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チャーミングな粒子をCERNが発見、物理学の標準理論に修正を迫るか

GIZMODO7月10日(月)19時7分
チャーミングな粒子をCERNが発見、物理学の標準理論に修正を迫るかImage: Ryan F. Mandelbaum / Gizmodo US


可愛くてレアな粒子の組み合わせ。

スイスの欧州原子核研究機構(CERN)にある大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の研究チームが、新たな粒子を発見しました。厳密には、新たな粒子の組み合わせといった方がいいかもしれません。5年前にLHCで見つかったヒッグス粒子ほどのインパクトはないにしろ、その粒子の組み合わせには過去に発見された類似の粒子の存在と食い違う部分もあり、ちょっとした話題になっています。

でも過去の研究と食い違うからって、単に「過去の実験と今回の実験、どっちが正しい? 」という話ではないよう。もしかしたら、それらの実験が前提としてきた素粒子物理学の標準理論の修正を迫る議論に発展するかもしれないんです。


チャーミングな粒子は、重い

今回CERNで発見された粒子の組み合わせはその名も「Ξcc++ 」(「カー・サイ(日本語ではグザイ)・シーシー・プラスプラス」と読むそうです)、これは「ふたつの電荷を帯び、ふたつのチャームを持ったグザイ粒子」を意味します。この、かわいいんだかクサイんだかよくわからない粒子の何がすごいかっていうと、その「チャーム」がふたつあるってことなんです。

「チャーム」とは、物質の基本的な構成要素であるクォークのひとつです。クォークにはほかに、アップ、ダウン、ストレンジ、トップ、ボトムという(おかしなネーミングの)種類があって、その組み合わせ方によって違う粒子になります。たとえば陽子や中性子もクォークからできていますが、陽子はアップ2個とダウン1個の組み合わせで正の電荷ひとつ、中性子はアップ1個とダウン2個の組み合わせで電荷なし、となっているのです。

で、今回見つかったグザイcc++はというと、アップ1個にチャーム2個という組み合わせで、電荷はふたつ。New York Timesによれば、チャームが2個の粒子の存在そのものは標準理論でも予測されていました。じゃあチャーム2個だと何がすごいのか、米ギズモードではオランダの素粒子物理学国立研究所NikhefのPatrick Koppenburg氏に話を聞きました。

「チャームクォークはペアで生み出されますが、同じ粒子にふたつのチャームを有することは非常に珍しいのです」Koppenburg氏は米ギズモードに語りました。クォークの中でもっとも重いのがチャーム、ボトム(別名ビューティ)、トップ(別名トゥルース)ですが、Koppenburg氏いわく、トップは重すぎて他のクォークと結合できなさそう。それ以外のクォークは、理論上は2個とか5個とかがくっつくことができ、またはものすごい高温下なら液状クォークみたいなものにもなりえるそうです。


New observation of a doubly-charmed baryon by @LHCbExperiment https://t.co/pBL7Fja4l0 pic.twitter.com/2ZiFcrKqP7— Patrick Koppenburg (@PKoppenburg) 2017年7月6日



それでも、3つ以上のクォークを持つ多くの粒子の中で、「重いクォークであるチャーム、またはビューティがふたつあるものはまだ見つかっていなかった」とKoppenburg氏は言います。つまり今回の発見は、理論上あるあると言われていただけの存在が「ある意味で初めて」見つかったものなのです。


過去研究との食い違い

ここで「ある意味」初めてと言ってるのは、過去にも似たような観測結果があったからです。2002年、米国のフェルミ研究所のSELEX実験から、グザイcc+(+はひとつだけ)なる粒子の発見が発表されていました。

それは、チャームをふたつ持ち、ひとつの電荷を帯びた、グザイ粒子とされています。ただし、LHCbが今回見つけた粒子が「チャーム・チャーム・アップ」の組み合わせなのに対し、フェルミ研究所が発見したものは「チャーム・チャーム・ダウン」でした。また、前者は電荷がふたつ、後者は電荷がひとつであるのも相違点です。

