大河原克行のNewsInsight 第305回 三菱電機の静岡製作所を見てきた - 空調事業の主力工場、「霧ヶ峰」の生産拠点

2024年7月8日(月)14時55分 マイナビニュース

三菱電機は、静岡製作所ルームエアコン工場を報道関係者に公開した。
静岡製作所は、同社空調事業の主力工場のひとつであり、2024年に設立70周年の節目を迎えている。
三菱ルームエアコン「霧ヶ峰」シリーズの生産拠点として、設立以来、高付加価値モデルから標準モデルまで、エアコンの全数を国内で生産。ルームエアコンとハウジングエアコンをあわせた霧ヶ峰シリーズ全体の累計生産台数は4400万台以上に達しているという。静岡製作所における取り組みを追った。
○各部門を集約することで高品質なモノづくり目指す
三菱電機静岡製作所は、1954年4月に、名古屋製作所静岡工場として創立。操業開始当初からルームエアコンの生産を行っており、同年に小型エアコン第1号である「ウインデヤ」を発売。1967年にはセパレート形エアコン「霧ヶ峰」の生産を開始した。2024年には群馬製作所の給湯事業を静岡製作所の管轄へと移行している。
静岡製作所の敷地面積は20万6246平方メートルで、東京ドーム4.4個分の大きさとなる。
従業員数は5800人で、国内向けに出荷する10シリーズ71機種の「霧ヶ峰」シリーズのほか、パッケージエアコン「Mr.SLIM」、冷蔵庫、空調および産業用圧縮機、A2W(ヒートポンプ式暖房・給湯システム)を生産している。また、静岡製作所に管轄を移管した群馬工場ではエコキュートを生産している。
ルームエアコンについては、企画から設計、開発、生産、販売、サービスまでの各部門を集約した体制を、静岡製作所内で確立しているのが特徴だ。また、製造工程では、熟練の作業者がDXとの組み合わせにより、高品質なモノづくりを実施。高機能モデルから標準モデルまで、全品検査を行うことで、出荷品質問題ゼロを目指して点も見逃せない。
三菱電機 静岡製作所 所長の小野達生氏は、「静岡製作所では、『人に社会に思いやり。持続可能な未来を創る静岡製作所』を経営理念とし、三菱電機が取り組む『循環型デジタルエンジニアリング』を追求しながら、日々変化する顧客の要望など得られたデータを集約、分析することで、グループ内連携によって、新たな価値を生み出していくことに取り組んでいる。静岡製作所には、営業、マーケティング、企画、開発、製造の各部門が同居しており、時代に応じた社会課題やニーズを製品開発にいち早く反映し、タイムリーに多種多様な製品を届けることができる点が強みである」と説明した。
霧ヶ峰では、「人をもっと快適にできるはずだ」をブランドパーパスとして、人を中心とした快適性を追求。センサー技術や省エネ性、清潔性へのこだわりを通じて、一人ひとりにあった快適性の実現に挑戦していることも強調した。
一方、三菱電機が推進するサステナビリティ経営においても、ルームエアコンをはじめとした空調事業が貢献しているという。三菱電機全社では、サステナビリティ経営として、5つの課題領域に注力することを掲げているが、空調事業では、そのなかから、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ウェルビーイングの3つの課題領域において貢献しているという。
三菱電機 静岡製作所 副所長兼営業部長の堀越嘉憲氏は、「幅広い機種をラインアップし、機能や工夫によって、社会課題やトレンドに対応している。酷暑や熱中症への備えとして、エアコンが必需品となる一方で、電気代の高騰により、省エネや節電意識が高まっている。また、複数台需要の増加や、寒冷地需要の増加などもあり、こうしたニーズにも対応している」と語り、高APF機種により環境負荷の低減や省エネへの貢献、同社が得意とするセンサー制御による省エネの実現のほか、2024年問題による省人化ニーズに対しては、施工性や運搬性に配慮した室内機の開発や、業界最小サイズとなる室外機を製品化。ムーブアイとエモコアイを組み合わせたエモコテックにより、人の感情を推定した快適制御を行う技術の提供や、汚れ予防や自動洗浄などによる清潔性を実現することによって、様々な社会課題やトレンドに対応していることを示した。
静岡製作所には、生産時の4つのこだわりとして、キット生産や作業ナビによる「生産方式」、機械化や自動化による「生産設備」、高度な技術を持つ技能者による生産および検査を行う「技能者」、通電検査や異音検査、外観検査による「全品検査」を掲げている。これに製造DXを組み合わせて、モノづくりを日々進化させている。
