Ryzen 7 260&Radeon 780M搭載、OcuLinkなど拡張性も充実したミニPC「Minisforum AI X1」を試す

2025年5月28日(水)12時5分 ITmedia PC USER

「Minisforum AI X1」の中身をチェックする

 ミニPCなどを手掛けるMINISFORUM(ミニズフォーラム)から、NPUを備えるAMD Ryzen 7 260を搭載したミニPC「Minisforum AI X1」が登場した。内蔵グラフィックスとしてハイエンドクラスのRadeon 780Mが利用できる上に、OcuLinkポートを使って外部グラフィックスカードも接続できるモンスターマシンだ。
 今回はRadeon 780Mの性能や、内蔵されたNPUをどう活用できるのか、実機を用いて詳しくチェックしてみた。
●小型でスタイリッシュな外観
 Minisforum AI X1(以下、AI X1)は、本体サイズが約128(幅)×126(奥行き)×52(高さ)mmとなっている。M4チップを搭載したMac Mini(※)とほぼ同じサイズで、非常にコンパクトだ。
(※)Mac Miniの本体サイズ:約127(幅)×127(奥行き)×50(高さ)mm
 ボディーカラーは全体がシルバーながら底面はブラックになっており、シンプルだがハイパフォーマンスを感じさせるスタイリッシュさがある。
 本体前面には、10Gbpsに対応したUSB 3.2 Gen 2 Standard-A端子が2基、15WのUSB PD(Power Delivery)出力に対応したUSB4端子が1基、さらに3.5mmコンボジャック、デジタルマイク×2を搭載している。
 2つのデジタルマイクはノイズキャンセルにも対応している。AI X1を卓上に設置して使うのであれば、オンライン会議などを行う際に別途マイクを用意しなくてもいいのは便利だ。
 本体背面には、2.5GBASE-T(2.5Gbps)に対応した有線LAN端子が1基、DisplayPort 2.0(リフレッシュレート最大120Hz対応)端子が1基、PCIe 4.0 x4で動作するOCuLinkが1基、USB PD入力100W/出力15Wに対応したUSB4端子が1基、HDMI 2.0出力端子(リフレッシュレート最大120Hz対応)が1基、USB 2.0 Standard-A端子が1基が備わっている。ミニPCとして考えれば豪華な構成だ。
 さらにワイヤレス機能としてWi-Fi 7とBluetooth 5.4に対応した無線LANカード「MediaTek M7925」を搭載しているため、有線接続だけではなく無線でも高速ネットワークが利用できる。
 少しマニアックな話になるが、Wi-Fi 7に対応している無線LANカードは、Intel BE200が主流だが、AMD環境で利用するには不安定な状態になるケースが多かった。メーカー側で問題を認識しているのか、AI X1ではMediaTek M7925を採用しているので、新しいもの好きには意外と刺さる特徴かもしれない。
 MINISFORUM製品ではおなじみのPCI Expressを外付けできるOCuLinkも搭載されているので、別で「Minisforum DEG1」のような外付けGPUボックスを利用すれば、デスクトップ向けのGPUを使って、パフォーマンスのさらなる底上げも可能だ。別の記事で検証しているので参照してほしい。
→・ミニPCに外付けGPUを接続できる! 約1.2万円のOCuLink拡張ドック「DEG1」、MINISFORUM AI X1で試した
 AI X1に付属してくるACアダプターは120W出力に対応しているが、背面のUSB4に100W出力に対応したUSB PDアダプターを接続しても起動できる。例えば、USB PDの100W出力に対応したディスプレイを持っていれば、電源供給と画面出力を1本のUSB Type-Cケーブルにまとめられるため、非常にスマートな環境を構築できる。
 しかし、USB PDの100Wで動作させると少しだけパフォーマンスに影響があるようで、CINEBENCHのスコアがACアダプターで稼働している状態に比べてシングルコア、マルチコアスコアともに約10%程度のパフォーマンス低下が認められた。
 ベンチマークスコア上でのパフォーマンス差なので、実用においては大きな影響はないと考えられるが、USB Type-C端子経由で電源供給を行う場合は念のため注意しておこう。
●NPUを搭載したRyzen 7 260を採用、目玉はCPU内蔵グラフィックスのRadeon 780M
 今回試しているモデルは、Ryzen 7000シリーズと同じZen 4アーキテクチャを採用したRyzen 7 260(8コア16スレッド)で、ベースクロックが3.8GHz、最大ブーストクロックが5.1GHzのRyzen 7 260を搭載した中位モデルだ。
 メモリは32GB、ストレージは1TB SSDを搭載しており、価格は直販で8万9590円となっている。ちなみにOSなしのベアボーンキットや、メモリ64GB/ストレージ1TBのモデルも選択できる。
 なお、最上位モデルでは、Ryzen AI 300シリーズのRyzen AI 9 365が搭載されており、NPUの性能を測るTOPSの値は最大50TOPS(1TOPS:毎秒1兆回の演算性能)と、こちらはCopilot+ PCのNPU要件である40TOPSをクリアしている。
 その反面、Ryzen 7 260のNPUは最大16TOPSなので、Copilot+ PCで提供されるAI機能全てを利用できるか定かではない。今後、NPUをフル活用したい場合は、この違いについては注意しておく必要がある。
 そして、内蔵グラフィックスのRadeon 780Mは「GeForce GTX 1650」の約9割の性能を発揮できると話題になっており、フルHD環境であれば内蔵GPUだけでPCゲームをおおむねプレイできるほどのパフォーマンスを発揮できる。後ほどベンチマークテストでも触れるが、Radeon 780Mのパフォーマンスの高さは良い意味で“異常”と捉えて良い。
●ベンチマークテストでAI X1のパフォーマンスをチェック!
