MicrosoftがGitHubを買収するメリットは何か

6月14日(木)13時35分 ITmedia PC USER

写真左から、GitHubのクリス・ワンストラス現CEO、Microsoftのサティア・ナデラCEO、GitHubの新CEOに就任するMicrosoftのナット・フリードマン氏

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 6月4日(米国時間)、突如発表された米Microsoftによる米GitHubの買収。買収額は75億ドル(約8200億円)で、2018年内に買収が完了する見込みだ。
 GitHubでは半年以上前から新しいCEO探しが続いていた他、自身の売却を視野に入れたMicrosoftらとの交渉のうわさが伝えられていた。最終的には米Microsoftのサティア・ナデラCEOの説得を受け入れた形だ。
 GitHubの新CEOには、Xamarinの創業者であり、米Microsoftデベロッパーサービス担当コーポレートバイスプレジデントのナット・フリードマン氏が就任する。GitHubの現CEOであるクリス・ワンストラス氏は、Microsoftエグゼクティブバイスプレジデントであるスコット・ガスリー直属のテクニカルフェローとして、ソフトウェア関連の戦略的取り組みを担当することとなる。
 GitHubは2008年に創業した非公開企業であり、同社が提供するクラウドサービスの名称でもある。ソースコードなどバージョン管理が重要となるドキュメント群を管理し、開発者や参加するメンバーらが互いに情報共有を行いながらプロジェクトを推進していくクラウドサービスだ。約2800万人が利用している。
 もともとはLinuxの生みの親であるリーナス・トーバルズ氏が、Linuxの開発にあたってバージョン管理の仕組み「Git」を導入し、このGitを用いた派生サービスの1つがGitHubとなる。
 Gitの名称を冠するバージョン管理のサービスは幾つかあるが、多くのオープンソースプロジェクトでの利用の他、「Pull Request」などの今日の開発スタイルをけん引する仕組みを早期から導入したことでGitHubは人気サービスに成長し、開始から10年を経て「ソフトウェア開発における“レファレンスサービス”」のような形で、デファクトスタンダードに近い地位を得ている。
 もちろん、GitHubではMicrosoft関連に限らず、多くのオープンソースの技術を用いて、幅広いプラットフォーム向けの開発が行われているわけだが、Microsoftによる買収後もGitHubの独立性は保たれるという。それでは、MicrosoftはなぜGitHubを買収したのだろうか。
●買収発表後で注目が集まるGitHubの国内イベント
 偶然ではあるものの、買収を発表した翌週にあたる6月12日(日本時間)には東京都内でGitHub Satelliteというイベントの開催が予定されており、米GitHub技術担当シニアバイスプレジデントのジェイソン・ワーナー氏が基調講演で登壇することになっていた。
 本来、このSatelliteは2017年10月に米カリフォルニア州サンフランシスコで開催したGitHub Universeという開発者イベントでの発表内容を日本向けにリピートし、同サービスを利用する開発者同士の交流の場として機能するだけのはずだった。
 ところが直前にMicrosoftによる買収が発表されたことで状況は一変。その最新アップデートを求める開発者や報道関係者が集まる場となり、がぜん注目を集めることとなった。同イベントには急きょ、日本マイクロソフトCTOの榊原彰氏も登壇し、両社が買収を発表してから初の公式イベントにもなったのだ。
●「Microsoftは変わった、信じてもらうには行動するしかない」
 GitHub Satelliteに登壇した榊原氏は「設計図共有サイトのファンの皆さまへ」とジョークで前置きをして、Microsoftの目指すところと、GitHubの買収における考えを説明した。
 昨今、Microsoftは「インテリジェントクラウド」と「インテリジェントエッジ」を軸に社内体制を変革しているが、同時にかつてプロプライエタリの権化ともいわれた同社が今ではオープンソースを非常に重視していることも知られている。
 同社自身が多数のオープンソースプロジェクトを走らせている他、AzureクラウドではLinuxインスタンスをはじめ多くのオープンソースソフトウェアが稼働しており、もはやWindowsやMicrosoft製ソフトウェアであることはそれほど重要視されなくなっている。