「品質を高いレベルで保つためにデジタル管理された生産計画に基づき、1台分の部品を品揃えしてから組み立てを行うキット生産方式を採用。作業ナビとの組み合わせによってヒューマンエラーを無くすことができる。また、高品質と高効率を両立するために自動化した生産設備を導入。稼働状況をモニタリングし、不具合状況の早期改善、設備トラブルの未然防止により、稼働率を向上させている。さらに、頻繁な生産する機種の切り替えへの対応や、ろう付けなどの複雑な作業を高度な技能を持った技術者が行っている。ろう付け作業の現場では最適な温度での作業を行うといった特別な技能の伝承にDXを取り入れている。そして、出荷するすべての製品に対して検査を実施しており、不具合が発生した際には、その場でタブレットに情報を入力し、早期に発生原因の追求、分析が行えるようにしている」(同社)という。
生産棟のなかでは、歩車分離を徹底しているのも特徴だ。作業者が危険な状態のなかで仕事をすると、焦りが出てしまい、品質に影響することを考慮。構内ではフォークリフトや自動搬送車を通行させない仕組みとなっている。
また、「工場内では、ルームエアコンの心臓部である圧縮機も生産している。さらに、圧縮機をコントロールするインバータも作っている。エアコンの組立だけでなく、キーとなるパーツも生産し、それを使いこなす拠点になっている。これか省エネナンバーワンを維持することにもつながっている」(三菱電機 静岡製作所 ルームエアコン製造部長の中川英知氏)と自信をみせる。
そして、「全機種の静岡における国内生産にこだわってきたのは、必要なときに、必要な製品を届けるためである。競合他社では国内生産に戻す動きもある。他社が三菱電機の良さに気がつき、追いついてきた」とも語った。
当面は、国内生産能力を増強する投資は考えていないが、IoTやAIによる品質風土改革や業務効率化に対する投資は進めていくという。
静岡製作所のルームエアコンの生産棟は2フロアで構成。1階では、室外機の前半工程や熱交換器の製造工程、Zラインのセル生産工程がある。とくに、熱交換器製造ラインは、業界で唯一の完全自動化ラインとなっており、業界トップの生産スピードを誇る。2階は室外機の後半工程、室内機製造工程、梱包および出荷工程となっている。
○霧ヶ峰の製造ラインを見てみる
それでは、ルームエアコン霧ヶ峰の製造ラインの様子を見てみよう。
○霧ヶ峰の未来を切り開く研究棟
静岡製作所には、多様な住環境を再現する試験棟の「霧ヶ峰みらい研究所」がある。
2015年に設置した同研究所は、「人を中心とした快適を実現する霧ヶ峰の未来を切り開くための最新の研究を行う場所であることから命名した施設」だという。
試験室は、最低温度はマイナス40℃、最高温度は54℃までの設定が可能で、室外の降雪状態を作るなど、過酷な環境を含めた様々な住環境を再現して、研究開発を行っている。「海外での寒冷地モデルの普及を見据えたマイナス温度設定と、中東での過酷な暑さにも耐えられる実験が行えるようにしている」という。
32畳の空間を4つの部屋に分割することが可能で、間取りによって異なる気流の流れを可視化。天井からぶら下がった温度計により、部屋の温度を立体的に計測する。室内に設置されている計測センサーは、温度分布測定計が2592点、湿度分布測定計が16点、風速分布測定計が300点を設置。かなり詳細な空間計測が可能だ。
また、人感温度を可視化する高精度サーマルマネキンを設置しているのも特徴だ。グラスファイバーで作られたこのマネキンは、人体の発熱や皮膚の表面温度までを考慮して、人体の熱損失量を測定することができる。全身を22部位に分割した計測が可能で、指先温度は0.1℃単位で確認することができるという。
静岡製作所には、体感型ショールーム「Galerie(ギャラリエ)」も設置されている。
ここでは、実機をもとに、清潔性、快適性、施工性へのこだわりを紹介。4D VRシアターでは、壁3面にプロジェクターで映像を投影し、立体感がある環境のなかで、静岡製作所のモノづくりに対する姿勢を紹介している。

マイナビニュース

「生産」をもっと詳しく

「生産」のニュース

「生産」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