「iPadOS」で今度こそ“iPadがモバイルPC代わり”になるか PCユーザー視点からβ版を試して分かったこと

6月26日(水)17時40分 ITmedia PC USER

米Appleは6月24日(現地時間)、「iPadOS」パブリックβの提供を開始した。写真は、iPad OSのβ版を入れた「iPad Pro」を「MacBook Pro」に接続して利用している様子。iPadOSの正式版は2019年秋のリリース予定

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 「iOS」から「iPadOS」へ。この名称変更は、これまでiPadをモバイルパソコンの代わりに使いたいと思いつつも諦めてきたユーザーにとって、希望の光なのだろうか。
 スマートフォンと共通のOSではなくなったことで、どこまでiPadの可能性を引き出せるのか。もし生産性ツールとしての可能性を引き出せたなら、あるいは「iPad」、とりわけ外付けキーボード兼カバーの「Smart Keyboard」が提供されている「iPad Pro」はその存在意義が変わってくる。
 とはいえ、筆者は基本的にiPad Proの文書作成能力には懐疑的だ。本誌(ITmedia PC USER)に寄稿しているのだからあらためて言うまでもないが、筆者は生粋のパソコンユーザーだ。これまでにタブレット端末だけで仕事をしたいと思ったことは一度もない。単純に仕事にならなかったからで、これは昨年発売されたiPad Proの最新モデルでも変わらない。
 とりわけ日本語入力の問題は大きい。Androidタブレットであれば、ハードウェアキーボードと「ATOK」などのIMEを組み合わせる手はあるが、iPadはハードウェアキーボードにサードパーティー製の日本語入力ソフトウェアの利用を許していない。
 それならiPadではなく、Microsoftの「Surface Pro 3」以降ならば、仕事用のタブレットとして十分じゃないかというかもしれないが、Surface Proは本質的にWindows PCだ。もちろん、ペンを使えるタブレットスタイルのハードウェアでもあるが、iPadやAndroidタブレットとは異質の製品である。
 昨年発売されたiPad Proの新モデルは、その能力や美しいディスプレイ、「Apple Pencil」の書き味など、さまざまな面で多くのノートパソコンより優れた側面を持っている高性能なコンピュータだが、それでもこの端末で日常の業務をこなしたいかといえば、そこまでには至らない。
 Apple自身、発表会ではクリエイター向けツールとして強く訴求していたものの、iPadをモバイルパソコンの置き換えとしては強く押し出していない。「MacBook」や「MacBook Pro」があるのだから、これは当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。しかしながら、その事情は(ある程度予見はされていたが)iPadOSの登場で変化しそうだ。
 これまではiOSだけで、複数世代のiPhoneとiPadをサポートしてきたが、iPhoneとiPadはハードウェアのアーキテクチャこそ近いものの、プロセッサの能力や搭載メモリ容量などが異なる。iPad専用に開発するならば、画面サイズの違いや純正で用意されるキーボードも含め、異なる機能の実装ができそうだと期待できる。
 ということで、前口上が長くなったが、パソコンでしか仕事をしてこなかった筆者の視点で、「12.9インチiPad Pro」にiPadOSのβ版をインストールし、ノートパソコン代わりとして使った際のレビューを書いてみたい。
●iPad Proをモバイルパソコンとして使うことが難しかった理由
 パソコンの操作に慣れた身からすると、そもそも分割表示機の「Split View」や、「Slide Over」と呼ばれるポップアップするウィンドウを駆使し、さらには単一アプリが開く複数の文書を一覧して選択できる「Expose」など、マルチウィンドウで扱うような操作手順をiPadで使うための作法を覚えねばならないというハードルが、まずはある。
 「3本の指で選択したテキストをつまむとコピー」「3本指で開くとカーソル位置にペースト」、他にもテキスト選択時のタップの使い方など文字列の扱いも直感的とは言い難いだろう。実際に試してみると、なるほど簡単に操作できるのだが、調べて覚える必要がある(キーボードで操作すれば事足りることだが)。
 とはいえ、これはあまり大きな問題ではない。iPadではパソコンのように多数のウィンドウを同時に表示して操作はできないが、ほとんどの操作は2つの作業領域を同時に表示できれば進められる。最初の一歩として、作法を学ばねばならないことは致し方ないとして、出先で使う手軽なコンピュータという魅力があるなら習得すればいいだろう。
 しかし日本人の場合は、日本語入力がやや高いハードルになっていた。その次に来るのは、恐らくデータの扱いに関するものだろう。iOSにも「ファイル」アプリが用意されたものの、機能的な制約は小さくなかった。
 セキュリティ上のことを考えれば好ましいといえなくもないが、USBメモリの接続には制限があり、LANでつながるはずのNASにアクセスする手段もない。データを共有したければ、まずはクラウドへと書き出すなどの工夫が必要だった。
