニーの1000Xシリーズは、多彩なオーディオリスニング機能を搭載するワイヤレスヘッドホンです。Bluetoothオーディオの高音質コーデックであるLDACに対応するほか、オリジナルがハイレゾではない音源も最大96kHz/24bitまで拡張するDSEE Extremeという高音質化技術を搭載しています。LDACに対応していないiPhoneやiPadでも、マーク6との組み合わせであればDSEE Extremeを効かせればハイレゾ級のサウンドが楽しめます。
今年の春に、最新世代のAirPods MaxがUSB-Cケーブルによる有線リスニングに対応しました。WH-1000XM6は、商品パッケージに付属する3.5mmヘッドホンケーブルによる有線リスニングに対応していますが、USBケーブルでスマホやタブレットには直結ができません。3.5mmオーディオ出力があるソニーXperiaシリーズに合わせた仕様なのかもしれません。3.5mmプラグからUSBに変換するアダプターを揃える手間を考えると、iPhoneユーザーはワイヤレス再生が基本のスタイルになりそうです。
実用性にも富んだデザイン
最後にふだん使いをするワイヤレスヘッドホンとして、WH-1000XM6が魅力的なポイントを2つ紹介します。ひとつは「デザイン」。外観はAirPods Maxのように派手ではないものの、WH-1000XM6のデザインは実用性に富んでいるので、使い込むほどに馴染む手応えがあります。例えば、本体をコンパクトに折りたためるコラプシブル構造が、WH-1000XM4以来久しぶりに復活しました。専用ケースには、ジッパーによる開閉が不要なマグネットバックルを採用。ケースから素速く取り出せます。
もうひとつは、組み合わせるデバイスを選ばない「汎用性の高さ」を備えていることです。WH-1000XM6は、最大2台のデバイスと同時にBluetooth接続ができるマルチポイント機能を備えています。AirPods Maxは、iPhoneからiPad、MacなどユーザーのiCloudアカウントでサインインしているアップルのデバイス間でシームレスな自動切り替えに対応しています。ところが、iPhoneからWindows PCのように、異なるデバイスのプラットフォーム間での切り替えは、ソニーの1000Xシリーズほどスムーズではありません。ユーザーが使う環境、組み合わせるデバイスを問わず、常にベストなリスニング体験が得られるワイヤレスヘッドホンとしてWH-1000XM6をおすすめします。
ソニーの新しいWH-1000XM6も高価なワイヤレスヘッドホンですが、音質やノイズキャンセリングの性能はトップクラスです。価格はオープンですが、5月16日からオンラインのソニーストアでは59,400円で予約販売を開始しました。WH-1000XM5は、同日のソニーストアの販売価格が56,100円なので、3,300円ほど値上がりした格好ですが、数々の進化を考えれば納得の価格だと思います。いまワイヤレスヘッドホンの購入を検討している方は、AirPods Maxやほかのライバルと本機を入念に比較検討してみてください。
著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。 この著者の記事一覧はこちら