ハイエンドスマホ「POCO F6 Pro」が6万9980円からの衝撃 “オンライン特化販売”は日本で根付くか

2024年5月25日(土)6時5分 ITmedia Mobile

激安ハイエンドモデルとして登場したPOCO F6 Pro。グローバルと同日に、日本での展開も発表された

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 Xiaomiは、サブブランド的に展開しているPOCOの新モデル「POCO F6 Pro」を5月23日に海外で発表した。グローバル発表と同時に、日本での展開も明かされ、その価格も公表された。POCO F6 Proは、いわゆる「N-1」と呼ばれる1年前のプロセッサを搭載したハイエンドモデルで、処理能力などの性能は高い一方で価格は6万9980円(税込み、以下同)からに抑えている。円安の為替相場が続く中、ハイエンドモデルでわずかながら7万円を下回る価格は破格の安さと言っていいだろう。
 日本では、2022年に「POCO F4 GT」を発売したXiaomiだが、2023年は後継の投入を見送っていた。一方で、そのコストパフォーマンスの高さから発売を望む声は多く、晴れてPOCO F6 ProでPOCOブランドが復活する形になった。POCOは、オンラインでの販売を重視したブランドでXiaomiとのすみ分けを図っている。とはいえ、日本ではまだまだECでスマホを購入する割合が低い。こうした壁を、Xiaomiはどう打破していくのか。その戦略を解説していく。
●ゲーミングの要素は抑えつつも、ハイエンドスマホに迫る完成度
 側面にポップアップで出現するキーを備えるなど、“ゲーミングスマホ”要素の強かったPOCO F4 GTだが、新たに発売するPOCO F6 Proは、冷却機構やソフトウェアに要素を残しつつも、よりスタンダードなスマホとして仕上げられている。プロセッサにはハイエンドモデル向けの「Snapdragon 8 Gen 2」を採用。ディスプレイも1440×3200ピクセルと高解像度な有機ELで、1Hzから120Hzにリフレッシュレートが可変する機能も盛り込まれている。
 カメラは、Xiaomiの独自設計を入れた「Light Fusion 800イメージセンサー」を搭載しており、同社がこれまで培ってきた画像処理技術を実現する「Xiaomi Imaging Engine」も内蔵する。Snapdragon 8 Gen 2の高い処理能力を生かし、AIもフル活用している。Pixelシリーズでおなじみの「消しゴムマジック」に近い、被写体の写り込みを消すことが可能な「AI Magic Erase Pro」に対応している他、周囲を描き足すことで写真を拡大できる「AI Expansion」も利用できる。
 Xiaomiといえば、ソフトバンクとタッグを組んでアピールした充電技術も有名だが、POCO F6 Proも、最大120WのHyperChargeに対応する。専用の充電器は必要になるが、バッテリー切れの状態から、わずか19分で100%まで充電できるスピードは驚異的だ。その一方で、バッテリー寿命を延ばしたり、充電時の安全性を高めたりする機能も搭載されている。こうした充電をつかさどる「smart charging engine」を搭載しているのも、POCO F6 Proの特徴だ。
 プロセッサこそ、2023年のフラグシップモデル向けのSnapdragon 8 Gen 2で、最新モデルに搭載される「Snapdragon 8 Gen 3」よりやや性能は劣るものの、それでもここ数カ月の間に発売されたミッドレンジモデルより、パフォーマンスは高い。AnTuTuベンチーマークでのスコアは160万点を超えており、使用感に関しては、ハイエンドモデルに勝るとも劣らない。
【訂正:2024年5月25日10時10分 初出時、AnTuTuベンチマークのスコアに誤りがありました。おわびして訂正いたします。】
 にもかかわらず、POCO F6 Proは6万9980円からと安い。POCO F6 Proが属するPOCOブランドの最上位ラインは「フラグシップキラー」をキャッチフレーズにしているが、まさにフラグシップモデルの市場を破壊しかねない価格設定だ。実際に触ってみると端末の質感は高く、チープさは感じられない。月面をイメージしたという背面の模様はやや人を選ぶ印象も受けたが、端末の完成度は高いといえる。
●販路の違いでコストダウンや他モデルとの差別化を図る 日本では楽天やAmazonに特化
 とはいえ、フラグシップキラーの牙は自身にも向かってしまいかねない。Xiaomiの「Xiaomi 14 Ultra」のようなフラグシップモデルにはSnapdragon 8 Gen 3のような最新のプロセッサが採用され、カメラもライカとコラボレーションしているなど差別化は図られているものの、価格はPOCO F6 Proの2倍以上。同じ予算を用意すれば、POCO F6 Proが2台買えてお釣りまできてしまう。同社のミッドレンジモデルである「Redmi Note 13 Pro+ 5G」などとも競合しかねない。
