電気自動車の航続距離を伸ばすワイヤレス充電技術

7月3日(水)7時1分 マイナビニュース

自動車産業は、駆動系が内燃機関(ICE)から電気モータへと移行する中、歴史上最大の変革期を迎えています。最新の電気自動車(EV)の航続距離の向上に向けた技術開発が急速に進歩を遂げている一方で、導入に対する最大の障害のひとつに、バッテリーが切れて立ち往生すること、いわゆる「航続距離の不安」に関する消費者の懸念があります。

この課題に対処するために、バッテリーの性能向上と車両の効率向上に多くの労力が払われてきましたが、その他の取り組みにも注目が集まっています。もっとも興味深い事例の1つは、EVを無線(ワイヤレス)で充電することで、車両の走行中に電源に配線を接続することなく、バッテリーに充電をすることを可能とします。こうしたEV向けワイヤレス充電(WEVC)を成功させるうえで、半導体技術が重要な役割を果たしています。

新技術を普及させるには、変革プロセスをともない、変化のための変化を楽しむ「新しいもの好き」ではなく、多数の一般消費者を獲得するために悪戦苦闘することも少なくありません。EVはまだまだ開発の初期段階にあるため、予想より導入が遅く、その理由の1つとして、たびたび航続距離と充電に対する不安が挙げられてきました。

フル充電の場合でさえ、平均的なEVの航続距離はガソリン車に比べてはるかに短く、近辺への通勤や買い物といった用途以外での、長距離の移動には注意が必要です。すなわち、家から離れた場所で再充電の必要が生じる可能性が高くなるのです。しかも現状、充電スタンドはガソリンスタンドほど多くはないので、立ち往生してしまう可能性や不安がつきまといます。充電時間についてはパワーマネジメント技術の進歩により、最近ではかなり短縮されつつありますが、従来の燃料補給のための停車時間に比べると、まだはるかに長いのが実情です。

充電のためのインフラは、特にディーゼル車の排ガス不正スキャンダルに対する合意の一部として、米国の無公害車向けインフラに20億ドルを投資しているVolkswagenなどの企業努力もあって急速に拡大していますが、多くの企業が、さらに簡便に車両を再充電できる方法についての検討を進めており、その中の候補技術の1つとしてWEVCの評価も進められています。

WEVCは新技術として見られがちですが、実は100年以上の歴史があります。1894年にニューヨーク市において、ニコラ・テスラが実験室を隔てたところにある電球を点灯させて、この技術の実現可能性を実証しました。最近のモバイルデバイスの増加により、主としてユーザにとって利便性が高まることから、この技術が時を経て再び注目を浴びることになったのです。
○ワイヤレス技術の原理

ワイヤレス充電の原理はコンセントからケーブルを使って充電するのと良く似ています。ケーブルを使った充電の場合、コンセントからの電圧を直流(DC)に変換してバッテリの充電に使用しています。電力レベルが高い場合には、力率補正(PFC)段を使用します。コンセントを使用する充電器のほとんどが絶縁トランスを採用していますが、これがワイヤレス充電器とケーブル充電器の本質的な違いとなります。

有線アプリケーションでは、トランスはコアを有する単一ユニットであり、一次側で発生した磁束は、(ほとんどが)二次側に結合されます。これにより、高レベルの電力伝送が達成され高効率の充電が実現されます。

ワイヤレス充電器は、トランスを一次側と二次側に分割し、一次側(送電器)を充電器に残して、二次側(受電器)を充電デバイス側に取り付けます。一次側と二次側の距離は、アプリケーションによって異なり、充電器の性能に大きな影響を与えます。

ワイヤレス充電では、トランスのコアを空気に置き換えることによって磁束の伝達効率が減少します。コアを有するトランスの結合係数(k)をほぼ1とすると、ワイヤレス充電では、kは0.25という値に近くなります。実際の値は、2つのコイルの距離に反比例し、一次側と二次側が正しく位置合わせされていない場合にも減少します。

しかし、一次側と二次側の両方に磁気共鳴を導入することによって、この状況を改善することがわかっています。2つの同調回路を使用することにより、電力が特定の周波数で伝送され、電力伝送効率を非共鳴方式に比べ約2倍にできます。