 また、GitHub上で最も活動が活発なオープンソースプロジェクトはMicrosoftの「Visual Studio Code」であり、両社は2018年4月に米ワシントン州シアトルで開催されたMicrosoftの開発者向けイベント「Build 2018」において提携を発表している。
 とはいえ、MicrosoftによるGitHubの買収が同サービスに悪影響を与えると考える開発者や関係者はいまだに少なくない。MicrosoftがGitHubを取り込もうとし、サービスをそのものをダメにしてしまうというのだ。そのため、GitLabのような別のリポジトリにプロジェクトを移そうと訴える人もいた。
 だがMicrosoft自身は、これまでGitHub上で培われてきた開発者コミュニティーの重要性を誰よりも理解しており、その価値観を共有できる人々と一緒にやっていきたいと訴えている。「Microsoftは(昔の同社を知る人からみても)変わった。信じてもらえないならば、実際に行動で示すしかない。(過去に買収した)LinkedInやMinecraftの状況をみてほしい。そして、GitHubや開発者らと一緒により多くのことを達成していきたい」と榊原氏は述べた。
●買収によって変わるもの、変わらないもの
 榊原氏に限らず、MicrosoftによるGitHubの買収を正当化する際に必ずといっていいほど例に挙げられるのが、以前に買収したLinkedIn(ビジネス向けSNSを提供)とMojang(Minecraftの開発元)だ。
 特にLinkedInは買収総額が262億ドル(約2兆7000億円)と、GitHubと比較しても買収額の桁が違っており、Microsoftはその買収の理由について「LinkedInで得られるプロフィールとプロフェッショナルグラフの活用、Microsoftサービスの融合によるシナジー効果」を強く訴える必要があった。
 だが実際のところ、現時点で両社のサービスが効果的に融合した顕著な例はあまりみられず、両社のサービスは独立を維持する形で別々に運営されている。しかもLinkedInは買収後もデータセンターインフラを自前で増強する体制を取っており、実質的に組織体系以外の面ではMicrosoftからほぼ独立した状態にある。そのため、筆者はこの買収はあまり成功した状況にあると見なしていないが、GitHubの件に関しては話が異なるようだ。
 これについてワーナー氏に質問したところ、興味深い答えが返ってきた。「LinkedInについてはその性質上、サービスの融合を訴える必要があったのかもしれない。だがGitHubについてはナデラ氏から『変わらないことに価値がある』というお墨付きを得ている。つまりGitHubそのものがブランドであり、独立を維持して、その価値を毀損(きそん)しないことが重要というわけだ」というのだ。
 GitHubはツールや言語が複雑化する中、それらを結ぶハブとして機能しており、これにMicrosoftが独自の価値を追加する意味はないという考えだ。さらにいえば、インフラもGitHubの独自のものを維持する計画で、例えばGoogleからAzureに移行するような強引な手段をとられることもないという。
 一方で「Microsoftには優秀な開発者やエンジニアがいて、互いに交流することによって知見を得られるメリットがある」ともワーナー氏は付け加える。
 それでは、MicrosoftにとってGitHubの買収から得られるメリットは何だろうか。筆者としては、「ライバルに先んじて買収することで、開発者で最も人気のコミュニティーサイトを守った」のがMicrosoftであり、そうした「オープンソースの守護者」しての地位を得られたのが最大のメリットのように思える。
 過去にはBASIC言語で会社を立ち上げ、OS事業で成長し、プラットフォーム会社へと変わってきたMicrosoftだが、それを支える開発者コミュニティーとの付き合いは連綿と続いてきた。恐らく今後もそれは変わらず、開発者の味方という確固たるポジションをこのタイミングで得ることに価値を見いだしたというわけだ。
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

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