 iOSの共有機能もややくせ者で、筆者がいつも使っているテキストエディタ「Ulysses」のiPad版から文書ファイルを生成して共有しようとすると、相手先のアプリによっては正常にファイル共有できない場合ある。例えば「Facebook Messenger」への共有では、何らかのアイコンらしきものは送信されるが、その中身は開けないといった具合だ。
 もちろん、純正の「iMessage」などでは正常に共有できるのだから、純粋にアプリ側の問題ともいえるが、結局のところいったんMicrosoftの「OneDrive」にアップロードするのが一番シンプル(だと筆者は感じた)だったりと、一体何のためにシンプルな道具を望んでiPadを選んでいるのか分からない状況にすらなってくる。
 新たな操作性を習得するのは難しい話ではないが、データのハンドリングまで制約やノウハウが必要となると、「何のためにiPad Proを使うのか?」という疑問に立ち返らざるを得ない。
 「別にiPadをそこまでして使わなくてもいいのに」——Apple Pencilのようなペン入力などを不要としているパソコン派ユーザーの多くは、そうした結論に行き着く。
 しかし、iPadOSとなって幾つか事情が変化してきた。AppleのWebページでiPadOSの情報を見ると、より情報ツールとしてリッチに、パソコン的な使い方も可能になったことが訴求されているが、本当に評価すべきなのはもっと“地味”な部分にある。評価すべき点は3つだ。
・日本語入力
・ファイルの扱い
・Webブラウザ
 この3つに関して納得できれば、モバイルコンピュータとしてのiPad Proは、用途次第でノートパソコン代わりになり得る。
●“創意工夫”しなくともiPadでファイルを扱えるように
 前述したように、iPadでのファイルの扱いには制約があった。スマートフォンを出発点としているのだから、それもそのはずとはいえ、Macとの差は大きかった。
 iPadOSの「ファイル」アプリでは、ファイルを「3D Touch」(画面を強く押し込む操作)でプレスすると右クリックメニューのようなファイル操作の一覧が表示され、クイックルック(プレビュー表示)からファイル情報、各種ファイルの操作などが行える。タグを付与したり、ZIPで圧縮したりといった操作さえも可能になった。おおむねファイル操作に関しては、不満なく行える。
 アクセスできるメディアも、NASやUSBメモリのファイルアクセスが解禁となったことで大幅に自由度が高くなった。事実上、何でもOKに近い。これらはiPhoneでもアクセス可能になっているため、iPadだけの特徴というわけではないが、iPadでこそ生きてくる機能といえる。
 よりMacの「Finder」に近くなり、ファイルの共有範囲が広がったのだから、これまでのようにiPadならではのノウハウで何とか乗り切るとなどの工夫や知識も不要になったことは評価できるだろう。何らかの形でUSBメモリカードリーダーをつなげば、ファイルを普通に扱えるようになる。
 MacやWindowsほど自在なのかといえば「ノー」だが、どうすればよいか分からず途方に暮れることはなくなった。
 iPadだけでオフィスワークの全てをこなそうと思えば、そこにはまだハードルがあると思うが、「出先での作業は全てiPadで」ということならば、特に問題はない。
 しかし、こうしたファイル扱いに関する、ある意味、緩和措置はブラウザである「Safari」の使いやすさにもつながっている。
●ショートカット追加とダウンロード対応強化
 iPadの標準WebブラウザであるSafariは、これまでもMac版との互換性は高かったが、ファイルの扱いが異なったため、コンテンツをダウンロードして楽しむということができなかった。
 例えばビデオファイルをクリックすれば、それはビデオファイルの再生を意味した。しかし、ファイルブラウザを使ってファイルを扱うという、iPhoneでは禁じられた操作を許可したことで、ダウンロード機能がMacと同様に使えるようになっている。
 これまでは複数のファイルを並行してダウンロードしながらブラウズするなどは、どうやってもできそうに感じなかったが、Mac版と同様の並列ダウンロードの表示となり、iPad内はもちろん、各種クラウドストレージやNAS、USBメモリなどに格納できるようなった。
 扱えるファイルの範囲を広げたことは、セキュリティ上のリスクでもあるが、iPhone向けOSとあえて別々のOSとすることで、使い方と求められる機能、セキュリティのバランスをデバイスごとにうまく取ったともいえる。もちろん、そこには賛否両論があるだろう。
 また、SafariはiPhoneの標準ブラウザということもあり、iPadなのにレイアウトはiPhone向けという実に残念な結果になることもあったが、AppleによるとこれもMac向け(パソコン向け)レイアウトでの表示が優先されるようになるという。
 実際、使っていてもパフォーマンスが良い上、レイアウトや表示内容はリッチなパソコン版で、それでいてキーボード操作もタッチ操作も受け付けるため、実に快適だ。とって付けたように感じるかもしれないが、4:3の画面レイアウトもWebを見る上では縦方向が長い分、見通しがよくMacよりも使いやすい。
●日本市場に攻勢をかける“本丸”は日本語入力機能の充実