Koppenburg氏いわく、他の研究グループでもSELEXの発見した粒子の再現にチャレンジしているものの、無事再現成功した例はまだありません。そのうえでLHCbの発見があったので、SELEXの発見にはさらなる疑問が投げかけられています。「これ(LHCbの新たな粒子)はSELEX実験とは質量が大きく異なっており、本当にその質量であるという信ぴょう性を下げています」とKoppenburg氏。質量の違いがどれくらいかというと、LHCbで発見された「チャーム・チャーム・アップ」の粒子の質量は3600MeVほどで、陽子の質量の約4倍でした。それに対しフェルミ研究所が発見した「チャーム・チャーム・ダウン」の粒子は100MeVほど軽いとされていますが、クォークの違いは、3つめがアップかダウンかというだけです。でもアップもダウンも非常に軽く、100MeVの差ができるほどではないと言われているんです。

ただ新たなCERNの論文では、SELEXのグザイcc+再現を試みた他の実験環境がSELEXとは違っていたことも指摘しています。つまりSELEXの方も、第三者が再現できていないというだけで、間違いが証明されたわけではないということです。この論文は、学術誌Physical Review Lettersの次号で発表される予定です。


前提の理論が矛盾の大元?

そこで米ギズモードでは、SELEX実験でスポークスパーソンを務めた人物のひとりでカーネギーメロン大学の物理学教授、James Russ氏にもコメントを求めました。Russ氏はそのときまさに、CERNの新たな論文を読み始めるところだったと言います。彼は、問題のふたつの粒子は別ものであること、SELEXの結果は非常にクリーンであることを改めて指摘しました。そして彼は、今もグザイcc+の存在を信じている一方、LHCbの発表の重要性も認めています。「新たな観測結果を得たことで、理論は一定の方向へと向かっていくでしょう」とRuss氏は言います。「なのでこれは、間違いなく重要な観測です。」

その後Russ氏はLHCbの論文を読み終えると、彼らの観測は「しっかりしている」とコメントしました。アップ、ダウンといった軽いクォーク同士の違いのわりには質量の差が大きいことに関しては、クォークの性質が原因である可能性は低いとも言っていました。「どちらの実験でも、分析は正しく行ったように見えます」とRuss氏。「両方の粒子が実在するならば、同じ『チャーム・チャーム・クォーク』の組成でなぜ異なる挙動をするのか、理論に関する疑問が生まれます。」

その疑問への答えは、簡単には出ないでしょう。これらの粒子が存在する時間はピコ秒単位、つまり一瞬で他の粒子へと崩壊していくのです。でもこれら粒子はほぼ光速で飛んでいるので、崩壊するまでに数mmほどは移動していて、LHCb実験ではその痕跡を追うことで新たな粒子の発見が可能になるのです。

こうした粒子を観測するときは、バックグラウンドにあるあらゆる粒子が起こすノイズの中から、めぼしいデータを見分ける必要もあります。でも研究チームは、今回の粒子がたまたますごいものと誤解されてしまったものである確率は「12シグマ」、つまりきわめて低いと言っています。


標準理論が進化するかも

米ギズモードでは、LHCbの研究者にもコンタクトしていました。彼らは、この新たな粒子の発見によって素粒子物理学全般の理解が深まり、クォークの挙動に関する理論を洗練させられると考えています。

「自然の中には考えていた以上に複雑な構造があることを、我々は理解しつつあります」シラキュース大学の物理学者、Sheldon Stone氏は米ギズモードに語りました。グザイcc++粒子は地球上では実験の中でしか存在できませんが、すべてのものがはるかに高温で緊密であったビッグバン直後には存在していたと考えられています。クォークがどのようにまとまっていくかを理解することで、原初の宇宙における物理作用がどのようなものだったのか、さらに理解が深まるかもしれません。

万一標準理論が覆されたりしたら…それはそれで面白いかもしれませんが、Stone氏いわく、グザイcc++に関しては質量理論研究者も期待しているそうです。Stone氏はこう語りました。

「今回は、理論研究者も喜んでくれていますよ。」


Image: Ryan F. Mandelbaum / Gizmodo US
Source: CERN, Twitter, New York Times, Science Direct

Ryan F. Mandelbaum - Gizmodo US[原文](福田ミホ)
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