 外観チェックや搭載されているCPU、内蔵グラフィックスについてはこれくらいにしておいて、各種ベンチマークテストからAI X1のパフォーマンスを評価していこう。
 なお、ベンチマークテストの測定は下記のモデルかつACアダプターで駆動させた環境でテストしている。
・CPU:Ryzen 7 260
・メモリ:32GB
・ストレージ:SSD 1TB(NVMe)
・OS:Windows 11 Pro
CINEBENCH R23
 まずは、3Dレンダリングを行いCPUの性能をテストする「CINEBENCH R23」を実行して、Ryzen 7 260の実力を測ってみた。結果は以下の通りだ。
 なお、手元にあったZen 3+アーキテクチャのRyzen 7 7735HS(8コア16スレッド)で測定した結果と比較しているので、参考にしてほしい。
・マルチコア
・Ryzen 7 260:1万6226ポイント
・Ryzen7 7735HS:1万1203ポイント
シングルコア
・Ryzen 7 260:1790ポイント
・Ryzen 7 7735HS:1483ポイント
 Ryzen 7 7735HSはRyzen 7 260と比較して、コア数とスレッド数は同じだが、ベースクロックが3.2GHz、最大ブーストクロックは最大4.75GHzと、どちらもRyzen 7 260と比べて幾分か低い。その違いを加味したとしても、マルチコアスコアはRyzen 7 7735HS比で約1.4倍、シングルコアスコアは約1.2倍と世代の進化を感じさせられるスコアを発揮しているといえる。
PCMark 10
 続いて、さまざまなアプリケーションを実行して総合的なパフォーマンスを測定できる「PCMark 10」を実行し、AI X1の総合的な実力を試してみた。結果は以下の通りだ。なお、今回の比較ではRyzen 7 7735HSと外部GPUであるRadeon RX 6600Mを搭載した「Minisforum HX77G」(以下、HX77G)のスコアを参考値として合わせて紹介している。
・総合スコア
・AI X1:6871ポイント
・HX77G:7428ポイント
Essentials
・AI X1:1万129ポイント
・HX77G:9886ポイント
Productivity
・AI X1:9119ポイント
・HX77G:9258ポイント
Digital Content Creation
・AI X1:9538ポイント
・HX77G:1万2150ポイント
 Webブラウジングやビデオ会議、アプリ起動時間などから一般的なPC利用時のパフォーマンスを測定するEssentialsテストにおいては、CPUパフォーマンスの高さからAI X1に軍配が上がっているが、グラフィックス性能に依存するProductivityテストはわずかな差でHX77Gに、写真編集やビデオ編集、3Dレンダリングなど、よりGPU性能に依存するDigital Content CreationテストではHX77Gと大きな差が開いている。
 ただ、ここで再び思い出してほしいのだが、HX77Gは独立GPUを採用しているが、AI X1は内蔵グラフィックスだ。この点を考慮すると、やはりRadeon 780Mのパフォーマンスの高さが際立つ。
ファイナルファンタジー14ベンチマーク
 続いて実際のゲームのベンチマークテストを通して、AI X1の具体的な実力を掘り下げてみよう。まずは「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク(FF14ベンチマーク)」を用いて、比較的動作の軽いテストを行う。
 今回は内蔵グラフィックスということも踏まえ、解像度を「フルHD(1920×1080ピクセル)」に設定した上で、画質を「最高品質」「高品質(デスクトップPC)」「標準品質(デスクトップPC)」でそれぞれテストを実施した。結果は以下の通りだ。
・標準品質(デスクトップPC):6579ポイント(やや快適)
・高品質(デスクトップPC):5601ポイント(普通)
・最高品質:3921ポイント(設定変更を推奨)