 この他にも、Apple Pencilの入力レイテンシが20msから9msにまで短縮したり、Apple Pencilの基本機能を提供する「パレット」をAPIでサードーパーティ向けアプリに提供したりすることで、ペン入力アプリの充実を狙っている。また、フローティングの小型ソフトウェアキーボードを搭載することで、両手でタブレットをホールドしているときに親指で操作可能にするなど、実にさまざまなアップデートが行われた。
 しかし、やはり日本市場向けという意味では、大幅な日本語入力機能の改善が最も大きなトピックだ。
 先に結論を書いておくが、iPadOSの日本語入力機能は、一部に慣れも必要ではあるが、「macOS」の日本語入力と遜色ないか、あるいは操作性を含めたトータルの印象は上かもしれない。少なくとも、筆者は文章を書く仕事をする上で、10月に正式版になったときには十分に仕事に使える入力環境だと思う。
 iPadOSの(iOS 12と比べた)日本語入力機能の改善は、極めて多岐にわたっているが、ポイントをかいつまんで紹介する。
 iPadOSの日本語変換では、ハードウェアキーボードを使っている際に表示される言語バーに、直前の変換結果の確定後、予測変換が表示される。さらに入力を進めると、今度は入力した文字に合わせた予測変換候補が表示され、タブキーかスペースバーを押すことで予測変換の選択モードへと移行する。
 タブキーとスペースバーには、実は微妙な振る舞いの違いもある。タブキーは予測変換候補に直接飛ぶが、スペースバーの場合はローマ字の入力列などをいったん整理、かなにしてから変換する。ほぼ同じ結果になるのだが、例えば「an」とタイプすると予測変換候補が幾つか出る。ここでスペースバーだと「あん」というかなをベースにした予測変換候補になる。
 さらに、iOSでは簡単に入力できなかった全角スペースが入力可能になった。日本語入力モード時にスペースバーを押すと全角文字が入力される。さらに変換後に確定した文字が全角ならば、その後にスペースバーで入力されるのも全角スペースだ。一方で、半角英数文字の単語を確定した直後にスペースバーを押すと半角スペースとなる。
 この辺りは、直前の文字種に合わせてシステム側が最適な空白を入力しているのだろうが、少しばかり余計なお世話ではある。しかし、慣れればそういうものだと納得できるのではないだろうか。
 なお、シフトキーを押しながらスペースバーを押した場合は、それぞれの“反対側”の空白が入力される。
 学習結果の編集が行えず、学習のオン・オフが行えないことに変わりはないが、明らかにミスタイプと思われる変換結果の学習をいつまでも引きずる悪癖はなくなっていた。ローマ字入力時のストレスも少なくなっており、「n」や「x」「l」といった、伝統的に日本語入力IMEのローマ字入力で重要なキーの扱いが納得感のあるものになっている。
●「自宅はMac+出先はiPad Pro」のリアリティー
 ただし、あらゆる面で改善されているわけではない。システム上、恐らくはすぐに改善できないこともあるはずだ。例えばハードウェアキーボードを使う際、サードパーティー製の日本語入力ツールを使えないのは、恐らくセキュリティ上の配慮からだろう。
 また理由は分からないが、変換候補を数字で選んだり、あるいは片仮名、平仮名、英数(英数大文字、小文字、頭だけ大文字などトグル変換)など、特定の文字種にキーストロークを読み直したりする操作も、iPadOSにはまだ搭載されていない。
 もちろん、全てのパソコン的なIME操作を導入しなければ使い物にならないというわけではない。また可能な限り設定項目を減らしたいといった意図もあるのだろう。
 しかし1世代で(しかもまだβ版である)これだけ改善したのだから、今後、iPadOSが向かう方向が見えたともいえる。
 また次期Mac用OS「macOS Catalina」と組み合わせた場合に実現できる、iPadをセカンドディスプレイ+ペン入力ツール+タッチ操作デバイスとして利用可能にする「Sidecar」機能の存在もiPadの価値を高めている。
 実際にMacとiPad Proを組み合わせて使ってみると、Wi-Fi接続ですらリモート接続であることを大きく意識せずに、Macの周辺デバイスとして利用できる。
 Mac側のアプリがペンやタッチ操作に対応している場合(Adobe Photoshop CCなど)は、Apple Pencilで筆圧や傾き検出のドローイングが可能な上、拡大縮小や移動などはタッチパネルで行える。これはかなり便利だ。
 また地味に便利なのが、Smart Keyboardを用いて、Sidecarに表示されているMac用アプリに文字入力できること。斜めに頭を向けて入力するのではなく、iPad Pro側を向いて正面からキーボード操作できるのはうれしい。
 用途次第ではあるが、自宅やオフィスではMacをメインで使い、出先ではiPad Proを使い、屋内ではMacの周辺デバイスとしてiPad Proを併用するといった使い方が、今後は試されるようになるかもしれない。我が家の場合でいうならば、Mac mini+iPad Proの組み合わせだろうか。
 iPadOSの完成度や、今後の洗練度の向上次第では、製品の選び方が変化するかもしれない。少なくとも筆者の海外出張時のカバンには、MacBook ProとiPad Proの両方が入れられることになりそうだ。
[本田雅一,ITmedia]

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