この方式の他のメリットとして電磁干渉(EMI)性能の向上が挙げられ、これはワイヤレス充電を広範囲に展開する場合には不可欠です。この方式では、ゼロ電圧スイッチング(ZVS)やゼロ電流スイッチング(ZCS)などの手法も使用でき、効率の良い電力伝送を実現する上で役に立ちます。
○WEVCの現状

有線での充電は、確かに当面の間は、深く放電したバッテリの再充電に対しては最良の方法と言えますが、WEVCの目標は車両走行時でのバッテリへの電力補給です。車両が走行中に充電されるため、航続距離が伸びるほか、充電の機会が増えれば、容量のより小さな小型のバッテリを搭載するだけでよくなり、バッテリシステムや車両全体の重量の軽減による航続距離の延長も期待できるようになります。

近年、多くの学術機関や企業がWEVCを実現するシステムの試作品開発に関わっています。そのシステムの中には、静的なWEVCを目標として設計されているものもあります。例えば、Fraunhofer Institute for Integrated Systems and Device Technology(IISB)が開発しているシステムは、車両の前部付近にコイルを配置するため、コイルサイズの小型化を可能としています。

また、米国中央メリーランドの地方公共交通機関管理センターは2017年、道路に沿って静的充電スタンドを導入。バスが乗客の乗降している間にバッテリを充電することで、航続距離を伸ばせることを実証しました。これにより、今では、EVバスがバス路線網のいずれのルートでもカバーできるようになりました。

ワイヤレス充電の究極の目標は、高速走行中であっても車両を充電できるようにすることであり、多くの企業がこの分野で開発を進めています。例えば、Qualcommの動的EV充電(DEVC)システムは、時速約60mph(約96.5km/h)の速度で最大20kWの電力を供給できることを実証しています。その他の重要な開発としては、日本の自動車メーカーであるホンダが大電力の動的充電に関する論文を発表。最大時速96mph(約154.5km/h)の速度で走行中に充電できる充電電力が180kW(600V DC@300A)のシステムに関する試験について報告しています。

個々のアプローチはそれぞれに大きな進歩を遂げていますが、多様なアプローチの相互運用が必須であるため、この目標に向けて米国自動車技術者協会(SAE)は最近、SAE J2954規格を発行しました。この規格は、11kW電力レベルまでのワイヤレス電力伝送に対する初の世界的な仕様です。
○まとめ

ワイヤレス充電は、航続距離に対する不安など、EVへの反対感情を克服する鍵を握っており、この技術の世界的規模での導入への動きに期待が集まっています。米メリーランド州のバスシステムのように初期展開ですでに実績を収めた例もありますが、現在Qualcommやホンダが試験中の動的充電法は、最終的にはガソリン車を越える航続距離と利便性を備えるというEVの究極の目標を達成することになるでしょう。

この変革の中心に位置するのは半導体デバイスであり、このような理論上の解決策を量産化につなげる実デバイスと成功させるのに必要な効率および信頼性を提供します。

ON Semiconducotorもこの分野に対して積極的に取り組んでおり、パワーマネジメントや高効率電力変換に関する幅広い経験を積んでおり、対応するデバイスとしても、高効率IGBTやMOSET、MOSFETドライバ、電圧および電流管理システム、AC-DCコントローラおよびレギュレータ、インテリジェントパワーモジュールおよびバッテリ管理用製品などのディスクリートスイッチングデバイスを含む、広範な製品群を提供しています。

著者プロフィール
Majid Dadafshar
ON Semiconductor
プリンシパル・フィールド・アプリケーション・エンジニア(FAE)
コマーシャル/ミリタリ・アプリケーション向けのパワー・エレクトロニクス製品の設計デザインで33年以上の経験を有している。
4つの特許を保有し、電源設計、磁気、EMI、ループ安定性、MEMS、RFPAに関する数多くの技術論文を発表してきたほか、国内外のさまざまなシンポジウムで、数多くの電子技術会議の開催に携わっている。

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