 やはり、現在発売されている独立GPUと比較すると、見劣りしてしまうスコアとなったものの、画質を落とせばフルHDであっても内蔵グラフィックスでそれなりに快適にプレイできるのは正直驚きだ。ただ、FF14ベンチマークは主要なゲームベンチマークの中では動作が軽い方なので、より重たいゲームの場合はどうなるだろうか。さらに掘り下げてみよう。
サイバーパンク2077
 続いては、一足飛びでAAAタイトルであるサイバーパンク2077のベンチマークテストを試してみよう。サイバーパンク2077でも解像度はフルHDに設定した上で、画質を「低」「中」「高」「ウルトラ」に加え、レイトレーシングの実力を測るために「レイトレーシング:低」「レイトレーシング:中」「レイトレーシング:ウルトラ」「レイトレーシング:オーバードライブ」でテストを実施した。
 Radeon 780Mはスペックシート上ではレイトレーシングに対応しているが、快適にプレイできるのだろうか……? 結果は以下の通りだ。
・低:50.1FPS
・中:42,98FPS
・高:33.93FPS
・ウルトラ:29.43FPS
・レイトレーシング:低:25.93FPS
・レイトレーシング;中:15.75FPS
・レイトレーシング;ウルトラ:11.78FPS
・レイトレーシング;オーバードライブ:4.53FPS
 こうしてみると、フルHDであっても画質設定が「高」までであれば、最低FPSが28.02FPSで最大FPSが40.75FPS、平均FPSが33.93FPSなので、そこそこプレイできると評価して良さそうだ。
 レイトレーシングを有効化する場合、一番低い「レイトレーシング:低」でも平均FPSが25.93FPSなので、フルHDではあまり快適にプレイできない。もしレイトレーシングを有効化するのであれば、解像度を1600×900ピクセルに下げると良いだろう。ただし、フルHD以下で動かすゲーム環境と割り切れば、独立GPUを用意しなくとも良いのはコストパフォーマンスの高いPCといえる。
●NPUの利用はまだ限定的
 さて、ベンチマークテストで従来のPCの使い方をした場合のパフォーマンス評価を行ってきたが、冒頭で紹介した通り、AI X1は従来のPCと違ってNPUが搭載されている。
 NPUはAI処理に特化したプロセッサで、例えば今までは高性能なGPUが必要だった画像認識や自然言語処理などを、GPUを用意せずとも、それこそAI X1のような小型PCでも省電力に実現できるといったものだ。
 しかしながら、Ryzen 7 260に内蔵されるNPUは、Microsoftが提唱するCopilot+ PCのパフォーマンス要件を満たしていないと冒頭で触れた。であれば「AI X1のNPUは無駄ではないのか」と感じる方もいるだろうが、決してそうではない。
 あくまでCopilot+ PCの要件を満たしていないだけで、NPUを利用した各種アプリケーションで恩恵は受けられる。
 ただし、現状ではまだまだNPUを搭載したPCの普及は発展途上にあるため、クラウド上のLLM(大規模言語モデル)を利用するサービスやプロダクトが多く、手元の端末のNPUを活用できるアプリはMicrosoftのCopilotやWindows Studio Effects位しか存在しないのが正直なところだ。
 加えてCopilotの場合、Microsoft 365 Personalの契約が必須なので、気軽に利用できる状況にはない。
 もしくは、AI PCでのAI推論を最適化および展開するためのツールとランタイム ライブラリである「Ryzen AI Software」を使って自身でコードを書くしかないのが現状だ。
 今後、NPUの普及がさらに進めば、Copilot+ PCの要件を満たさなくとも利用できるAI関連のアプリが出てくることを期待して待つのも良いが、AI X1を購入したのであれば、Ryzen AI Softwareを活用してAIアプリを開発する、なんてプランはいかがだろうか。
 AI X1は小型ながらCPU、グラフィックスのパフォーマンスも高く、それでいてコンパクト──全てのユーザーを通しておすすめできる製品だ。さらに最新の生成AI機能に活用できるNPUが搭載された、夢の詰まった製品とも言えそうだ。

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