 では、XiaomiはどこでPOCOシリーズの差別化を図っているのか。1つには、その端末の性能がある。確かにプロセッサはフラグシップモデルに採用されるSnapdragon 8 Gen 2だが、カメラは広角カメラが800万画素で、もう1つは200万画素のマクロカメラ。メインカメラとの差が大きく、フラグシップモデルに搭載されるような望遠カメラには非対応だ。
 また、5Gの対応バンドやセンサーの種類なども、フラグシップモデルのXiaomi 14 Ultraと比べるとやや少ない。ドコモが5Gのメインバンドとして活用している「n79」に非対応なため、接続性にも違いが出てしまう可能性もある。当然ながら、Redmi Note 13 Pro+ 5Gが搭載していたFeliCaにも非対応で、おサイフケータイは利用できない。こうした細かな部分では、しっかりコストダウンが図られている。
 それ以上に大きいのが、販路の違いだ。POCO F6 Proを取り扱っているのは、Xiaomi Japanの公式オンラインストアと、楽天市場、Amazonのみ。オンラインストアに特化して販売しており、家電量販店などの実店舗はもちろん、大手キャリアやMVNOの取り扱いもない。ネットでしか購入できない商品のため、ユーザー層が大きく異なるというわけだ。ふらっと店舗を訪れて実機を見比べながら端末を選ぶような人ではなく、スマホの情報に敏感で、かつPOCO F6 Proを指名買いするスタイルの人がそのターゲットになる。
 Xiaomi Japanのマーケティングマネージャー、片山将氏によると、POCOシリーズは「グローバル全体で販路をオンラインに絞るなどして、高いコストパフォーマンスを実現してきた」という。もともとXiaomiはハードウェアの利益率を他社より低い5%以下に設定しており、ギリギリまで切り詰めた価格を打ち出しているが、POCOシリーズに関しては販売マージンも削減しているというわけだ。
 逆にいえば、既存の販路ありきだとここまでの価格を実現するのは難しい。既存のXiaomiのスマホと差別化できるのと同時に、コスト削減にも貢献しているといえる。こうした戦略が当たり、グローバルでは「立ち上げてから6年間で、出荷台数は6000万台を超える形になった」(同)という。販路が楽天やAmazonといった大手ECに限られているのは、この戦略を踏襲したからだ。
●スマホのオンライン販売は広がるか? 鍵になるリアルな店舗での露出
 一方で、日本では、スマホのオンライン販売が必ずしも定着しているとは言いがたい状況がある。調査会社MM総研が2024年1月に行った調査では、その比率は28.8%と全体の3割未満にとどまっている。同社が2021年12月に発表したデータでは23.3%、18年9月時点では13%と、その比率は年々上がっているものの、まだオンラインだけだとどうしても販路は狭くなってしまう。
 しかも、日本の場合、キャリア市場が強いのは周知の通り。いわゆるオープンマーケットでメーカー自身が販売するスマホの出荷台数は、10%前後の割合で推移している。オンラインの販路は、大手キャリア各社も開拓に注力しており、一部では機種変更の手数料を取らないなど、コスト面での差別化も図っている。こうした点を踏まえると、オンラインに特化し、かつオープンマーケットモデルとして販売する端末のボリュームがいかに小さいかが分かる。
 特にスマホのような商品は、使い勝手やサイズ感、カメラの画質など、スペックシートでは表しきれないフィーリングのような部分も購入時の評価対象になりやすい。iPhoneやPixelのように評価がある程度定まっており、オンラインでそのまま購入しても“ハズレ”を引くことが少ないブランドなら別だが、Xiaomiは日本に上陸してからまだ5年に満たない。その別ブランドとなると、ユーザーが認知するためのハードルはさらに高くなる。
 少なくとも、ユーザーがPOCO F6 Proを体験できるような場を作っていくことは必要になりそうだ。その意味では、Xiaomiが5月25日から9月1日まで渋谷PARCOに期間限定でオープンする「Xiaomi POP-UP Store」は、Xiaomiの他の製品だけでなく、POCO F6 Proにとっても重要な役割を果たしそうだ。
 同ストアは、Xiaomiがグローバルで展開するXiaomi Storeとコンセプトを統一した実店舗という位置付け。海外の店舗と同様、スマホやタブレットだけでなく、ロボット掃除機やバッグなどまで取りそろえており、それらを購入できる(一部大型の商品は展示のみ)。
 このXiaomi POP-UP Storeでは、POCO F6 Proも取り扱う。先に述べたようにオンライン専売という位置付けに変わりはないが、特別に販売することが決まったという。逆説的だが、オンライン専売ブランドを育てていく上では、このようなリアルな場で触れてもらう地道な取り組みが必要になる。欧州やアジアでは実店舗を構え、そのシェアを伸ばしているだけに、日本での今後の拡大にも期待したい。

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